FIR フィルタの実用例を何か波形等化フィルタみたいなものを挙げなくてはいけないと思って試行錯誤しているのですが、ちょっと苦戦していまして、そこへ渡りに船とばかりに訪問者の方から質問がありましたので、そちらの話題に移行したいと思います。(ズル!

訪問者の質問は、FIR フィルタを使って移動平均フィルタを作ってみたのですが、連続系ではどう表現されますか、というような内容でした。

それで前回のまとめとして、

「FIR フィルタは位相直線なので一般的な伝達関数を作れない。」

というのがありました。つまり逆ももし真なら「FIR フィルタで実現できても一般的な伝達関数にはならない」となります。
で、これについては私はよく分かりません。直感的には FIR は有限インパルス応答で、それは連続系にはないような気がするので s 領域での伝達関数表現は出来なさそうな気がします。

質問者の提示した移動平均フィルタは次のようなものです。

H(z) = 0.25 + 0.25z^(-1) + 0.25z^(-2) + 0.25z^(-3)

FIR なので分母には式がありません。z^(-1) は一サンプリングの遅れを表しますから、ある時刻の値を出力するのに前三つまでの入力値まで含めて加算して、4 で割るというものです。要は平均化ですね。ノイズ除去などに使われると思います

これを連続系で表現しようとするとどうなるか。先ほどの説明のように無理!というのが今の私の知識の範囲内で分かることです。
IIR 型の場合は連続系から離散系への変換として、双一次変換が使えました。FIR 型の場合は連続系から離散系への単純変換は出来なさそうで、見た範囲ではどこにもそんな記事はありません。無限インパルス応答のものを有限インパルス応答で表現しようというのが無理なのかも知れません。
双一次変換を行うと、おそらく分母分子ともに z の多項式になります。FIR はその構成から分子だけが多項式になっている場合であって分母に多項式になっていたら自動的に IIR 型になると思います。
よって逆もまた真なら、双一次変換自体は可逆変換ですから、IIR は s → z は可能で z → s も可能。FIR は双方向不可能、ということになりそうです。ただ森羅万象すべての式を確かめたわけではないので自信はありませんが。

さて、そう言ってしまうと移動平均フィルタはアナログ回路(=連続領域)では実現できないのか、ということになるのですが全く不可能ではありません。アナログ部品とは言い難いですが遅延素子を持ってくれば大丈夫です。たとえば CCD みたいなものです。
その確認を行っておきます。

まずは訪問者の scilab スクリプトから移動平均フィルタの特性を計算しておきます。

z=poly(0,'z');
dt=1d-4//10khzsampling
//FIR
sys1=syslin(dt,(1+z^(-1)+z^(-2)+z^(-3))/4)
scf(1);
clf;
bode(sys1,1e-2,1e4);

結果はこうです。

イメージ 1
これを LTspice を使ってアナログ領域で実現しようとするとこうなります。B1 は V1 を 0.1ms 遅らせたもの、B2 は B1 の出力を 0.1ms 遅らせたもの、B3 は B2 の出力を 0.1ms 遅らせたものということになります。
イメージ 2

え、なんだ FIR フィルタをそのままディレイを並べて回路かしただけじゃん、というツッコミはなしです。要はそういうことなんですね。
特性もこうなります。
イメージ 3

一応再現できたと思います。

なんだかズルしたみたいですね。
従来のアナログ素子を使って出来るだけ近いものをつくろうと思ったらある程度は出来るかも知れません。
直線位相が前提なので、ベッセルフィルタを使うとかすればフィルタのキレは悪いですが出来なくはないと思います。
一次 LPF を重ね合わせるという手もあると思います。
その辺はもともとの移動平均フィルタのどの特性を重視するかで決めることができると思います。