1.口述式試験のレベルの高さ

 自分が受かった試験だから誇張したいわけでも何でもなく、予備試験の口述式試験は、日本の文系の試験で母集団のレベルが最も高い試験なのではないでしょうか。

 20歳代の予備試験合格者が翌年の司法試験を受ければ約90%(平成28年司法試験では、193人中170人、平成27年司法試験では138人中122人がそれぞれ合格)が合格していることからすれば、予備試験合格者が選択科目と司法試験の特徴に即応した演習さえすれば司法試験合格は可能といえます(この点については司法試験対策の記事で書きます)。予備試験の口述式試験では、受験生のほぼ全員が司法試験合格に必要な法律の基本的知識・運用能力を有しているわけです。

 また、他の難関試験の例として大学受験の文系最難関の東大文一の2次試験の競争率は3倍であって合格最低点を大幅に下回る受験生が大量に紛れ込んでいること、今のところ文系の資格試験で司法試験を上回る難易度のものがないこと、から考えれば、あくまでざっくりした推論ですが、予備試験の口述式試験のレベルが相当高いことになります。

 

 その論文式試験合格者の下位約5%が口述式試験で落とされるわけです。論文式試験をクリアした人であれば、法律の基本的知識で大差はなく、ほんの些細なミスをした人から不合格に近付くことになります。

 

2.いつから準備すべきか

 論文式試験を7月前半に受けて、合格発表は10月の3連休の前の木曜日ですから、約3ヶ月もの間、論文の合否に悶々としながら過ごすことになります。

 この期間に、論文式試験の合格を確信して口述対策に邁進できる人は多くはないと思います。ただ、「もし合格していたら口述を突破しないといけない」と考えることになります。そう考えて迷わなくなるのは、暑さも和らぎ論文の合否が余計に気になり始める9月以降になってしまうことも考えられます。

 でも、それで構わないと思います。予備試験対策で必死に勉強していた以上、民事・刑事の基礎事項が抜けていることはないからです(既に前の記事の「予備試験受験生は夏をどう過ごしたらよいか」で述べましたように、夏に一定の問題演習を続けている筈ですから)。

 

3.民事分野の対策

(1)要件事実論

   民法の要件事実論が口頭で問われても、既に論文式試験対策で勉強していた以上、基本的に心配はありませんが、万全の対策をすべきです。

   対策教材として、大島眞一「民事裁判実務の基礎」上・下巻が最適です。司法試験に必要な要件事実論は、これで完璧です。何しろ平成27年の口述式試験では債権者代位権の要件事実が出題されましたから。私は直前に万が一のために該当ページを読んでいましたから大丈夫でしたが、口述式試験ではそこまで問われるのですから恐ろしいものです。

(2)民事訴訟法の手続関係

   条文を何度も通読しましょう。民事訴訟規則の条文も併せて。

(3)民事執行法・民事保全法

   突っ込んで勉強したことがないので得意ではなく、リーガルクエストを使ってみましたが、なかなか頭に入りませんでした。仕方がないので、LECの民事実務のテキスト(ピンクの表紙。背表紙は角張っている。実務基礎解説講義を受講すればもらえる)だけでも読んでおこうと考え、結局本番はそれで事足りました。過去の口述式試験での出題事項も、このテキストで十分でした。どういう場面でどういう手続を使えばよいかを正確に理解・記憶しておきましょう。

(4)法曹倫理

   弁護士職務基本規定の条文番号を問う出題がなされたときは面食らいました。答えられたら加点だったのでしょう。

   流石に条文番号まで覚えておくのはキツいので、優先順位は後回しです。

 

4.刑事分野の対策

(1)刑法

   総論・各論の整合的な理解を求められます。判例百選に出てくる事案の正確な理解が不可欠です。ここで躓くと、一気に低評価になります。私の反省事項として、論文対策としては、趣旨・規範さえ覚えてしまえば何とかなってしまうこともあり、判例百選に出てくる事案の把握がスカスカだったことです。

(2)刑事訴訟法の手続関係

   条文の通読を何度もしましょう。刑事訴訟規則の条文も併せて。

   捜査段階の条文の文言も正確に理解しておきましょう。私は緊急逮捕の要件を全て諳んずることができず、ここでも失点をしてしまいました。

(3)法曹倫理

   弁護士が真実義務・誠実義務をどのように負っているかの理解を確実に。

 

5.予備校の口述模試について

  日程が合う限り全て受けましょう。

  論文式や短答式と異なり、これまでの練習の絶対量が少ないですから、練習の数をこなしましょう。

  論文式試験の合格発表後、口述模試の予約をすぐにしましょう。あっという間に埋まってしまいますので。

 

6.私の成績

  119点でした。要は合格最低点です。順位は319位。394人合格だから76人がこの点 数です。

  1日目の刑事系でミスを重ねたからです。1日目が午前に終わった時点で「これは本当にマズい。絶体絶命だ」ということで、必死で民事系の復習をしました。幸いだったのは、1日目に民事系を受けた友人から詐害行為取消権について問われたことを教えてもらい、「2日目の民事系で債権者代位権について聞かれてもおかしくない」と考えて対策をしておいたことが正解でした。

  2日目は試験室に入る最後の瞬間までテキストを見返していました。口述試験時は刃を突き付けられているかのような緊張感でしたが、民事系の副査は甘利明・経済再生担当大臣と俳優・小野寺昭を足したような温和な紳士で、私が正解を言うと大きく頷いてくれたこともあり、それが救いでした。

  口述式試験は短答・論文と異なり、紙に書いて考えることができませんので、間違ったことを言ってしまわないか緊張を強いられます。私は運よく論文式試験を11位で受かったため、「この口述に落ちれば、『論文11位で合格しました』と人に自慢できなくなる!何としても受かろう!」と必死でした。皆さんも、どんなに苦しくとも勝ちを拾いに行きましょう!