予備試験を経由して司法試験を受けるとなると、最大の難関は予備試験の論文式試験です。これさえ受かってしまえば、何だかんだ言っても、司法試験まですんなり合格できちゃいます。

 

 さて、そんなことを言った私は予備試験論文式試験でかなり苦労しました。第1回の択一を結構上位で合格したのに、論文は惨敗。第2回で結構順位が上がったものの、やはり不合格。第3回、第4回と合格ラインまであと数十人というところまで来て不合格でした。

 結局、第5回予備試験で論文11位で合格でき、翌年の司法試験も一発合格できましたが、その過程で自分の打つ手の何が良かったのか、何が悪かったのかに気付いたので、そのことを論じてみます。

 

1.問題演習をするしかない

  予備試験に最終合格しても司法試験の受験資格を得るだけと思えるかもしれませんが、予備試験合格者のうち、20代は9割以上が翌年の司法試験に合格していることからすれば、選択科目を仕上げる以外に、司法試験合格に必要なことは完成しているとみるべきです。要は、予備試験の論文式試験を突破するということは、法律7科目については司法試験合格の水準に到達している必要があるということです。

  そのような水準に達するには、身も蓋もない話ですが、LECや辰巳といった予備校の答練で問題演習を重ねないと実力はつきません。問題演習で書いた答案を他人に見てもらって改善することでしか、合格水準に達することはできないのです。考えてもみて下さい、自分が書いた答案が触れるべき論点にとりあえず論点に触れていても、それが得点に結びついたものになるには、客観的にこれでよいのか気になってしまいませんか?その疑問を持ったまま本番に臨む前に、何度も自分の答案を客観的に見ることが必要となります。

 

2.論文対策のためのインプットをどうするか

  辰巳の趣旨・規範本や工藤北斗の論証集にあるような、頻出論点を徹底して理解・記憶していくしかないです。それらがどんな状況でも書ければ、インプット、そしてアウトプットの基礎は完璧です。

  どんなに問題文から具体的事実を拾えても、規範が不正確では当てはめは総崩れとなりますので、規範を正確に覚えて、その理由付けを簡潔に書けるようにすれば、得点につながります。

  受験生の再現答案を見ていると、上位答案は典型論点の論証が趣旨・規範ともに簡潔且つ正確に書けていて、逆に不合格答案はそれがダメなのです。

 

3.余計なことはしない

  論文答案に求められていることは、適切な判例の規範を導出し、それを問題の事案に当てはめて妥当な結論に至ることです。求められる答案から逆算してどの答案にも共通して必要なのは、各論点において必要な規範とその理由付けではないでしょうか。

  受験生に必要なのは、規範とその理由付けを答案において導き出すことであり、それさえできれば合格します。

  そうなると、学術的な議論に嵌るのは非常に危険です。私は法科大学院に通っていないので法学を深く探究する必要があるのではないかと月刊誌「法学教室」の連載を読み込んだりしたこともありましたが、第4回予備試験に論文で落ち、仕事がかなり忙しかったこともあり、必要最小限のことをやるしかないと覚悟したことを機に、「法学教室」を読むのを辞めました。また、参考答案が載っていない学者の演習書を読むのも止めました。新司法試験時代になってから、学者の演習書が増えてきましたが、参考答案がないと、結局何を書いてよいのか分からないまま徒労になってしまいます。

  基本書の類も、無闇に手を出すと時間の無駄です。一通り学習が進んでからリーガルクエストを読むのは有効だと思います。例えば、民訴法のリーガルクエストは、司法試験に出てもおかしくない論点を網羅しているので、個人的には必読だと思います。このように試験に役立つ基本書もありますが、基本書に手を出すくらいなら、答案練習を繰り返す方が余程有益です。

 

4.答練や模試を受ける際の心構え

  模試や答練は、日頃のインプット学習の成果を確認して定着を図るプロセスです。得点できなかったり上手く書けなかったりした論点については、とにかく反省して、二度と同じミスをしないようにするしかないです。

  それでも、そういったミスを本番にしなかっただけ幸運と思うしかないです。本番よりも前にミスを発見したことで、本番に同じミスをしないで済むわけですから。本番直前には答練や模試でした悪い点を取ると非常に落ち込むと思います。けれど、この時期に受ける模試や答練は、受験生の多くが何らかの形で解いたり目を通しているものです。そういう問題の躓きポイントを知っておくだけでも儲けモノです。

  ですから、論文式試験までに少しでも多く問題演習の機会を確保すべきなのです。

 

5.問題演習のための環境

  予備試験の論文式試験は、2日間で詰め込まれたハードなものです。日頃の演習も、負荷をかけたものにして行うことで、本番ですべきアウトプットの予行演習としての意味があるといえます。

  本番で午前は1日目に憲法・行政法、2日目は法律実務基礎、午後は1日目は刑法、刑訴法、一般教養、2日目は民法、商法、民訴法です。日頃の問題演習も、同じ時間帯にするべきです。

 

6.Fを絶対にとらない

  論文式試験で各科目の評価はA~Fの6段階で、A~Eは300人刻みなのに対し、Fは1501番以下となり、底なしに評価が低いと考えられます。おそらく、点数としては1桁でしょう。

  そうやってFを取らず、得意科目はB以上、苦手科目は何とかDで踏ん張り、普通科目はCを取るようにすれば、合格最低点にかなり近くなります。

 後述する私の成績を見ても分かるように、Fを取って合格するのは難しいと思っておいて結構です。確かに1つくらいFを取って合格する人もいますが、翌年に司法試験に一発合格しようというのであれば、一般教養以外でFを取ることは許されないくらいに考えるべきです。

 

 以上、論文式試験に合格するために何をすべきか書いてみました。これらを漏れなく達成するのは難しいですが、それさえできれば論文式試験の合格は一気に近付きます。

 

 参考までに、私の予備試験論文式試験の順位と科目評価を載せておきます。

・第1回(2011年):995位(123人合格)

 憲法F、行政法D、民法E、商法B、民訴法E、刑法B、刑訴法B、実務基礎F、一般教養F

・第2回(2012年):399位(233人合格)

 憲法B、行政法B、民法C、商法D、民訴法F、刑法C、刑訴法C、実務基礎A、一般教養B

・第3回(2013年):433位(381人合格)

 憲法B、行政法B,民法A、商法C、民訴法F、刑法E、刑訴法C、実務基礎B、一般教養B

・第4回(2014年):455位(392人合格)

 憲法A、行政法D、民法A、商法C、民訴法F、刑法C、刑訴法E、実務基礎B、一般教養C

・第5回(2015年):11位(428人合格)

 憲法A、行政法C、民法A、商法A、民訴法B、刑法A、刑訴法A、実務基礎C、一般教養A

 

 こうしてみると、第4回まで民訴法はEかFしかなく、第5回は何とか民訴法でCくらいまで引き上げようと弱点克服に取り組んだ結果が出たように思われます。勿論、第5回は多くの科目でAを連発して合計290点以上だったので、仮に民訴法が零点でも受かったのでしょうけれど。

 2013年から辰巳論文公開模試(例年300人以上が受験)の総合順位が出るようになったところ、2013年はギリギリ20番代後半、2014年は20番台後半、2015年は21位と、模試で見た実力は大差ない。おそらく、2013年には何とかギリギリ合格できるレベルには達していたが、同年も翌年も本番で手痛いミスを重ねて敗退していたと思われます。