チャンピオンズリーグもいよいよベスト8。準々決勝の2nd Legから注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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Referee topics

 

エムバペの倒れ方は不自然だが、
ファウルが「明白な間違い」
と言えるかは微妙。

 

 レアル・マドリード vs アーセナル
(Referee: François Letexier VAR: Jérôme Brisard)

 

9分、アーセナルのコーナーキックの場面。メリーノが倒れ、当初はノーファウルで流れるも約1分後にVARが介入。フランソワ・ルテクシエ主審(フランス)がOFR(オン・フィールド・レビュー)を行い、ラウール・アセンシオのファウルを採ってPKとなった。

 

逆をとられたラウール・アセンシオはメリーノを完全に抱え込んでおり、明らかなホールディング。ボールに絡む余地がまったくなければノーファウルもありうるし、入ってきたボールの軌道からすると落下点に絡めるかどうかはぎりぎりだが、フルスプリントで飛び込めば僅かに可能性はあったかも…という印象だ。そうなるとファウルを採ってPKというのは妥当なところだろう。

 

ルテクシエ主審としては、GKクルトワの付近にボールが入ってくる中で、GK周りの監視に目がいってしまい、メリーノとアセンシオの交錯は視野の右側から外れていたかもしれない。

 

23分、エリア内で抜け出しかけたエムバペに対してライスの手がかかり転倒。ルテクシエ主審はPK判定を下したが、約4分に及ぶチェックの後にVARがOFRをレコメンド。本日2度目のOFRの末に、ノーファウルでPK取り消しとなった。

 

ライスの腕がかかっているのは間違いないので、ホールディングでファウルを採る判定は一定の妥当性があると感じる。一方で、前進をホールディングで阻まれたなら、ボールの方向をふまえても、逆向きにローリングしながら倒れるのが自然だと思われる。エムバペの倒れ方はやや大袈裟であり、ライスの腕がかかったのを認識したうえで、自ら倒れた…という見方もできる。

 

個人的には、エムバペの倒れ方が不自然なので、ノーファウルという最終ジャッジに同意する。ただ、ファウルを採った判定が「明白な間違い」とまでは言えないと感じるので、VAR介入の妥当性は微妙なところだ。

 

ただ、この判定はとてつもなく大きい。PKを採れば、2試合合計で3点差を追いかけるレアルの先制が濃厚であり、一気にレアルムードになるのは必至。かつ、ライスはここでイエローカードを貰えば累積警告で準決勝1stLegが出場停止だ。

 

この試合のみならずその先にも大きな影響を与える判定なので、「明白な間違い・重大な事象の見逃しのみ介入」というVAR運用原則からはやや外れるが、OFRをしたことは「賢明」だったかもしれない。

 

なお、当初のPK判定からOFRまで約4分かかっているが、そもそもファウルかどうかが微妙であり、かつリュディガーとロドリゴにオフサイドの可能性があり、さらにライスはDOGSOに該当する可能性もあった。チェック項目は満載であり、時間をかけてのチェックになったのはやむを得ない。

 

60分、ドリブルで前進したルイス・スケリーに追いすがったリュディガーのプレーはノーファウル。リプレイ映像で見ると、倒れたルイス・スケリーのお腹のあたりに「着地」しており、最低でもイエローカードは必要な接触に思える。ただ、勢い余って…と捉えると「レッド確定」ではないので、VAR介入は難しいだろう。

 

ルテクシエ主審の角度からは十分に見えたはずだが、ルイス・スケリーのボールが流れた段階でレアルの攻撃方向に走り出そうとしており、焦点がブレたか。

 

大一番を任されたルテクシエ主審だが、この試合に関しては2度のVAR介入にリュディガーの行為の「見逃し」となり、残念ながら及第点をやや下回るかという印象だ。

 

 ドルトムント vs バルセロナ
(Referee: Maurizio Mariani VAR: Marco Di Bello)

 

9分、抜け出したグロスが飛び出してきたシュチェスニーと接触してPK。グロスが先にボールに触り、シュチェスニーが僅かに遅れて「衝突」する形となった。ファウルでPKは妥当な判定で、接触を見越して外に膨らんだことで、マウリツィオ・マリアーニ主審(イタリア)はスムーズに見極めることができた。

 

 TODAY'S
 
各試合の講評

 

リスク回避のインザーギ。
アグレッシブなコンパニ。
戦術勝負を分けた個人の質。

 

 インテル・ミラノ vs バイエルン・ミュンヘン

 
アウェイでの第1戦を2対1で制したインテルが、ホームにバイエルンを迎えた第2戦。バイエルンは第1戦に途中出場で存在感を見せたミュラーが先発し、一方のインテルは主力が継続起用。拮抗した試合となった第1戦に続き、ハイレベルな攻防が繰り広げられた。
 
試合は2試合合計でビハインドのバイエルンが、序盤からオールコートマンツーマンに近い形でハイプレスに出る展開に。トップ下のミュラーを中心に、2列目の3枚は適宜ポジションを入れ替えつつ、両ウィングの打開力を活かした攻撃を見せた。
 
一方のインテルは中盤3枚のローテーションで組み立てつつ、ある程度追い込まれたらシンプルにロングボール…というリスクを最小限に抑える戦術選択。守備の際は5バックでレーンを埋めつつ、中盤3枚が豊富な運動量でバイタルをカバー。前線からいくときとミドルでブロックを敷くときのメリハリをつけながら、全体をコンパクトに保って戦っていた。
 
また、中盤でボールを奪えれば2トップを活かしたショートカウンターを繰り出していたが、クロスを上げられそうな場面でも戻してボール保持を続けるなど、うまく時間を進めて試合をコントロール。コンパクトなブロック形成も含め、チーム全体で明確な意思統一がなされていることが見て取れた。
 
両チームが「らしさ」を見せる中で、52分にバイエルンが先制。インテルにとって不運だったのは、ムヒタリアンが競り合いで痛んでいたため、バイエルンのクロスのこぼれ球に対してバイタルエリアを埋めきれなかったことだ。拮抗した試合だったからこそ、一人の選手の「不在」によってできた穴が失点に直結した。
 
両チームともに戦術的に整理されており、組織のブロックは非常に強固。だからこそ、局面での1対1の攻防がポイントになるので、対人守備で綻びを見せるダイアーや守備時の間合いを空けがちな傾向があるディマルコのところは、明らかな「狙い目」になっていた。
 
拮抗した試合において、1対1と並んでカギになるのはセットプレーだ。この点において、現代屈指のプレースキッカーであるチャルハノール、そしてラウタロ・マルティネスの高い決定力、パヴァールの高さという強力なカードが揃っていたインテルは強かった。