今回は評価担当の仕事の質量が変わってきたか、ということを考えてみます。
さすがにあまり想像で書くといけないので、自分が携わった製品、技術を例に挙げます。もちろん製品、技術が変われば事情が違うでしょう。その辺りも鑑みながら読んでいただけると幸いです。

私は回想録にもあるように光ディスクドライブの開発がメインの仕事だったのですが、最初は記録型といえども使うディスクの性質はほほぼ一種類でした。ですので記録特性はだいたい揃っており、また反射率も整っていることが要求されていました。心臓部である光ピックアップ(以下 OPU )も非常に高い部品で、選別された部品と手間の掛かる工程を経て作られていました。OPU の検査規格は厳しく、信号レベルで 10% 以内の検出出力ばらつきしか許容していませんでした。
これに対して電気回路の方は、オペアンプ、トランジスタなどを中心としたディスクリート部品で構成されており、LSI などはとんでもない(月数十台しか作らないので、LSI などありえない)、高価な AD コンバータ、DA コンバータ、アナログスイッチ(昔は結構高かった)などはたくさん使うことが出来ませんでした。云い方を変えると、電気回路が現実的にこんな有様ですから部品への仕様が厳しくなっていたわけです。
こういう状況で評価担当は何をしていたかというと、温度、電源電圧 etc の動作条件を振って後は大量に記録再生試験をして品質を評価していました。これはこれで結構量のある仕事だったと思います。

さて、時代はすすんで、CD-R、DVD、COMBO、記録型 DVD、BD と対応すべきディスクの種類が増え、またドライブ自体への値段が下がってくると、OPU のような高価な部品への要求仕様をどんどん緩めることになります。同時にアナログ回路の集積化が進んだり、信号処理のデジタル化が進んだり、自動調整アルゴリズムが進歩したりして、部品仕様への対応範囲が広げていくことが可能となってきました。

こうなると評価担当は大変です。
部品のばらつきをアルゴリズムで補正していますから、たかが数台テストしたってアルゴリズムの信頼性を評価したことにならないだろうし、記録ディスクの種類だけで何種類もあります。さらにディスクメーカごとに記録再生特性が違うのですからたくさんのディスクに記録品質を保証しようと思ったら(実は推奨ディスク以外は保証していない)それこそ大変な試験をしなくてはいけません。

それでも光ディスクドライブはコンピュータから見ればただの部品ですから、コンピュータを通してアプリケーション(ライターアプリって奴です)から動作をさせれば、これはこれで色々なトラブルが出ます。ユーザの手に渡るとさらにすごいことになります。
これらを効率的に行うにはそれなりの工夫が必要です。もちろん私がいた職場でもツールや評価アプリの充実などに専用の担当者がアサインされてやっていました。

さて、そういう状況で評価担当者は誰がやっていたかというと、派遣社員、アルバイト、新人あるいは元技術者で開発設計から離れた人などでした。とりあえずチェックリストに従ってオペレーションしていました。
そんなのは分かっている、だから評価担当者を増やし時間もたくさん掛けていると云う意見があると思います。
問題はここで単なるオペレーションなら工賃の高い日本人には向かないと云うことです(半分は為替のせいです)。

評価担当者がオペレータで済むならそうですが、前述のように機器への要求仕様が増えていく中で、膨大なチェックリストとその妥当性を考えるのは容易ではないでしょう。もしちょっとした工夫でチェック数を減らすことが出来たり、また妥当性が向上したならどうでしょうか。しかも通常は主に設計者が作っているチェックリストですが、それを評価担当者が設計の内容を知っていて、その弱点を突くようなチェックをしてみたり、ユーザの立場に立ったチェックを行ったり、逆に統計的に、あるいは理論的(田口メソッドなども用いて)にチェック項目を減らすことが出来たなら、良い付加価値が付くのではないかと思います。それはユーザメリットにもつながり当然企業の収益改善にもつながるでしょう。

ですから評価担当者の地位とモチベーションを高める工夫はもっと必要かも知れません。あるいは元々それなりの技術者を投入する必要がありそうです。少なくも私が経験した範囲では、今にして思えばそんなことを思うわけです。

といいつつ、今はバリバリの電子機器が溢れています。複雑に入り組んだシステムが正常に動くのはかなりのチェックが必要です。実際、スマートフォンにせよタブレット PC にせよ、テレビにせよ致命的な不具合があったという報道は聞きませんから、結構チェックのノウハウがたまっているのかも知れません。だとすれば私の経験は過去のものなので、今は評価担当者の地位もレベルももしかしたら上がっているのかも知れません。

ただ、もし評価を物量主義でやっていて効率の低下や納期の確保で苦労していたら、ちょっと見直してみると何か良いことがあるような気がしますが、いかがでしょうか。