昨日の独り言で、天才は3万人のエクスパートの仕事を作り、3万人のエクスパートは10万人の普通の技術者/技能者の仕事を作る必要がある、と書いたが、これは民間の企業からすると責務でも何でもない。単にそうしないと国として雇用が保てないという話である。
個人の最適化には乗らない話だが、国の最適化には必要な話だ、ということだ。

マクロ経済学の本を引用するまでもなく(後述)、産業革命以降色々な技術革新が生活を豊かにする一方、短期的には失業者を生んできた。ミシンの発明は手作業の針子さんの仕事を奪い、しかし多くの人に安くて着心地の良い衣服を提供した。失業した人は短期的には大変だが、新たに現れた別の仕事に就くことによって、また別の技術革新につながっていたのだということだ。

ヨラム・バウマン/グレディ・クライン:著 山形浩生:訳
「この世で一番おもしろいマクロ経済学」


http://www.diamond.co.jp/book/9784478017838.html

さて、スティーブ・ジョブズは3万人のエクスパートの仕事を作ったが、普通の技術者/技能者の仕事は10万人分は提供できなかったかも知れない。だがこれは個人を責めると云うことではなく、技術革新(この場合は製造技術の進歩と云うべきだろう)による短期的な失業者ということだと思う。おそらく特に IT 製品、電気家電製品ではこういう傾向が続くのではないか。私が駆け出しの頃は私ごときものでも技術者として使ってもらえたが、今の若い技術者は難しいかも知れない。さらにエクスパートが3万人いたら、駆け出しは同じ数だけいて、中間層の普通の技術者/技能者はその10倍はいるのだと思う。これは人間の能力分布からして止む得ないだろう。
エクスパート以外の仕事が日本ではなくなりそうな雰囲気の中で、普通の技術者/技能者以下の人材は非常に厳しい状況におかれているのだと思う。
だから普通の技術者/技能者以下の日本人は、他国では出来ない内容(レベルではなく)の専門性を持つ必要がありそうだ。そうしないとアジア諸国の技術者に仕事を持って行かれてしまう。ではどんな専門性がよいか、というのは残念ながら今は思いつかない。
強いて云えば、なんどか書いている材料と部品と製造技術のような気がする。
本来、日本人の雇用を考えると、というネタなので政治家に考えて欲しいが、それは無理というもの。エクスパート以上が企業活動とは別に色々アイディアを出す必要があると思う。場合に因っては教育カリキュラムから考えた方がよいかもしれない。

技術革新は短期的な失業者を出すのは歴史が教えるところで絶対に避けられない。だがその影響を最小限に食い止めるために、その人達も次にどう活用するか、先のことを考えておかなくてはいけないのではないか、という時代に(おそらく「とっくに」)入っていると思うが、どうだろう。