前に「アナログ電子コミュニティに参加しました」と書きましたが、

アナログ電子コミュニティに参加しました
http://blogs.yahoo.co.jp/susanoo2001_hero/8160045.html
アナログデバイセズ社が主催しているコミュニティです。


早速いくつかのスレにチャチャ、もとい、まじめに検討を行ってコメントしています。(本当にマジメにやってます。トラスト・ミー!え、却って信用できないって!?)

その一つのスレの書き込み者に許可をもらいましたので、ここで紹介することにしました。

「LD(LED)・PDカソードコモンの受光回路・・」
http://bbs.ednjapan.com/ADI/index.php?bid=4&u=on&v=1364953805tRPMau

ちょっとタイトルから話題が連想できない方へ解説しておきます。
LED または LD のような発光素子と PD (Photo Diode)という受光素子が一つのパッケージになっていると思って下さい。
で、それぞれの素子は当然ですが2端子持っています。しかしそういったパッケージはしばしばそれぞれの1端子同士が共通になっていることがあります。

LED, LD, PD のいずれもいわゆるダイオードなので、2つの端子はアノードとカソードといいますが、どこか同士をつなげる組み合わせはいくつか考えられますが、よく見かけるのは次のスタイルです。

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このスレでは LED のカソードと PD のカソードが共通になっていて、LED はアノードから電流を流し込む回路を作れば良いが、PD の方の出力をどう処理するのがよいか、という質問と云うことです。

PD というのは光電変換素子です。イメージセンサってやつです。これは受光面に当たった光量に応じて電流が出力されます。電気回路上では電流源として考えます。従って電圧として扱うには電流電圧変換回路が必要になります。この機能の最も簡単な例は単純に抵抗をつなぐことです。図はカソードコモンに対して普通に抵抗で電流電圧変換するとこうなるという例です。
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ですがここにいわゆる都合というやつが呼びもしないのにやってきます。何かというと接合容量というのがダイオードのアノードとカソードの間に存在して、等価回路的には単純に抵抗で電流電圧変換を行うと接合容量と抵抗の積で決まる時定数で周波数特性が制限されます。また、電流出力が大きくなって抵抗で電流電圧変換したときにダイオードの順方向電圧(0.5 ~ 0.7V)に近づくと、折角得られた電圧がダイオードに流れてしまいリニアリティが悪くなります。

そこで質問の中にあるように、逆バイアス電圧を PD に掛けることでその接合容量を減少させ、かつリニアリティを改善させることになります。ところが PD はカソードコモンなためすでにグランド(ゼロ電位)に接続されているため、逆バイアス電圧を掛けようとするとアノードはマイナス電位にしなくてはいけません。

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それでも若干の接合容量は残るので応答性を気にする場合は、オペアンプを用いて次のような回路を作ります。

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これらは前述のカソードコモンでは無い場合の例です。トピ主もこれらなら簡単に回路をイメージしていたようです。
通常の反転増幅器での入力抵抗の代わりに PD がつながっていますが、どう動作するのかというと最初の頃の説明を参考にして下さい。入力抵抗は入力電圧を (-) 端子に向かって電流を供給するためにありました。それがフィードバック抵抗を流れることで、電流電圧変換を行って出力電圧を得ていました。今回はこの入力電圧+入力抵抗の代わりに直接電流源がつながっているというわけです。従ってこの入力された電流がそのままフィードバック抵抗に流れて電流電圧変換されて出力電圧に変わると云うことになります。
この場合は PD の両端の電位は出力電流に関係なく一定ですから、リニアリティの心配はいりません。
また接合容量とフィードバック抵抗は直接の関わり合いをもちませんから、接合容量は周波数特性に直接影響を与えません。ただ、やはり逆バイアスがないと素子としての応答性が悪くなるという言い方は聞いたことがあります。それとオペアンプにとっては接合容量が前のトピックで紹介した微分器のような等価回路を形成するので、安定性が悪くなります。ですのでこの場合も逆バイアスを掛けて接合容量を減らすのがよいです。
(この件は次の機会に詳しく触れたいと思います。

そこで質問にあるようにオペアンプで電流電圧変換をさせようとするわけですが、PD のカソードがすでにグランドにつながっているため、アノードをそのままオペアンプの(-)端子に接続すると、逆バイアスは掛からないことになります。これを何とかする方法はないか、ということです。
単純に解決しようとすると次の回路になり、もちろんこれが簡単なですが、これはこれで準備した Vbias 電圧と出力電位との関係を整合させるのが大変です。

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それで私が提案したのは次の回路です。

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一見いみふな回路ですね。そうその通りでこれだけだと何もしない回路です。PD を無視して回路をよく見て下さい。差動増幅器に見えませんか?まさにその通りで差動増幅器なのです。ただし入力がプラスもマイナスも -V につながっています。そのため出力はゼロになります。どこから見てゼロかというと、(+)端子につながっている抵抗がグランドにつながっていますので、グランド電位を中心に出力する差動増幅器ということで、出力はグランド電位そのものになります。
ところがこのような接続をすることで、(-)端子の電位は -V/2 になります。そこで PD をつなぐと PD のカソード-アノード間の電位差が発生し逆バイアスを PD に掛けたことになり、オペアンプのフィードバック抵抗で電流電圧変換を行います。その出力は先ほどの説明の通り、グランド電位からマイナス方向に発生することになります。

この回路の特徴を整理すると、
・PD のカソードが強制的にグランド電位に接続されていても逆バイアスを掛けて電流電圧変換出来る。
・-V は差動増幅器の両方に入力されているので、出力には何も発生しない。要はオペアンプの動作範囲内ならどんな電圧でも良い。
・出力はグランド電位からマイナス方向に発生し、通常の使い方と変わらない。
・変換利得は R2 で決まる。
・抵抗の精度を確保しておけば無調整である。

ということになります。
注意することは、抵抗をすべて同じ値で相対精度の良いものを使う必要があるという点です。これは差動増幅器を構成するのと同じ注意点です。
なお、-V の絶対値が小さくて逆バイアス量がイマイチという場合には、(R1, R2)と(R3,R4)をペアにして増幅率付きの差動増幅器構成にする方法もあります。

最終的には、トピ主は(+)端子に負の電圧を準備することで解決することにしたようです。これは回路の近くに適当な電圧がすでにあったことと、DC 的な整合性はあまり重視しなかったからと云っていました。もちろんこれでちゃんとトピ主の目的を達成したとのことですので、良かったと思っています。