さて、なんとか設計できそうなところまでこぎ着けました。

設計目標としては以下のようだったわけですが、

・入力電圧は 12V
・出力電圧は 5V(一応ロジック回路を意識して)
・最小負荷は 100Ω相当(最小電流 50mA)
・最大電流は 500mA ぐらい。
・リップル電圧は 50mVp-p
・電力効率 85% 以上(入力電源での消費電力と負荷抵抗での省電力の比)


これらにコイル電流のゼロ期間をなくす、という前提を加えていました。
ここでちゃぶ台返しのようですが、この前提を取り払うとどうなるでしょうか。前の記事では負荷が小さくなったときにコイル電流ゼロ期間が現れ、この期間コイル端子で振動が生じてノイズ源になる恐れがあるということでした。これはコイルに並列に抵抗を入れることで緩和できますが、単なる抵抗だと電力ロスに大きくなります。そこで一般的には抵抗とコンデンサを直列にしたものを入れます。しかもコイルに並列ではなくて、回路図で云うとコイルの入力端とグランドの間に入れます。
電流ゼロ期間が発生すると何が起こるかというと、FET は OFF、ダイオードも OFF ということでコイルの入力端がオープン状態になります。コイルは電流を保持するものですから、少しでも電気エネルギーが残っているとどこかに放出しなくてはいけませんが、オープン状態だと電流の流す場がなくなり発狂します。
ということでこれをなだめるには、完全にオープン状態にならないようにすればいいわけで、でも単なる抵抗では FET が ON の時に電流が流れてしまいますから、コンデンサを直列に入れておくわけです。スナバーと呼んでいます。
とはいっても多少は電力ロスにつながります。これを許容できるのであればコイルインダクタンスを下げて制御周波数 vs 負荷条件を未達にしても構わないわけです。

まずは、コイルインダクタンスを 330uH から 100uH にしてみます。直列抵抗は 0.574Ω です。

イメージ 1
制御周波数は 170KHz、リップル電圧は 23mV ですが、コイルの入力端で振動が生じています。効率は若干落ちて 80% というところです。
さてこの状態で次の回路のようにスナバーを入れてみます。抵抗値は 500Ω ぐらい下げないとダメなようです。コンデンサは振動周波数が約 1MHz ですから、CR で決まる周波数= 1 / (2π C R) を 100KHz ぐらいにしておけばよさそうでしょうか。2000pF だと 159KHz になりますので、このくらいでやってみます。

イメージ 2
波形はこんな感じになりました。

イメージ 3
V(n002) のところでの振動は抑えられました。制御周波数はほとんど変化なしです。リップル電圧は 26mV 程度。効率ですが、73% に下がってしまいました。実際抵抗のところで約 30mW 消費しています。この抵抗での消費電力は出力電流に依存しませんので、負荷が重いほど気にならなくなります。
なお、コンデンサの容量は大きくすると抵抗での消費電力が上がります。小さいと振動成分が増えます。実際には波形を観測しながら適当な値を探すことになります。

設計方針によってこれらのパラメータの選び方が変わってくるわけですが、まとめるとこんな感じでしょうか。

・コストは高くなるが、動作の安定性、対応力、効率を重視してコイルインダクタンスを大きめにしておく。
・コイルインダクタンスを下げてスナバーを入れ、軽負荷の効率は犠牲にしてコスト重視、使用範囲を限定。
・コイルインダクタンスを下げてスナバーも入れず、軽負荷時のノイズは無視。コスト重視、使用範囲を限定。


乱暴な表現で恐縮ですが、それぞれ設計仕様に合わせて選択すればいいと思います。
軽負荷には滅多にならないとか、その時はシステムがスタンバイになってノイズは気にならない、あるいは元電源が落ちるとかだったら3番目を選んでも問題ないと思います。