あばたもえくぼ -3ページ目

あばたもえくぼ

東京を舞台にした小説書いてみます。

「ザラっとしたね」

「ねー、キリンさん触ったの初めてー。かわいいねー」

無理やりつくった笑顔。


初めて会うというのに、車で二人でここまで来てしまった。


段差がある。


「気をつけて」


俺は左手で下から百合子の右手をすくい上げ、

指と指をからめて繋いだ。


百合子は黙ったまま。


たった3段の階段を降りると

俺は手を離した。


百合子はまだ黙ったまま。

「あと6時間半経ったら、社会とか経済とか株価とかが動き出すんだよ

 嫌だよね。ずっとこうしていたいよ

 何も動かない夢を見ているのと同じような時間。」


「そうだよ。だから早く寝なさい。悠はもう眠いから寝るね」


寝室の悠は面倒くさそうに言った。

この軽薄な反応は昔より増えた。

今まで無理して合わせてきたのをやめたのか、

あんまり態度を変えないでもらいたい。


俺は一瞬不機嫌になったけど、

ドアを閉めて一人の空間をつくると落ち着いた。


サカナクションの電子音とバドワイザーが心地よい。

あともう少しだけこの時間を過ごしたい。


昔から悠は現実的で俺は夢想的で快楽的だ。

「ねえ知ってた?ひたちなかって日立と那珂とを合わせてひたちなかって言うんだよ」

百合子が助手席で騒いでいる。


5年ぶりのフェスだ。仕事と家庭ばかりでこういった時間をとることが出来なかった。


金曜の夜に出て日曜の深夜に帰る超強行スケジュールだが、

無理をおして決行することにした。


早朝5時。

ひたち海浜公園の高速の出口を

真夜中に一生懸命掃除してきれいにしたマーチが二人を乗せて通過する。


「わー、すっごい田舎だね」


何を言ってるんだろう。お前の住んでた家の方がよっぽど田舎だったよ。