さていよいよ本丸の光ディスクドライブの開発設計に入る。
担当はサーボ関連。といっても数少ないデジアナ混在回路屋なので全体設計にも少しだけ関わる。入社二年目の話。今考えるとあり得ませんね。それだけ会社としても手探りでやっていたということです。
当時は記録する光ディスクドライブを開発できていたのは T社を含めてごく数社。速度や記録容量を低レベルで競っていた時代だった。が、サーボについてはメカものも絡むので、20数年経った今でも本質的にそんなに変わったわけではない。要は必要帯域を取って、マージンを取ってということである。

さて、光ディスクに記録する場合に重要なのが、記録と再生が変わる光ピックアップ信号の検出レベルである。当時で平均して3倍ぐらいの開きがある。これではゲインマージンを確保できないので、その補正手段として割り算器による正規化が一般的であった。サンプリングなどの方法もあるがデバイスがそこまでの性能が出なかった。ブロック図としては以下のような感じである。
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さて、この割り算器だがバーブラウンのものが精度、応答性も良いのでよく使われていたが、なにせ高い。DV100(だったか?)という廉価版でも1万円近くした。(今ならブルーレイ記録ドライブが買えます(笑))
それを何とかVAしろ、というのがチャレンジだが(ちなみに当時の光ディスクドライブは数百万円で売っていました。ええ詐欺です)、先輩から出てきた提案はスイッチでゲイン切り替えをするというもの。やってみたが切り替えた瞬間サーボが外れる。もちろん丁寧に詰めれば答えが有ったかも知れないが、若い私はいたずら精神旺盛で高級な機能を安い部品で作れないかばかり考えていたという今で云うオタク。そこでトランジスタ技術などをひっくり返していたら、インターシル製の安いトランスコンダクタンス型の乗算器があった。これの接続を変えることで割り算器にもなるので、これにトライした。さすがに安いため精度が悪く、温度特性もイマイチである。が、限定された用途の中では周辺回路を工夫することで、実用化できそうであった。先輩の指導に従って、30個ぐらいの評価結果からばらつきデータを得て、周辺定数は倍半分振って使えそうと云う極めてアナログ的な判断をして投入した。チップ価格は1500円ぐらいだったか。8000円近いVAに成功した。
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ここで得たネタはあまりない。思いついたことをやってみただけである。しいていうなら、割り算器としての性能ばかり気にしていたら、このアイディアはなかったろう。サーボゲインの正規化という限定された用途においてどうか、と考えたおかげでこの安い部品が使えた、ということである。 

もう一つ、上述のブロックを見てもらうとオペアンプと掛け算回路の組み合わせで割り算回路を構成していることがわかる。これは「やさしく考えるアナログ回路」で、オペアンプと伝達関数の関係を説明してるが、その延長で取り上げてみたいと思っている。