時間は行ったり来たり状態だが。これも二十数年前の話のような気がする。

光ディスクドライブの光学ヘッド(PUH とか OPU とか呼んでいる)を移動させるのに、当時いわゆる CD プレーヤはギア送りなどが使われていた。これはこれで低コストでそれなりに安定ということだったと思う。移動もそこそこ早ければ良いという程度だった。
私が関係していたドライブ装置は、コンピュータの周辺機器という位置づけでアクセス速度もチャレンジされていた。
従って PUH 送り機構もリニアモータ+ベアリングという高価なものを当然のように使っていた。130mm のディスクで平均アクセス時間 100ms 以下は当然(各社とも 50 ~ 80ms ぐらいだったと思う)という感じであった。
送り機構に要求される仕様は、23mm をだいたい 50 ~ 60ms ぐらいで移動できるものということで、PUH も軽くなくてはいけないし、そこそこパワーもなくてはいけない。さらに精度良く停止させるにはサーボ帯域もそれなりに取れないといけない、ということで結構メカ精度も厳しかったと思う。
そうはいっても実際には、メカの重量バランス、剛性やらなにやらでどうしても高域にピークが現れる。送りサーボ帯域としては 700Hz ~ 1KHz ぐらいは必要だったから、ピーク周波数が 数KHz の前半にあったらかなり厳しい。たしか 6 ~ 8KHz ぐらいに 10dB 以上あったと思う。
単純に考えて、8KHz で 15dB(約 5 倍)のピークがあるとゲイン交点を 1.6KHz(8KHz / 5)以下にしなくてはいけない。マージンはほとんどないと言っていいだろう。なので生意気な私はメカ設計担当に厳しい要求ばかりしていた。こういった泥臭いサーボ設計の経験者が職場にはいないから私の好き放題である。が、さすがに出来ないものは出来ない。
で、サーボ的にピークを抑える方法を考えなくてはいけない、ということで採用したのがノッチフィルタ。
トラ技だったかその派生本だったかに載っていたツィンT型というやつである。
もう定数は覚えていないので 10KHz で組んでみたのが図。

イメージ 1

イメージ 2
で、これはパッシヴ素子だけで組めるものなので比較的簡単に基板に適用できた。効果はバツグンでチーンとうなり声を上げて発振していたのがぴったり止まり(そうはいっても耳を澄ますとチーッっとは聞こえていたが)、サーボ帯域も確保できて所望の性能を出すことが出来た。
メカで改善しようとすると大変なことになるが、これなら適用しやすいと云うことで「さすが画蔵さん!」と一躍ヒーローに、なるはずもなく「なんだよ~、やれば出来るじゃねぇか。今までサボってたな。」と逆に怒られる始末。(泣)

一言付け加えるとそうはいってもカの共振周波数は多少ぶれる。それを電気的にピンポイントで補正しようなどと考えると量産したときにトラブルが出かねない。今ならデジタル処理で自動調整などが可能かも知れないが、当時はそんなことは出来ない。そこで大体のノッチ量と特性の緩さでやっておかないといけないし、メカの共振量はそれなりに抑えられていなくてはいけないのである。だからメカ担当が抑えようとして苦労したのは実は意味があるのだ。

「自己弁護だな」
「うっ」

技術的補足:
リニアモータ自体は二階積分系なのでピークが 8KHz に 15dB あると、ゲイン交点が 1.6KHz では -15dB の量を持つ。が、二階積分系ではサーボが組めないので、ゲイン交点付近では一階積分系になるように補償するため、ゲイン交点が 1.6KHz の時に 8KHz のピークがほぼ 0dB になるというわけである。