季節外れの仁義なき闘い・弐 | 固茹日記

固茹日記

はーどぼいるどな俺がお届けするロマンティック活劇的日常

1999年12月6日付

~実録・深夜の復讐=リベンジ=~


「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」
「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」
「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」
「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」
「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」

『や、やめろーーーーーーーーーーー。』

はっ。俺は慌てて飛び上がった。
汗をかいている。
体脂肪率が10%台そこそこの俺がここまで汗をかく事は
真夏にエアコンも付けずにまぐわった時以来久しぶりだ。
しかもあの享楽的な汗と違い
今、俺の全身を覆い尽くしている汗は不快な汗だ。
あえていうならば
横浜そごうの7Fにある本屋にいく時にショートカットして
高級陶磁器が並ぶコーナーを歩いてる最中、ふとふりかえった瞬間
持っていたバッグが『時価』と書かれていそうなティーカップに触れ
慌ててあたりを見回しながら元の位置に戻した後に
背中と脇の下を同時にスーーと流れ落ちてゆく汗。
あれと同じ類の汗だ。
あの夜の惨事以来、奴は現れていない。
が、奴は俺の夢の中に現れては集団で俺に襲いかかり
俺の心とプライドをずたずたに引き裂き続けていた。
恥辱と汗にまみれた体をシャワーで清めるため、俺は部屋を後にした。
飼い猫が外に出たがった為、入口のドアを開け放ったまま…。

「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」

ん?俺はまた夢を見ているのか?
またあの悪夢にうなされ、いやんな汗を俺はかく事になるのか?
薄く目を開け、俺は自分の頬をつねってみる。
痛い。
来た。
奴が来た。
いや、俺が人類の意地とプライドをかけリベンジをする
その時がついにやって来たのだ。
俺は不思議と落ち着いていた。
前回とは違い脳内のα波もよく出ている。
今なら奴に勝てる。そう確信した俺は
まず狂気ともおもえる賭けに出た。
ステレオの電源を入れる。
CDの再生ボタンを押すと心地よい音楽が流れ始めた。
暗闇の中において視覚はあまりあてにならないものだ。
特に奴との闘いにおいては聴覚が重要な役割を果たす。
が、前回はその聴覚に頼りすぎた為、途中で麻痺し
幻聴をきたし、パニックに陥った俺は
歴史的敗北を喫する事になった。
スピーカーから流れてくる雅楽家【東儀秀樹】の篳篥の音が
俺の聴覚を研ぎ澄ませる。

「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」

来た。
不協和音を見つけ出す耳を自称ミュージシャンの俺は持っている。

「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」
「んぁ~ぅ~~~ぁう~~ん~~~ぁ~~」

むむっ、2匹いるのか。
俺の左手はベッド脇に向かっていた。
奴らはゆっくりと近づいてくる。
そして、その不協和音がボリューム最大限になったところで
俺は左手の親指を動かした。
カチッ。
小さい音と共に目の前に幻想的な空間が広がっていった。
普通の白熱灯や蛍光灯では、俺の部屋の壁や天井から
奴等を見つけ出す事は不可能に近い事は①で書いた通りだ。
俺はあえて、ブラックライトを使った。

ブラックライト。
それは豊胸手術をした女を見つけ出す最大の武器、
『お前の胸、光ってんな、シリコン入れてるだろ?』
そう、あの蒼い光を放つライトだ。

奴の姿はブラックライトに反射し無様な姿をさらけ出している。
チャンス。
俺の両手はまず1匹目を捉える。
ばしっぶち。成功だ。
ウェットティッシュで左手のひらにこびりついた奴を拭き取り、
残すもう1匹を待つ。
仲間の死に気付きもせずノコノコとやってきた奴を
今度は片手でぎゅいっと握りつぶした。
俺の手の中には奴の感触がある。
慌てず電気を点け、何事もなかったように手を開く。

どんな人間にも失敗はある。
【うっかり八兵衛】のように名前にうっかりなんてついてなくても
誰しもがつぃうっかりとしでかしちゃう事がある。
特に何かやり遂げたと自分で思い込んでる時に大抵
人は【うっかり八兵衛】になる。

俺の長い闘いは終わった。意地とプライドをかけたリベンジを
俺は果たす事が出来た。これで、また安らかな夜を過ごせる。
遠距離恋愛の彼女とラブコールをして、まったりしたとこで
ベッドにもぐり、楽しい夢を見る。

時間が経つのが長く感じた。
まるで、キャプテン翼の1回30分の放送で
おい、なんでそんなフィールドがなげーんだよ。
そんな地平線が見えるフィールドでドリブルして
一体どこまでいくんだよ翼ぁ~。1試合終わんのに
何週間かけんだよ、えーこら。といった感じの長さだ。

俺が手を開くと同時に脳内でとある曲が流れた。
松任@由実の【春よ来い】
♪~春よ~とおき春よ~
一度手の平に乗ったさくらの花びらが再び風にいたずらで
宙に舞う。
かのように、ふわぁ~~と。
そう、奴は生きていたのだ。
つくづく自分の握力の無さには驚く。
奴は体長1cmにも満たないと言う利点をうまく使い、
指の付け根と指の付け根にわずかに出来る空間に
身を寄せていたに違いない。
石橋貴@がいたら絶対こう言ったに違いない。
「まさにーだーいどーんでーんがえーし」

俺のリベンジは失敗に終わった。
俺の手のひらからフワリと飛び出した奴はどこかまた
見えない場所へと言ってしまった。

翌朝、俺のおでこに、仲間を殺された奴のリベンジの跡が
残っていたのは言うまでもない。
何度もいうようだが
『顔はやめて~~~~~~アイドルなんだかだぁ~』

【第一部・完】