ちょっと所用で不在だったのであいてしまいました。

今までさんざん評価とかシミュレータで計算しておきながら今更設計もないもんですが、最初とりあえず適当な回路を動かしてみたら上手くいかないことが多くて色々やってみたあげく、ようやく回路への理解が深まったという有様でしたが、

LTspice:「だから最初によく考えろって」
画蔵:「仲良くやろうな」


折角ここまで来たのですから、もう一度設計手順を示しながら抑えていくポイントを明確にしておきたいと思います。

設計ですから目標となる仕様を決めておかなくてはいけません。

・入力電圧は 12V
・出力電圧は 5V(一応ロジック回路を意識して)
・最小負荷は 100Ω相当(最小電流 50mA)
・最大電流は 500mA ぐらい。
・リップル電圧は 50mVp-p
・電力効率 80% 以上(入力電源での消費電力と負荷抵抗での省電力の比)

まずはこのくらいにしてみましょう。
あ、ちょっと待って下さい。もう一つ本来なら最大の仕様であるコストが入っていません。このレベルなら部品代ということでいいと思いますが、ここでは多少意識する程度にします。もう一つ部品の大きさも考える必要があります。大きな電解コンデンサやコイルはちょっと、ということで多少は意識することにしましょう。
また、使用半導体ですが前回までと同じものにしておきます。
もう一つ、参照電圧ですがこれは電池というわけにはいかないので、バンドギャップリファレンスを使います。1.25V です。
と思ったらとんでもないチョンボに気がつきました。

LTspice:「またか」

コンパレータの LTC6702 ですが、動作範囲が 5.5V までだそうです。
ですので本来なら使えません。
ですが、良い代替え品(片電源 12V 以上まで使えて、遅延の少ないもの)がなく、これを仕様範囲内で使おうとすると回路変更が大規模になります。で、今は機能確認を優先したいので、12V でつかえるものとして進めることにします。ちなみに伝搬遅延は 0.5usec で多少足を引っ張っています

LTspice:「それにしてもレベル低くね?」
画蔵:「汎用かつ比較的新しい製品と云うことで見落としていた」


ということで回路図はこんな感じです。

イメージ 1
出力電圧が 5V で参照電圧が 1.25V ですからコンパレータの入力では 1 / 4 に落とすアッテネータを入れています。前回までの説明ではこの減衰量はコンデンサで位相を戻す量に関係するので、減衰量はむしろ多い方がよさそうという感触でしたが、とりあえずこうしてみます。
コイルですが、前回までは理想コイルでしたが今回は製品になっているもので直列抵抗があるものを使います。コンデンサはセラミックタイプならば ESR が小さいのでその辺りから選ぶことにします。お値段は上がる可能性大ですが。

すでに回路図に定数が入っていますが、それらを決める手順を考えてみます。
まずコイルです。
最初の方で以下のような式が出てきました。

イメージ 2
L について変形すると次のようになります。

イメージ 3
最初の説明では、電流ゼロの期間がないときはこの式で表される、としましたが、言い換えると電流ゼロ期間をなくすにはこの式の等号を左側が大きいという不等号を満たす必要があると云うことです。そういう限界条件としてこの式は利用できます。
ですので、こうなります。
イメージ 4
この中で Vin、Vout、RL は設計目標仕様から決まっていますので、最小制御周波数 Fosc とコイルインダクタンス L のどちらかを先に決めなくてはいけません。経済性を重視するならコイルを出来るだけ小さくしたいところです。
ですが、結論から言うとこの部品構成だと Fosc は 100KHz 以下にした方が良いです。これは色々パラメータをいじって見ると 200KHz とか 300KHz の場合、リップルがどうしても下がりません。つまりコイルが小さい分、リップルを下げるためにコンデンサを大きくしなくてはいけませんが、それだとコイルとコンデンサでの時間遅れが大きくなって、位相補償しても回復できないことということのようです。
この辺りのパラメータの絡み合いは複雑で簡単に整理できなかったので、とりあえず制御周波数は 100KHz 程度にした方が無難、ということです。コンパレータの伝搬遅延が減ると選択肢は増えると思って良いです。
制御周波数 100KHz ぐらいを元に上述の式から必要なインダクタンスを計算してみます。
L = 100(Ω) / 2 / 100KHz x (12 - 5) / 12
= 292uH

となります。だいたい 300uH 以上なら大丈夫と云うことです。お値段的にはどうなのでしょうか。今回は直列抵抗 1.41Ω のものを選んでみました。許容ピーク電流は 530mA です。余裕が欲しい気もしますが、サイズが大きくなります。直列抵抗は電力損失になります。
次はコンデンサです。

これはリップル電圧とから決めなくてはいけないのですが、容量を大きくしてリップル電圧を下げようとすると遅れ時間が生じて制御周波数が下がってしまい、却ってリップル電圧が増え、電流ゼロ期間が発生するという分けの分からない事態が発生します。
コンパレータの感度も考慮しながら 10mV から 20mV ぐらいを狙って、遅れ時間は 100KHz の 1 / 4 (ゼロクロスからピークまでの期間)周期時間 2.5usec 以内に抑える必要があり、さらに今回の掟破りコンパレータの遅れ時間、0.5usec も考慮すると、2usec 以下が望ましそうです。

おおよその計算になりますが、コイルの入力側では 12V の電圧が ON / OFF しています。これと出力側との電位差(12V - 5V = 7V)でコイルインダクタンス 330uH で割って積分すると電流が出ます。この電流を出力コンデンサで積分したものがリップル電圧となり、たとえば 2usec で 10mV のリップル電圧にするには約 5uF ぐらいになります。念のため製品の定数系列ということで、4.7uF とします。
この容量で 3usec の幅ならば、20mV ぐらい残留します。

位相補償というか遅延補償ですが、5V を 1 / 4 にしたものと、1.25V との比較になりますので、ここでは 3000Ω と 1000Ω で構成されるアッテネータに 2000pF を付け加えておきます。これで 100KHz 付近の遅延補正量は 0.4usec ぐらいです。
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また、1.25V のバンドギャップリファレンスに対しては 12V から 5000Ω 経由で供給するようにして 1uF のコンデンサを入れておきます。一種のスタータ回路です。ただし素子によってはコンデンサを入れると発振気味というかノイズが増えるようです。今回のものは大丈夫ですが。

ではシミュレーション結果です。

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制御周波数は約 100KHz、リップル電圧振幅は 21mVp-p ということで、なんとか仕様を満たしたようです。
供給電力は 305mW、負荷消費電力は 250mW と効率は、82% でかろうじて達成です。
バンドギャップリファレンスとそのシリーズ抵抗、アッテネータでも消費していますので、これらをもう少し最適化すれば改善できるかも知れません。

出力電圧の FFT です。

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制御周波数で -63dB。いいのか悪いのか判断つきません...。

念のため負荷を 10Ω = 500mA とした場合の波形です。

イメージ 8
制御周波数はほとんど変わらずです。コイルのピーク電流は 545mA で一応大丈夫でしょう...。まあここまで使うのであればもう一ランク上の仕様のものにして下さい。

ということで、かなり怪しげながら一応当初の予想に近い感じで動作しているようです。

LTspice:「さっきからあれこれパラメータをカットアンドトライしていなかったか?」
画蔵:「そういう非生産的内幕暴露はやめるように」


実際にやる場合は現実の部品を並べてあれこれ悩むかも知れません。その時には上述の流れを参考に定数を探していけばもしかしたら上手くいくかも知れません。

LTspice:「なぜ云いきらない?」
画蔵:「みなさんに考えてもらうのが目的です(キリッ」


負荷抵抗を 100Ω に戻して、入力がゆっくり ON になったときの過渡応答です。

イメージ 9  

突入電流が抑えられていて、一応スタータ回路の効果はあるようです。

次回はもう少しパラメータを振ってみます。