今回から私の経験による設計の実際を説明する。一つ断っておきたいが、私がサーボ設計そのものを自分自身でやっていたのは十数年以上前の話でそれ以降は後輩達やその道のスペシャリストがサーボ設計を行っていた。従って最新の設計手法の詳細はよく知らない。「おい、それ時代遅れだぜ!」と云われるかも知れないが、ここではあくまでも実例を紹介することでその他のサーボ設計に役立ててもらえばいい、という程度で書いている。間違っても教えようとなどというつもりはない。「回想録」を読んだ人がいれば気がついていると思うが、私は相当な天の邪鬼である。真似しない方がいいようなこともあるかもしれない。むしろスペシャリストの方で「正統的にはこうだ、最近のトレンドはこうだ」というのがあったら是非紹介して欲しい。

最初に光ディスクドライブにおけるフォーカス制御について説明する。
光ディスクドライブでは、ディスクの盤面上に光スポットを絞り込んだ状態で当てなくてはいけない。なぜそうなのかというツッコミは別のところで調べて下さい。
サーボの構成要素として、
1.現在の状態を知る手段
2.目標を設定する手段
3.状態を変化させる手段

があることは前に述べた。ではそれぞれがフォーカス制御ではどれに相当するか整理してみる。
光スポットが盤面上で正しく絞り込まれているかどうかを知る手段が「現在の状態を知る手段」ということになる。これをフォーカス検出方式という。この方法として古くから色々な方法が提案されてきたが最近は原点回帰というか非点収差方式が主流のようだ。もちろん色々工夫がなせているようだが。で、簡単に言うと2系統の信号があってそれらの差分を演算すると、フォーカス点の状態が検出できるということだ。
この検出器の伝達関数は係数である。ディメンジョンとしては( V / m )となる。

目標を設定する手段はこの場合何かというと、先ほどのフォーカス検出信号の正しいフォーカス点を表すレベルはどこか、ということになる。で、この場合はゼロでよい。もちろん検出出力に誤差を含んでいれば、少しずらしたレベルが目標点になる。ここではゼロということで話を進める。
状態を変化させる手段というのは、レンズアクチュエータを云われるものになる。これはバネによってレンズを支える機構にコイルとマグネットが付いており、コイルに流した電流とマグネットによる磁界によるフレミングの左手の法則に従って力を上下方向に力を発生させてレンズを動かすものである。
この伝達関数は二階積分を含んだ二次系になる。その導き出し方は省略する。詳細は専門的なサイト(ここは専門的サイトではなく安易サイトである。念のため)を参照して下さい。しなくても設計は出来るように進めるつもりです。

言葉で表すと、コイルに流した電流に比例した力がレンズに掛かる。レンズに掛かった力とバネ力が釣り合うようにレンズが変位を持つ。ここでバネ特性とレンズ質量の関係から共振点が存在する。その共振の強さはゴムなどのダンピング材によって抑制される。一方与えられた電流はコイルとその線間容量で発生した電気的共振により、高い周波数で共振点を持つ。他にも部材の剛性による共振点を持ったり、機構的なアンバランスなどにより副共振をもったりする、ということである。

ぶっちゃけボード線図で書くと次のようになる。伝達関数は創作である。

イメージ 1
低域から見ていく。
ボード線図には載らないが(遙か右側に存在、書けないが)直流的にはバネとレンズ質量と与えた電流による力が釣り合うところがあり、それが DC 感度となる。DC 感度は共振周波数より低い方の感度とほぼ同じと思って良い。位相は 0 次系なので遅れゼロである。
次に主要共振周波数がある。これがバネとレンズ質量で決まる共振点である。レンズアクチュエータの場合は 10 Hz ~ 60 Hz ぐらいのものが多いようだ。共振量はダンピング材によって決まる。位相は共振周波数のところで 90 度遅れになる。共振周波数付近での位相の変化具合は共振量で決まる。共振量が多いほど急激に位相が変化する。
共振点より高い方では、電流印加による力の発生とそれに比例した加速度の発生、そしてそれを二階積分して得られる変位量と云うことになり、二次系の特性になる。つまりゲインとしては周波数の二乗に反比例して低下し、位相は 180 度遅れる。
そこから先は、二次共振などの影響で位相がさらに遅れゲインも少しずつ下がり、10KHz 以上のところで共振点が現れる。(ここでは 15KHz)

ステップ入力に対する過渡応答としてはこんな感じだ。

イメージ 2
最初からいきなり振動的になっているが、全体としてみると最終値に向かって少しずつ進んでいるということでこれが二階積分特性ということになる。最終値が収束するのは DC ゲインが有限だからである。

こんな説明を書いたのは、周波数特性と時間応答についてアナログ技術者はそれなりの相関を頭に描いておく必要があるからです。

長くなってしまったので今回はここまでです。
上手く書こうとしても、その前に説明したいことが次々に出てきてまとまりません。
少しずつ上手くなるように努力しますので長い目で見て下さい。

次回はこのようなアクチュエータ特性をどうやってサーボ設計していくかまで頑張りたいと思います。