「ちょっとだけデジタル信号処理」というトピックをはじめました。
自分自身はアナログ回路が中心ですが、大分前からアナログ回路で実現していた機能をデジタルで構成することが多くなっていると思います。
そこで元々アナログ回路専門だった技術者がデジタル信号処理を理解しようとした場合、どんなことに注意しなくてはいけないか、頭の隅に置いておかなくてはいけないか、私なりの解釈で色々書いてみたいと思います。

今回は最初と云うことで導入的な内容でいきます。


先日家族がハンディタイプのクリーナ(電気掃除機といってはいけない?)をどうしても欲しいというので、下調べしてから量販店に見に行って、結局ダイソンの DC34 を買った。かなり無理した出費である。

製品紹介はこれ、
http://www.dyson.co.jp/vacuums/handheld/dc34/dc34-motorhead.aspx

それで色々効能書きを見ていると、「ダイソン デジタルモーター」というのがあった。デジタルモータってなんだよ~、まさかステッピングモータじゃなかろうな、と思ったよく見ると、色々機構形状、マグネット材質などをより効率が上がるような設計にして、デジタル制御している(まあ DSP っていうやつだろう)ということのようだ。そういえば洗濯機にも DSP を使っているって書いたあったな。
世間一般的にごくわずかなオーディオファンを除き、「デジタル」>「アナログ」という性能図式ができあがっていて、何かと「デジタル」、「デジタル制御」などと云う言葉を使うと最新技術、高性能というイメージを持たせているようだが、これもその類のようだ。オーディオの世界でも「デジタル対応」という言葉が 30 年近くぐらいから大流行でスピーカやらアンプなどもよく宣伝文句に使われていた。

私の個人的イメージでは「デジタル処理」というと「パルス」の組み合わせでなにやら巧妙なシーケンスを組んだり、もう少し数学的になると「符号理論」にまで拡張されると思っていたが、普通には電子回路でアナログ演算して何かの出力を得る代わりにデジタル演算でやっているだけでも「デジタルxx」というようである。なんだ計算尺が電卓に変わっただけじゃん、である。

もちろん宣伝文句というのは製品イメージをよく見せるためにあるので、ダイソンの広告を否定するものではないが、ここでは少し「デジタル信号処理」と「アナログ信号処理」の違いと特徴について、私の知見の範囲で考察してみたい。

しばらく前振りが長い書き込みになるかも知れないが、興味のある方はおつきあい下さい。

最初にオーディオの話だけ書いてみる。
30 年ちょっと前に CD プレーヤが世に出た頃、スピーカやアンプにやたら「デジタル対応」という言葉が宣伝文句に使われていた。実態は、高域まで特性が伸びているとかダイナミックレンジが広いとかそういうことだった。
確かスピーカなどは数十 KHz ぐらいまで帯域が伸びていたり、アンプは S / N が非常によいとか低域のパワーに余裕があるとかだったと思う。
いわゆるマスター音源がアナログテープの場合とデジタルテープの場合では以下のようなダイナミックレンジの余裕に原理的に違いがある。

イメージ 1
要はアナログ音源はどうしても中域のダイナミックレンジに対して高域と低域は低下しがちである。ただよく言われていたのは最大レベルを超えた場合、デジタルは一気に歪みが増大するがアナログは少しずつしか増加しないので耳当たりはさほどでもない、ということも云われていた。また、デジタルオーディオの場合はサンプリング周波数、CD の場合は 44.1KHz の半分より高い周波数は絶対に再生できない。アナログオーディオの場合はたとえレベルが低くても周波数成分として存在し得た。

もう一つ付け加えるとアナログレコードの場合溝の切り方で音が決まるが、私のうろ覚えでは電気信号振幅と溝幅が対応していたと思う。これを一般のダイナミック型(電磁変換)のカートリッジで再生すると、信号出力はレコード針の動きの速度に比例した信号が出るのでいわゆる原信号を微分した出力が出る。これを補正するために RIAA カーブという規格(ほとんど積分特性)を定めて原信号が得られるようにしていた。
ちなみに圧電型(クリスタルカートリッジ)やセラミック型は針の変位に比例した出力が出るので積分の必要はない、ということでイコライザが不要という解釈である。なおこれらはかなり乱暴な意見で wiki などでは違う解説をしているので一般論としてはそちらを参考にしていただきたい

そんなこんなでアナログレコードは結構周波数特性がいじり倒されている。さらにカートリッジなどというメカ要素が入っているので周波数特性は暴れる要素に事欠かない。が、ゆえに音の違いが楽しめると云うことだろう。

話は戻って、デジタルによるオーディオ信号処理は、周波数特性、ダイナミックレンジは原理的にはフラットに出る。このため原音にある種々の信号も周波数に関係なくフラットに再現できる。そのため適当にダイナミックレンジの広い/狭いがあっても良かったアナログ時代のスピーカやアンプでは、原音に含まれている信号を再生できない、ということでそれらに対応できるようにワイドなダイナミックレンジにした製品を「デジタル対応」と呼んでいたのだと思う。
今の感覚では、デジタル信号(といってもパルス幅変調になると思う)を直接スピーカに入れると音が再生できるというのを「デジタル対応」と呼んで欲しい気がするが。

ここではアナログオーディオとデジタルオーディオの優劣を比較するつもりはなく、デジタル信号処理にすることで何が変わったのかを説明するにとどめることにする。