サンプリング周波数は、遅れ時間要素を減らしたい、フィルタの特性に余裕を持たせたい、エイリアシングの影響を減らしたいなどの要求から出来るだけ高く設定したいのはやまやまですが、前回のように量子化ビット数が制限されていると低域(サンプリング周波数に対して非常に低い周波数)の処理が難しくなります。それでもオーディオのように無駄でも良いから、いや無駄こそ美学が!という場合は演算ビット数を増やすなどして対応可能ですし、それ自体が付加価値のごとく PR できますから良いのですが、組み込み機器の場合は無制限に量子化ビット数を設定すると経済性がとたんに悪くなります。かといって性能を犠牲にするわけにはいかないし...。

ということで今回は帯域分割によって、量子化ビット数の制限の影響を緩和する方法を紹介します。
簡単に想像できますね。一旦高い周波数でサンプリングした後、帯域分割で低域と高域に分けて低域側のサンプリング周波数を下げてしまいます。そうしておいて低域の信号処理を行い、アップサンプリングを行って元のサンプリング周波数に戻して、高域側と合成するというものです。

ブロック図は以下のようです。
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実は帯域分割は必ずしも必要ではありません。それぞれの信号処理の中に組み入れてしまっても大丈夫です。
ダウンサンプリング変換の時に源信号に fs2 / 2 以上の周波数成分が含まれているとエイリアシングを起こしますから、直前に急峻なフィルタで減衰させておきます。正直光ディスクドライブのサーボの場合はかなり適当でも大丈夫です。S / N の劣化具合を検証しながら出来るだけ簡単なものにしておいてもいいと思います。
アップサンプリング変換の後に折り返しノイズを除去するフィルタがいるとは思いますが、これも源信号の成分を考慮して決めればいいでしょう。

ちょっと気になるのが帯域分割~合成のプロセスで、サンプリング周波数が違うことから fc 付近で遅延に違いが出るため位相乱れが発生することです。でもサーボぐらいだったら大丈夫でしょう。fc を低めに取っておけば気にならなくなります。
こんなことをやったら、オーディオ的には総スカンでしょうね。もっともマルチスピーカですでに帯域分割~合成(空間的に)行っていてセッティングで位相関係はかなり怪しくなっていると想像されますので、電気的にそんなことをやったって今更だとは思いますが。
こだわる人はこだわると思います。

ちなみにネタバレになってしまいますが、とある光ディスクドライブ用のサーボチップとしては fs1 が 176.4KHz、fs2 がその 1 / 32 の 5.5125KHz でした。2のべき乗の関係にしておくとハード設計が楽だと思います。演算ビット数は 16ビットでした。
低域の信号処理の周波数はだいたい、20Hz ~ 500Hz ぐらい。これなら fs2 = 5.55125KHz でも楽に扱えます。高域の信号処理は 800Hz ~ 20KHz ぐらいなので、fs1 = 176.4KHz でも扱えます。無駄時間要素としてサーボ系へ与える影響は 5.7us となり、サーボ帯域 5KHz で位相遅れ 11°ぐらいですから許容範囲です。