9月19日の読売新聞の社説にこんなものがありました。

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法曹離れ対策 法科大学院は再生できるのか

 

今年の司法試験合格者は1583人で、昨年から267人減少した。

法科大学院を中核とする法曹養成システムの危機的状況を、如実に反映した結果だと言えよう。

 政府は昨年、合格者数の目標を「年1500人以上」と決めた。身近な司法の実現を目指して掲げた「年3000人」を撤回し、新たに設けた最低ラインである。

 これは何とかクリアしたが、問題なのは、受験者が昨年から1000人以上も減ったことだ。深刻な「法曹離れ」を食い止めるためには、優秀な人材の供給源であるはずの法科大学院の立て直しを急がねばならない。

 司法試験合格者のうち、法科大学院の修了者は昨年より316人少ない1348人にとどまっている。合格率は過去最低の20・68%にまで落ち込んだ。

 修了しても、法律家への道が開けない。これでは、法科大学院の魅力は薄れるばかりだ。

 最大で74校が乱立し、2004年度には7万人を超えていた法科大学院の志願者は、今年度は約8300人まで減少した。既に30校近くが廃止や募集停止に追い込まれた。入学者数は全募集定員を900人近くも下回っている。

 実務教育を重視し、即戦力の人材を育てる。法科大学院のこの理念は重要だが、司法試験の合格を見据えた指導強化も不可欠だ。

 優秀な大学生を早期入学させる飛び入学など、法曹を志す人材にアピールする手立てが求められる。給付型や無利子の奨学金の拡充も有効だろう。

 法科大学院を経ず、予備試験を突破して司法試験の受験資格を得た合格者は、今年、過去最多の235人に上った。

 経済的理由などで法科大学院に進めない人に門戸を開くのが、予備試験の本来の趣旨だ。だが、大学生らには、法曹への「近道」と捉えられている。法科大学院を存続させるのなら、予備試験のあり方も再検討が必要だ。

 司法試験を巡っては昨年、問題作成にあたる考査委員による漏えい事件が発覚した。法科大学院教授を務めるこの委員は、教え子に問題を事前に漏らし、解答の添削までしていた。

 司法試験のみならず法科大学院への信頼を失墜させる事件だった。法務省は、考査委員の任期を限定し、委員を務める教員の授業を録音して漏えいを防ぐといった再発防止策を検討している。

 優れた教員の確保も、法科大学院の再生には欠かせない。

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 最近の司法試験関係の事実を並べて思いついたことを書き連ねた、鼻くそをほじりながら書いたような社説…。

 

1.優秀者なら予備試験を受ける方が合理的 

 予備試験が行われるようになれば、法科大学院は優秀な人材の供給源たり得ない。優秀な人材は、4年制大学を卒業して司法修習に行く前提だと、予備試験に大学在学中に合格して遅くとも大学卒業年の司法試験に合格してしまえば、法科大学院を経由するよりも2年早く司法修習に行けるのだから、法科大学院に行く意味がない。

 日本では研究者になるのでもない限り、若い優秀な文系は大学部の学部を卒業すれば社会人になるものだという通念があったし、それは今でも根強い。旧司法試験時代の司法修習は、大学卒業後、すぐに修習生として給料をもらって社会人になっているし、修習後の就職に苦労する方が少数派だった。

 法科大学院に限らず、文科省は、大学4年間を充実させるよりも大学院で学ぶように誘導しようとしてきたが、それは結局、日本の社会慣行に合っていないし、それを変えることもできなかった。

今の司法試験制度では、法科大学院進学から就職までに4年弱かかるが、予備試験に受かれば、せめて法科大学院に通う2年を短縮できるのだから、予備試験をうけないわけがない。

 

2.じゃあ、この社説はどうしたいのか 

 この社説では、法科大学院を修了しても法律化への道が開けないことを問題視している。そうだとすると、解決策は

A.司法試験の合格者総数を増やし、法科大学院の人数規模は同じまま

B.合格者総数はそのままに、法科大学院の人数規模を大幅に減らす

のどちらかである。

他方で、社説では法科大学院の入学者数減を憂いているが、それだと法科大学院の入学者数を維持したいということになる。

 となると、Aを解決策に選ぶことになる。だが、そうなれば、まずます弁護士人口が増えて供給過剰になり、弁護士はますます儲からない職業になる。すると、結局、法科大学院の魅力は薄れて、我が国の法曹育成の仕組みは破壊される。

 Bを選べば、司法試験の合格率が高い法科大学院のみが生き残れる。尤も、底辺ローは尽く潰れるから、記事の書き手の望む結果にはならない。

 

3.結局、法科大学院に行く意味がない。

 大学生で予備試験に合格する人は、そのまま司法試験に合格してしまう。つまり、予備試験合格までの過程での法律学習は法科大学院に通わなくても十分できる。

予備試験実施以前は、そんな法科大学院修了者に司法試験の受験資格を与えており、法科大学院に司法試験受験者を誰にするべきかの決定権が独占されていたが、予備試験合格者は法科大学院法科大学院で学ばなくても法律の知識や解釈・運用能力を会得できるのであって、その程度の知識・技能ならば、法科大学院にわざわざ学びに行く必要がない。

そんなわけで、結局、法科大学院に行く意味がないことになる。

 

 結局、優秀層が若くして法曹になれる旧司法試験が制度として合理的だったのであり、これに比較的似ている予備試験が旧司法試験の役割を果たすことになるのではないか。幸い、司法試験合格者のうち上位層(上位800番以内くらいか?)は法曹として食える仕事に就けるのだから、予備試験合格者は自分もその上位層に食い込んで生き抜いていこうと思えるから、優秀な人材を集めることはできよう。 

 

 法科大学院制度の失敗は、結局、文科省の政策の失敗である。さっさと廃止して法学部の充実を図る方が、学費や奨学金に汲々としている今の世の中の需要に応えることになろう。