LTspice を使って色々な回路の検討や確認が出来るのですが、DC - DC コンバータみたいなものを作ってスイッチング動作や制御というものを考えていこうと思います。

本来の DC - DC コンバータは、出力電圧を監視しながら負荷や入力電圧の変動に合わせて、一定の出力電圧になるように制御するものですが、入力電圧が一定ならば、ある程度の負荷変動に耐えるようなものを作ることが可能です。
ということで、原始 DC - DC コンバータを回路図上で作ってみて色々な信号を確認してみます。

仮にも技術者たるもの何かを行う前に、将棋の初手から詰みまでを読み切るがごとく(マンガでは相手が一手指して投了というのがありましたが)、これからやろうとすることに対して理論検討を行い、起こりうることをすべて予測して手を打っておき、一発で正常に動作させることを目指すべきなのかも知れませんが、人には分相応というものもあります。自分にはそういうやり方は出来ない、と思ったら別の方法を考えてもいいと思います。
私が駆け出しの頃は、とりあえずアイディアが浮かんだら作ってみて、動かなかったら考える、煙が出たら考えるでした。いや、こんなことは真似してはいけませんが。
でも今はシミュレーションツールという便利なものがあります。どう考えて良いか分からなかったらシミュレーションで動かしてみて、波形を観測し、個々の現象について検討して自分なりの体系化をして身につけても良いわけです。思いっきり自分の至らなさを正当化していますが。

閑話休題

さて、では次のような回路を素材に考えてみましょう。

イメージ 1
5V 電源があって、スイッチングトランジスタがあります。これをパルスで ON / OFF してコイル L1 に電流を間欠に流して、コンデンサ C1 で平滑して、負荷抵抗 R1 に印加しようというものです。

文字化けしていますが、L1 は 200uHC1 は 1uF です。負荷は 200Ωとしました。
パルスは 100KHz で Duty 50% としました。済みません、これらの値は一旦適当に振った後、説明しやすいものを選んでいます。
直感的に入力電圧 5V を Duty 50% でチョッパして均すので、出力電圧は入力電圧の半分 2.5V を期待します。こんなことを想定しながら波形を見ていくことにします。

ということで 1 ms の期間シミュレーションしたのが、下図です。0.2 ms 後には安定しているようです。

イメージ 2
拡大してみます。一部色を変えています。

イメージ 3
なんか変ですね。まず出力電圧が 2.5V の想定に対して、3.24V あります。それと I(L1) が立ち上がりの傾斜と下降の傾斜が異なっています。下降の方が速いため、電流ゼロまで落ちてしまいかつリンギング気味です。
リンギングはともかく、コイル電流の傾斜が違う理由は見ておく必要があります。そこでコイルの両端の電圧も表示します。

イメージ 4当然ですが、V(n002) のところが 0 - 5V になっていて、出力電圧が 3.2V ですからそれに応じた電位差になっています。
なぜこんなことが起きるのでしょうか。一番下のプロットの電流のところを見て下さい。I(R1) のラインが I(L1) のラインをちょうど面積的に二分割しているように見えませんか?見えませんか?見えるはずです!そういうことにして下さい。

これも考えてみれば当然ですが、L1 を経由して負荷へ送られたエネルギーの平均が負荷での平均エネルギーになっているはずです。よって I(L1) の面積と I(R1) の面積が等しくなるところで出力電圧は落ち着き、このような波形になります。

ということは負荷電流を増やせば、I(R1) のレベルが上がってくるので I(L1) が電流ゼロになることも起こらなくなる?!
と、想像して負荷抵抗を下げてみましょう。

同じ回路で RL を 50Ωと 150Ωに変えてやってみることにします。

ちなみに LTspice でパラメータを振る場合は、当該部品の変数名を { } で囲って定義します。そうしておいて、[Edit] - [SPICE Directive] を開いて、下の窓に .step param (変数名、括弧不要) list (定数列) と書きます。
今回は、R1 を RL と定義して、.step param RL list 50 150 としました。(先頭の「.」(ドット)を忘れないように)

結果は以下のようになりました。
イメージ 5

色が同じで見づらいですが、といあえず I(L1) だけ見て下さい。きれいな三角波になっているのが 50Ωの時で、ノコギリ波に近いのが 150Ωの時です。50Ωの時には、立ち上がり傾斜と下り傾斜が同じです。つまりコイルの両端の電位差の絶対値が等しい=出力電圧がほぼ入力電圧の半分、ということです。要は期待通り Duty 50% で、2.5V が得られたようです。

50Ωの時だけをさらに拡大しました。

イメージ 6
I(L1) の三角波のピークは 79.9mA、ボトムは 15.6mA ということで平均 47.8mA。これは I(R1) の平均電流 48mA とほぼ等しいです。出力電圧は 2.43V になっていますから、まあ 2.5V よりやや下がって(トランジスタ、ダイオードで若干ドロップしています)いますが、期待通り。よって 2.43V / 50Ω で 48.6mA ということでだいたいつじつまが合っています。

以上の実験結果から 50Ωならば期待通りの動作をしますが、150Ωや 200Ωでは上手くいっていません。
ではどういう条件なら上手くいくのでしょうか。次回解説したいと思います。