前回はタイトルに「電流」と書きながら、オフセット電圧が電流に変わる、という程度で電流に関してほとんど触れませんでした。
今回は入力バイアス電流について触れておきたいと思います。

理想オペアンプでは入力端子には電流は流れない、でしたが完全な絶縁体で無い限り電圧を掛ければなにがしかの電流が流れます。さらにオペアンプは半導体ですので、絶縁体よりは少なくとも流れると思った方が良いわけです。
それで問題はその量と云うことになります。

オペアンプにも色々種類があって、入力段に関して云うとバイポーラ入力、J-FET 入力、MOS 入力という感じです。で、この順番に入力電流が小さくなります。
あまり細かくは触れませんが、バイポーラ入力はいわゆる NPN(PNP)トランジスタという電流制御素子が入力段ですので、電流が流れて増幅されるということから、なにがしかの電流が流れていないとオペアンプ内部に信号を伝えることが出来ません。さらにトランジスタの入力電流が微少でも変化したものを後段に伝えるには、トランジスタのベースは一方方向にしか流れませんから、ある程度の電流を常時流しておいて、その電流を中心にプラスマイナスの電流を流す必要があります。よってバイアス電流=いわゆるゲタを履かせる、必要が出てきます。さらに高速オペアンプなどではトランジスタの応答を速くするために、トランジスタのコレクタ電流をたくさん流す必要があり、そのためにベース電流も大きめにする必要があってこのバイアス電流は大きめになります。要するにバイポーラ入力の場合は増幅作用を持たせるために、入力電流はゼロにはならないということです。
J-FET 入力は電圧制御素子ですので入力電流は不要なのですが、制御端子は P-N 接合が逆バイアスになるように電圧が印加することで電流が流れにくい状態を作っているので半導体であることに変わらず、その抵抗値は絶縁体に比べて低いと云うことになります。よっていわゆるバイポーラ入力の場合のような動作点を決めるために電流を流しているのではなく、P-N 接合逆バイアスのリークというイメージです。
MOS 入力は MOS FET が入力トランジスタに使われているわけですが、これは半導体が酸化されて絶縁体になっているところが電圧制御入力端子ですので、J-FET に比べてさらに絶縁度合いは上がっています。よってこれもリーク電流というイメージですが、スペックでは入力バイアス電流はさらに小さいものになっています。

J-FET や MOS 入力の場合はリークなので動作状態の影響は受けないだろう、という感じがしますが、バイポーラの場合は入力電圧の変化によっては変わりそうな気がします。実際には入力段のコレクタ電流の中心値は入力電位にかかわらずほぼ一定なので、バイアス電流も一定なのではないかと思います。興味のある方は内部回路の解説などをしているサイトや本を探してみて下さい。

スペックシートを見ておきます。
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これはバイポーラ入力の高速オペアンプです。赤線が入力バイアス電流ですが結構大きいです。ちょっと極端な例を持ってきてしまいましたが、もう少し工夫された一桁以上バイアス電流の小さいものの方が一般的ではないかと思います。
ついでの青線のオフセット電流も見ておきますと、これは(+)端子と(-)端子とのバイアス電流の差分です。これは一般的にバイポーラ入力の場合一桁以上は小さくなりますが、緑線の温度特性も考慮しておく必要があります。

こちらは MOS FET 入力のオペアンプです。
イメージ 2バイアス電流は上述のものに比べて単位が二つ分違います。ただしオフセット電流も同じオーダで発生しています。これはもともと絶縁体で作っているため適当にバラツクだろう、と予想しています。温度特性も増幅作用に一切関係なく絶縁体としての性能ですので、このくらい、というスペックしか提示してないようです。

これらが実際の動作にどんな影響を与えるかですが、前述のように交流的にはあまり考える必要がなさそうですので、直流的なことだけ考えれば良さそうです。
オペアンプの動作としては出力はたいてい電圧で出てきますので、この入力バイアス電流がどのように出力電圧に変わるかを考えておけば良いと云うことになります。
たとえばこんな非反転バッファの場合ですと、入力バイアス電流がいくらあったって (+)端子については前段のアンプが吸収してしまいますし、(-)端子についてはオペアンプ自身の出力端子が吸収してしまいます。
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こういう LPF を構成した場合はどうでしょうか。
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入力に抵抗がつながっているので (+)端子のバイアス電流は前段のアンプは吸収してくれず、この場合は 1KΩ で電流電圧変換され V が生じてしまい (+)端子の直流電位は -V = IB x 1kΩ になります。それがそのまま (-)端子に現れるように出力電位が決まるのですが、対策を先に行ってしまいますと、フィードバック抵抗に入力抵抗と同じ値 1KΩ を入れて V を強制的に発生させることで、キャンセルすることが出来ます。このように信号としては抵抗に電流が流れていなくても、バイアス電流として流れることがあるので、こういった工夫が必要になるわけです。
ちなみにこの回路は fc = 1MHz の LPF ですが、入力信号の周波数成分がさらに高い周波数を含んでいる場合は余分な歪みが発生しないように以下の解説のようにオペアンプの帯域も余裕を持ちたいところです。

オペアンプで実際にローパスフィルタを作ってみたら
http://blogs.yahoo.co.jp/susanoo2001_hero/8064313.html

ところがフィードバック抵抗と入力容量の影響で以下の解説のような影響も考慮しなくてはいけないのです。(後半部分)

FET を使った定電流回路(コミュニティのお題)その6
http://blogs.yahoo.co.jp/susanoo2001_hero/8693397.html?type=folderlist

そうなるとフィードバック抵抗は小さくしたいし、でも同じ fc で入力抵抗を小さくしようとすると前段アンプに負担が掛かるし、入力バイアス電流はキャンセルしたいしなどの悩みが出てきます。これらの落としどころを考えるのが設計者の腕の見せ所です。

ちなみに反転増幅器や利得を持たせた非反転増幅器の場合は、(-)端子につながっているすべての抵抗の並列合成値を (+)端子に入れておけば良いです。非反転増幅器の場合はその抵抗と前段との間に入ります。
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この方法でもフセット電流はキャンセルできませんが、バイアス電流の多いバイポーラ入力でもオフセット電流自体は小さめですので、影響はかなり小さいと思われます。

実際に最もこの値の影響を受けるのは積分器だと思います。積分器はフィードバック抵抗の代わりにコンデンサが入るのですが、直流抵抗はもちろん無限大でわずかにでもバイアス電流があればいずれは出力電圧は飽和します。
積分器で電圧をホールドさせようなどという応用では注意が必要です。

それと電流電圧変換回路などで、高抵抗のフィードバック抵抗を使う場合なども同様です。私はやったことないですがセンサからの小信号電流を電圧変換しようとすると 1GΩ などの抵抗が使われるようです。1nA のバイアス電流があれば 1V 生じてしまいます。積分器はともかく、高抵抗のフィードバック抵抗の場合は (+)端子にも同じ値を入れることでキャンセルはできますが、意地悪なことに MOS 入力のオペアンプはオフセット電流も同じオーダであるので実際は誤差電圧が出てしまうかも知れません。

入力バイアス電流、オフセット電流は通常の用途ではあまり気にならないですが、極端な応用では結構扱いが難しいと言えると思います。