予告では、サーボ設計の実例だったがその前に一つだけ。

サーボ設計する際気をつけておかなくてはいけないのはフィードバックループの安定性である。
いくら目標仕様を設定してもここの設計を失敗するとちゃんと動かない。要するにサーボが発振するわけである。
一巡伝達関数をナイキスト線図を使って判定するとかあるが、ここでは簡単にボード線図を書いて判断する方法を解説する。
といってもなぜ発振するのか、不安定になるか知っておいた方が良いので先にそこから説明してみる。

まずフィードバックループの式としては、一巡伝達関数を G と置くと、以下のようになる。

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つまり入力に対する出力は、G ÷( 1 + G )である。これをサーボ特性と呼ぶことにする。
また通常一巡伝達関数は色々式をごちゃごちゃかき混ぜていくとこういう形の一般式になる。
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要するに分母分子ともに s による多項式表現になる。そういうもんだと頭に留めておけばよい。こういう式を立てなくてはいけないと思う必要はない。
さて周波数応答として伝達関数を理解するには、s は jw に置き換える。
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そうするとある周波数における特性はこれまたごちゃごちゃ計算すると以下のような形になる。
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この結果をサーボ特性の式に当てはめると次のように分数形式になる。このときにある周波数で分母が 0 になる、あるいは限りなく 0 に近づくとサーボ特性が発散、すなわちその周波数で分限大の振幅=発振となる。
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分母の式を見てみると、それがゼロになる条件は a = - 1、b = 0 であることが分かる。つまりゲイン 1、位相 - 180 度となったということである。この状況に近づくと不安定ということである。
ボード線図を使ってこれを判断できれば、一応サーボが安定かどうか分かる。
※もしこの辺りのことをもっと詳しく知りたい人はコメントして下さい。わかりやすそうなサイトを探してみます。

具体例を挙げてみる。
まずはアナログ回路のところで出てきた理想オペアンプである。

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ゲインは無限大、帯域も無限大。ということで前述の伝達関数式で周波数を何に設定しても、a = 正の無限大、b = 0 である。従ってこれを使ったフィードバック系は絶対に安定である。ただし存在しないと思う。
また、仮にゲインは有限だったとしてもやはり安定である。周波数特性が無限にフラットで位相回りがなければ絶対に安定である。しかし存在しないと思う。
では普通に電子回路を用いてフラットアンプを作ってみたとする。オーディオアンプを想定してみよう。帯域は DC ~ 100KHz のものが出来たとする。これを使ってフィードバック系を形成したらどうなるか。よくカタログなどで NF などと称されているやつである。
結果はまず上手くいかない。理由は素子の都合で勝手に帯域が制限されているというのが問題である。すなわちどこかでゲインが 1 になる周波数があって、その時の位相が -180度以下になっている可能性があるからである。普通に電子回路でアンプを作ると、素子の都合で帯域制限が掛かるがその時には少なくともその制限された周波数より高いところでは、位相は -90 度になる。で、このアンプが一段ではゲインが不足だからといって二段接続すればその周波数より先では - 180度になる。従ってその周波数より先にゲインが 1 になる周波数があればフィードバックを組むと余裕で発振する。またどうやら - 180度よりさらに遅れていても発振するらしい。
どういうことを云っているかというと、帯域という概念を無管理にしてはいけないと云うことである。フラットアンプといったって無限にフラットなわけないし、ではどのくらいになっているのか、どうやって制限するのかが設計と云うことになる。

次の例として積分器、一次遅れフィルタを考えてみる。
まず積分器からであるが、ゲインは周波数に反比例し位相は常に 90度遅れている。伝達関数は

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だが、ある周波数について考えると

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である。すなわち前述のα=0、β= - B である(B は正の数)。これのループ特性は

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となり、分母は絶対にゼロにならない。すなわち積分器のみの特性は絶対に安定である。しかも帯域はゲイン=積分定数で管理できる。サーボを設計する上で積分特性は設計しやすいのである。
積分特性の DC ゲインが無限大になることが気になるならば、一次遅れフィルタ特性にしておく。この場合帯域は(一次遅れフィルタのカットオフ周波数)×(ゲイン)が帯域になる。管理が容易なのである。
ただし無限の帯域で積分特性を持つものは存在しないのでどこかで帯域を制限しなくてはいけない。このときもゲインを調整することでゲイン交点を積分特性のところに設定して、位相がさらに遅れる周波数より低いところでフィードバックを形成するように出来る。

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積分特性の実例をしては、PLL の位相比較器- VCO の総合特性、回転モータやリニアモータの速度制御(モータを電流で制御すると電流は加速度に変換されるが、センサで検出されるのは速度という場合)

二階積分、あるいはバネマス系のようなある周波数に共振点があって、それより先の周波数では二階積分のような特性を示すものについて考える。この場合は二階積分特性を占める領域では常に位相は 180度遅れている。従ってこの領域でゲイン交点を設定するともれなく発振する。

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メカコンサーボの設計では、こういう例が多々出てくると思われる。これは次回以降実際例を示しながら説明したい。

簡単にかつ乱暴に云ってしまうと、サーボ特性は帯域のどこかで一階積分特性を作っておき、その帯域周辺でゲイン交点を設定するように設計すればだいたいは大丈夫である。

最後に凶悪なのが「遅れ要素=無駄時間要素」といわれるものである。とにかく振幅は下がらないクセに(つまり帯域制限に使えない)位相だけが遅れてサーボ設計を難しくすると云うとんでもないやつである。たとえば 1ms おくれる要素があったとすると、もはや絶対にその時間より早く応答させるのは不可能であり、1ms 遅れと云うことは、1KHz で 360度遅れだから、100Hz で 36度遅れとなり、サーボ設計を非常に難しくさせる。PLL のところでも述べたが気にしなくて済むのは 10Hz 以下ぐらいまで下がった後であろうか。
ちなみにデジタルサーボ出てくるサンプリングだが、サンプリング周波数もこの遅れ要素に入る。サンプリング周波数の半分まで再現されるので影響はない、などと思ってはいけない。