予備試験・司法試験と東大入試の難易度を比較するのは、試験の性質が違うので、困難ですし、あまり意味がないのですが、東大法学部生・卒でも予備試験・司法試験に落ちる人の方が多いのは何故なんだ、という疑問を持つ人もいるでしょう。

 私は、その主たる理由が予備試験の難易度以外にあると考えます。

 

 

1 何だかんだ、東大生は他大よりも合格率が高い

 

例えば、2013年~2019年の予備試験における学部生合格率は、東大でも15.1%です(文科省の法科大学院委員等特別委員会の資料から)。これは一橋大の10.3%、慶大の8.3%、阪大の7.8%、京大の7.0%と比べれば明らかに高いですし、予備校利用が容易な東京優位を基調とし、京大と阪大の逆転現象を除けば、概ね、大学受験の難易度を反映しているといえます。

以前、大学受験学力は予備試験・司法試験にも活きるという投稿をした(https://ameblo.jp/amuroray0093/entry-12581961329.html)のですが、我が国の文系学力でトップ集団の筈の東大法学部生ですら、不合格者の方が多く、こうもサクッと落ちるのです。

 

 

2 文系秀才の優位性は普遍的なものではない

 

 私の場合、自分の高校からの現役・浪人含めて文一同期合格者が20人以上いて、高3の頃の校内文系順位が平均9位、最高3位でした。模試だと、圧倒的に出来るときが半分くらいありつつも、東大志望者の中で平凡な順位に落ち着き悔しい場面もありました。

 要は、私は平凡な東大文一・法学部生だったわけです。卒業後の就職先も、法学部卒相応です。平凡といえば、私は5回目で予備試験に合格していますが、単純計算で20%なら、東大生平均よりちょっとマシなレベルですから、まぁ、私の受験結果も平凡な東大生相応のレベルに過ぎんということでしょう。

 

さて、そんな私から見て、大学では凄まじく高学力な友人もいて、少なくとも友人に「俺より頭が明らかに悪いと言える人は一人もいない」という状態でした。

 そんな彼等でも、普通に司法試験に落ちたりしています。

 友人の成績の具体的な出来・不出来をここで明かすのは憚られるので、結論だけ申し上げると、文系秀才は、場面毎に得意不得意が如実に出てしまうのではないでしょうか。秀才ポジションを維持しようとすると、ゼネラリスト的であるがために、今まで慣れ親しんだ分野と違うものを吸収しなければならず、新しい知識体系の下でそれまでの優位を維持できるとは限りません。

 例えば、英・数・地歴の知識・解法そのものは司法試験対策に直接役立ちません。五教科の学力を高めるために経験した勉強手法は、司法試験対策における勉強手法に応用できます(それに、地歴科目の中には法学部での授業の前提知識となっているものもあります)が、法律学習に適応するには、一から自分の勉強スタイルを試行錯誤しないといけません。特に、予備試験・司法試験では、受験学力が高いこと自体が有利になるとはいえ、法律家という専門職登用試験であるため、求められる能力が五教科の学力に比べて、良くも悪くも偏ったものとなります。ちなみに、LECの柴田講師は、司法試験合格は、学力を上げればすむのではなく、司法試験に適合したやり方で勉強する必要があるという主旨のことを述べていましたから、大学受験の勝者が直ちに司法試験の勝者になるわけではありません(見方を変えれば、東大に受からなかった人でも、工夫次第で司法試験に受かるチャンスは普通にあります)

 

 他方、理系だと、あくまで私の交友関係から知る限りですが、理科・数学という主戦場ともいえる科目を中心に勉強し、それらの成果をアウトプットするための英語という、大学入試で必要な学力と、大学入学後に高める学力と、大きな差がないのでしょう。

 

 

3 難関大学ほど試験対策への必死さがなくなる

 

 統計で定量的に説明できるものではありませんが、難関大学の学生ほど、予備試験・司法試験に必死になる動機が弱くなります。特に、東大生は、大学名で就活が不利になることは基本的になく、法学部生ですら、進路として法曹にこだわる理由がなく、いざとなったら国家総合職や一流企業に進路を転換すればよい、と目の前の面倒な勉強からの避難先が常にあるわけです。

 また、勉強が好きな法学部生でも、法律が肌に合わないと思えば英語の勉強を中心にして、グローバル人材を目指して外資系企業でのし上がることも、あり得る選択肢です。こういうのを選ぶかどうかは価値観次第ですが。

 私の周囲の法曹志望の友人でも、就活してみたら他に魅力的な進路がすぐに見つかり、そっちのリクルーターに会って選考が進み、すんなり内々定をもらったりするものでした。

 

 私が就活をした際の経験を振り返っても、大学名のアドバンテージは大きく、結局、自分の虚栄心等を満たせました。他の逃げ道は探せばいくらでもあるし、司法試験合格後の進路と比べて、総合的に見劣りしない待遇の就職先が沢山あるのですから、司法試験・予備試験への熱意が冷める人もかなり出てくる筈です。

 実際に予備試験・司法試験を受けて諦めるまでの段階では、法曹志望を優先させつつも、頭の片隅では他の進路のことも考えたりするもので、しかも、司法試験に合格してもその先の不確定要素(裁判官や検察官になれるか、行きたい法律事務所に行けるか等)が大きく、特に、弁護士になっても貧乏暇なしなら意味がないわけで、それなら比較的身分が安定している大企業サラリーマンの方がマシだと算盤勘定をしてしまうのです。

 

 私自身、仕事や趣味の片手間で勉強していた頃は、

・受かって自分のサラリーマン人生に活かせたら面白そうだな

・法学部生なのに中途半端だった法律の勉強をちゃんとしたい

・受かっても今の仕事を続けるから、弁護士にならない

と思っていました。

受かったら良いことがあるかなと思いつつ、受からなくても、まぁ普通に食っていける生活を続けるのだろうという気分で、真剣に弁護士になりたいと思っている人に比べると、気ままにやっていたと思います。

 

 

4 これから受ける人は

 

 このように、東大生でも予備試験合格率が低いのは、文系学力が多義的・文脈依存的であること、法曹以外に他に逃げ道があること、によるものだと考えられます。

真剣な気持ち、必死の思いで予備試験・司法試験の合格を狙う人は、前述の東大生合格率に怖じ気付かずに食らいつくべきです。また、勉強が得意だから受けようと思っている人は、気軽に予備試験に挑戦すればよいけれど、他の進路もあるのだから、そこまで悲壮感を出さずに自然体で勉強すればよいと思います。

 

 新卒で就活する機会は人生で一度しかないですし、予備試験・司法試験は仕事しながらでも受かりますので、気楽な気持ちで、それでいて真剣に勉強しましょう