LT1007 を使って 4 入力の反転増幅器を作ろうとしました。
ゲインは 2 倍で、- 2 x ( V1 + V2 + V3 + V4) という案配です。LT1007 はユニティゲインでも安定(細かく見るとちょっと怪しいです、私の感覚ではユニティゲインでの使用はお勧めしません)なのでこれで良かろう、帯域としてはゲイン交点が 3 倍(= (1 + 2)/1) なので 2MHz ぐらいは期待できるかな、というところです。
回路図は以下。

さて作ってみたものの、おや?ちょっと帯域が低いです。ゲインが -3 dB のところでやっと 1.3 MHz。フラットな領域としては 700KHz 程度です。一つの入力に対する周波数応答は LTspice で次のようになりました。

ちなみに入力が一つの場合はこのようです。確かに -3 dB で 3MHz ぐらいはあります。

画蔵:「なぜだ!」
LT1007:「ボーイ、そこが甘い。」
LT1007 の立場で考えてみます。作った方は一チャンネル辺り 2 倍の増幅器を作ったつもりでも、LT1007 にしてみれば入力数が増えるとフィードバック量を減らされたように見えます。入力は電圧源なので交流的にはグランドと同じです。つまり一つのチャンネルに対して考えると、等価回路はこうなります。

増幅したいのが V1 とすると他は交流的にグランドなので、LT1007 から見ると (-)端子に 10K が 3本 = 3.3K がぶら下がっているように見えます。これと V1 の一本を加えると等価的に 2.5 K になり、LT1007 としては、(20K+2.5K)/2.5K となって、9 倍の増幅器を作っていることになります。よってゲイン交点は下がってしまいます。
LT1007:「働かせすぎですぜ、ダンナ」
ではどうしようか、というところですが、
LT1037:「どれ、ワシの出番のようだな」
ということで単純に LT1037 に差し替えた結果です。

-3 dB のところで、3.5 MHz と期待通りの性能が出ています。ちょっとピークがありますが、これを許容すればいけそうです。
LT1037:(ドヤ顔)
こうして 4 入力の反転増幅器を作ることが出来ました。ピークはありますが帯域も確保できたようです。
では、1 入力でよいから、2 倍の反転増幅器を作りたい、だけど LT1007 では帯域が物足りない、LT1037 ではピークが大きくなる(図)、どうしたらよいか。

LT1037:「頭使えよ!」
そうです。適当に入力を増やしたつもりにすればいいのです。で、入力を信号につながないでグランドにつなげばいいわけです。
そうすると周波数応答は以下のようになって、なかなか幸せな気分です。

よくオペアンプの解説書などでは、「オープンループゲインを損する」というような表現が使われていますが、これもまさにその例です。
LT1037 は DC ゲインが非常に高いのでこのくらいのことをやっても DC ゲインはびくともしません。ただしこの回路ではオペアンプ自身の DC オフセットも増幅されてしまいますので、図の R3 に直列にコンデンサを入れるのが一般的です。
オペアンプによっては位相補償端子があって、設定ゲインに対して適切な位相補償コンデンサを接続して安定性を保つものもあります。ただこの方法だと帯域が狭くなりすぎたり、スルーレートが悪くなったりするのでここで紹介した方法の方が良かったりすることもあります。
※注意
私見ですが、LT1007 / LT1037 は低ゲインでの利用は良いとは言えないと思います。
内部回路を見ても高ゲインを確保するためにたくさんの増幅器が使われています。このため時間遅延が結構あるようでこれを位相補償するための回路が内蔵されており、ゲイン交点付近で位相が進んでいます。今回のシミュレーションでもなかなかピークが下がらなかったり、閉ループ特性での位相が少し暴れたりしています。
これらのオペアンプは低ゲインで帯域を確保しながら使うのではなく、有り余るオープンループゲインと低オフセットにものをいわせて、低い周波数帯の小信号を思いっきり増幅するのに向いているようです。
参考になりましたでしょうか。
ゲインは 2 倍で、- 2 x ( V1 + V2 + V3 + V4) という案配です。LT1007 はユニティゲインでも安定(細かく見るとちょっと怪しいです、私の感覚ではユニティゲインでの使用はお勧めしません)なのでこれで良かろう、帯域としてはゲイン交点が 3 倍(= (1 + 2)/1) なので 2MHz ぐらいは期待できるかな、というところです。
回路図は以下。

さて作ってみたものの、おや?ちょっと帯域が低いです。ゲインが -3 dB のところでやっと 1.3 MHz。フラットな領域としては 700KHz 程度です。一つの入力に対する周波数応答は LTspice で次のようになりました。

ちなみに入力が一つの場合はこのようです。確かに -3 dB で 3MHz ぐらいはあります。

画蔵:「なぜだ!」
LT1007:「ボーイ、そこが甘い。」
LT1007 の立場で考えてみます。作った方は一チャンネル辺り 2 倍の増幅器を作ったつもりでも、LT1007 にしてみれば入力数が増えるとフィードバック量を減らされたように見えます。入力は電圧源なので交流的にはグランドと同じです。つまり一つのチャンネルに対して考えると、等価回路はこうなります。

増幅したいのが V1 とすると他は交流的にグランドなので、LT1007 から見ると (-)端子に 10K が 3本 = 3.3K がぶら下がっているように見えます。これと V1 の一本を加えると等価的に 2.5 K になり、LT1007 としては、(20K+2.5K)/2.5K となって、9 倍の増幅器を作っていることになります。よってゲイン交点は下がってしまいます。
LT1007:「働かせすぎですぜ、ダンナ」
ではどうしようか、というところですが、
LT1037:「どれ、ワシの出番のようだな」
ということで単純に LT1037 に差し替えた結果です。

-3 dB のところで、3.5 MHz と期待通りの性能が出ています。ちょっとピークがありますが、これを許容すればいけそうです。
LT1037:(ドヤ顔)
こうして 4 入力の反転増幅器を作ることが出来ました。ピークはありますが帯域も確保できたようです。
では、1 入力でよいから、2 倍の反転増幅器を作りたい、だけど LT1007 では帯域が物足りない、LT1037 ではピークが大きくなる(図)、どうしたらよいか。

LT1037:「頭使えよ!」
そうです。適当に入力を増やしたつもりにすればいいのです。で、入力を信号につながないでグランドにつなげばいいわけです。

そうすると周波数応答は以下のようになって、なかなか幸せな気分です。

よくオペアンプの解説書などでは、「オープンループゲインを損する」というような表現が使われていますが、これもまさにその例です。
LT1037 は DC ゲインが非常に高いのでこのくらいのことをやっても DC ゲインはびくともしません。ただしこの回路ではオペアンプ自身の DC オフセットも増幅されてしまいますので、図の R3 に直列にコンデンサを入れるのが一般的です。
オペアンプによっては位相補償端子があって、設定ゲインに対して適切な位相補償コンデンサを接続して安定性を保つものもあります。ただこの方法だと帯域が狭くなりすぎたり、スルーレートが悪くなったりするのでここで紹介した方法の方が良かったりすることもあります。
※注意
私見ですが、LT1007 / LT1037 は低ゲインでの利用は良いとは言えないと思います。
内部回路を見ても高ゲインを確保するためにたくさんの増幅器が使われています。このため時間遅延が結構あるようでこれを位相補償するための回路が内蔵されており、ゲイン交点付近で位相が進んでいます。今回のシミュレーションでもなかなかピークが下がらなかったり、閉ループ特性での位相が少し暴れたりしています。
これらのオペアンプは低ゲインで帯域を確保しながら使うのではなく、有り余るオープンループゲインと低オフセットにものをいわせて、低い周波数帯の小信号を思いっきり増幅するのに向いているようです。

参考になりましたでしょうか。