(あらすじ)※Amazonより

コロナみたいな天下無双の人間になりたい―読めば返り血を浴びる作品集。
パンデミックに閉塞する世の中で、生への希望だったバンドのライブ中止を知ったとき、二人は心中することを決めた。

世界を拒絶した若い男女の旅を描く表題作を初め、臨界状態の魂が高アルコール飲料で暴発する「ストロングゼロ」など、あらゆる場所でいま追い詰められている人々の叫びが響き渡る。いずれも沸点越えの作品集。

 

めっちゃネタバレしてます!

すんばらしい作品だったのでネタバレさせず書くことができなかった〜。

ご容赦ください。

(一応ネタバレする箇所は「ここからネタバレしますよ〜」と書いておきますが)

気になるかたはこの作品を読んだあと、この記事に戻ってきてね!お約束!

 

◆◇

 

第57回谷崎潤一郎賞受賞作品である。

あの!人間性は5流、作家としては超一流の、私が心から愛するフット谷崎こと谷崎潤一郎御大の業績にちなんで創設された由緒正しき?賞である。

その賞をあの金原ひとみ氏が取ったとな!?

・・・って彼女の作品、今までに読んだことないけど。

 

何十年か前に、若いお嬢さん二人(金原ひとみと綿矢りさ)が芥川賞(W受賞)したことで日本中がフィーバーしましたなあ。結局その時の金原氏の受賞作品「蛇にピアス」も読まないまま、今に至るのだが(だって〜スプリットタンとか怖すぎる><←読んでもないのに知ってる笑)、このたび谷崎潤一郎賞を受賞したってことで、なんとなく手にとってみたわけであります。

(全作品読んだわけではないが、過去の谷崎潤一郎賞受賞作品は私とかなり相性がいい。)

 

そして読んだのだが・・・

 

いや、もう、最高!!!

なんで今までこの人の作品読んでこなかったのかなあ。

空白の20年くらいが勿体無い!!!!

 

って叫びたくなるくらい面白かったです。

 

初めて金原氏の作品を読んだのだが、全作品こういう感じなのかしらん。

めちゃくちゃ怖いんですけど!!!!

でも目が離せない。

ホラーじゃないんだけど、そこらへんのホラーより怖い人間の内側を見ている感じ。

本の帯に尾崎世界観が

「自分の腹の中を見てしまいそうで

 苦しいのに読まずにいられない、胃カメラみたいな小説」

と書いていたが、「苦しいのに読まずにいられない」ってのがまさにソレ!!

 

この作品は

・ストロングゼロ

・デバッガー

・コンスキエンティア

・アンソーシャル ディスタンス

・テクノブレイク

の5作品からなる短編小説集である。

 

どの作品も素晴らしかったが、最初の2作品「ストロングゼロ」「デバッガー」が特によかった。さらに言うなら「ストロングゼロ」、これもう身震いして怖くて思わず汗かき夫に

 

「怖くて怖くて読めないよ〜でも読みたいんだよ〜

 私が全部読み終わったらぜひ読んで恐怖を共有しようよ〜」

 

と助けを求めてしまうほど笑

(そして汗かき夫は読まないまま今に至る・・この卑怯者!←?)

 

 

↓ここから内容に触れていきます〜!いいですか〜!!!

 

「ストロングゼロ」内容について簡単に説明すると・・

 

バイト先の人間関係が原因で、同棲していたミュージシャンの恋人が心を病んでしまう。仕事のプレッシャーにもさらされていた編集者のミナは、彼との暮らしから逃避するかのように、高アルコール飲料「ストロングゼロ」に溺れていく。

 

という話なのだが、この溺れっぷりの描写がすごい。

こうやって人って追い込まれていくんだ・・そして壊れていくんだ・・・

と恐怖を覚えるような、緻密な描写。

昨日の私と今日の私。見た目はほとんど違わないのに中身は全く違う。中から少しずつ壊れていく様子がミッチリと描かれている。

ミナは文学雑誌の編集者で、まあいわゆる世間的には皆から羨ましがられるようなバリキャリってやつで、きっと高学歴で高収入で大変な仕事をしながらも勝ち組的な地位にいるんだと思う。

 

この作品だけじゃなくこれ以降も出てくる主人公の女性はほぼそういう女性。

(一人学生がいるがそちらもおそらく高学歴女性。メンヘラだけど。)

そういう「持てる人」も「持たざる人」と同じく追い込まれたり壊れたりするんだなあ。

まあ、そらそうなんだけどさ。

 

話は戻ってストロングゼロにどんどんハマって飲んでいく様子が怖い。

最初は夜だけ・・・だったのに、もうアル中なんでしょうね、仕事中も隠れて飲むの。

オサレドリンクホルダー(スタバ的なやつ)に入れてれば、スポーツドリンク飲んでる風に見えない?といいこと思いついた!的にいかにしてストロングゼロを飲むか、に頭を巡らせる。

そんなとこに知恵を使うなら、もっとマシな・・そう、たとえば心を病んだ恋人との関係の精算について考えるとかそういう前向きなことをせい!

と思うのだが、実際たとえば自分の夫・・・汗かき夫が心を病んで仕事に行かなくなったら・・?

離婚?

いや、一応(笑)病める時も健やかなる時も一緒と誓い合った(結婚式とかしてないから誓い合ってないけども)仲だし、捨てるってわけにも・・でも一緒に暮らしてても一文なしってのも困るし。邪魔だし←オイッ。

離婚したところで身を寄せる家があるわけでもなし(岡山のボロ家はありますが・・)。

恋人だったらやってられるかー!と別れるけれど、同棲してて出ていかなかったら?

 

と自分に置き換えてみて考えてみても、結局ミナと同様、思考停止状態、もう何も考えたくないってなるかも・・・。

 

とかとかとかとか、もう1ページごとに色々考えちゃう。

 

酒量はどんどん増えていき、仕事にも支障が出始め、担当作家さんの対談イベントにも遅れ、作家さんの会話にもついていけず、仲の良かった同僚の吉崎さんから

「・・ちょっと・・酒臭いよ」

と冷たい言い方で突き放されたとき、

 

あ〜吉崎さんの恋人を寝とったことがバレちゃったのか〜

 

とか思っちゃうあたり!

いや、それもあるかもしんないけど、その前に仕事に大幅に支障が出てて注意されてるってことにも気づこうよ!もはやそんなことに気が回らないの、こわっっ!壊れっぷりがこわっっ!

 

ラストなんかもう救いがあったりなかったり・・・で「解放」のあとに訪ねてくる「絶望」がすごい。

結局あのあと、ミナはどうなるのかな・・・悲しいな・・と思う私であった。

 

続いての「デバッガー」。

こちらも良かったなあ。

中年女性(といっても35歳だけど)の悶える感じが良かったなあ。


35歳にしてクリエイティブ・ディレクターとしてキャリアを積み重ねている私。

そんなとき、24歳の後輩男子に告白され、付き合うことに。しかし、その年の差が私を縛り、美容整形にはまっていく・・

 

そんな話なのだが、

〈自分が想像している満足いく顔は、すでに過ぎ去った過去の私の顔なのかもしれなかった。〉

そんな残像に囚われて、整形を重ねていく心理が痛々しくもあり、まあ他人事だからか可愛くも思えた。でも怖い。

ストロングゼロのミナと同様、深みにハマっていく描写はこちらも素晴らしい。

そして整形の描写が細かい!!!

短編でページ数も限られているなかで随分と細かく描くんだなあ・・とどうでもいいところに感心しました。

 

ただこちらはストロングゼロのミナと違って、最後絶望と同時に救い・・と言っていいのか、いや、やっぱり救いだと思う。自分で自分をすんでのところで制止できた。

ホッ。

 

私よ、しなやかで強くあれ!!

と強く思ったね〜。

 

そんなこんなであと3作品も続いていく。

本作品のタイトルにもなった「アンソーシャル ディスタンス」について触れると、私は5作品の中で一番好きじゃなかったなあ。

これまでにもいくつか金原さん以外の「コロナ」と生きる世界が書かれた作品を読んだが、その中では上手に書かれていたと思う。

政治や世の中について青臭いこと書いてて、うへ〜金原さんってそういう感じ?と思うものの、そういやこのメンヘラ主人公って大学生だったな・・と思い、それならむしろ納得、と思った。

悪い作品ではなかったし、一緒に死のうとする男女で、とにかく自分の意思のない男が一緒にいた女性の姿が消えた時

 

あ!自分を置いて一人で死ぬ気だ!置いていかれる!

 

と焦って彼女を探すシーン・・・

いや、そういうことじゃないでしょうよ、さすが自分の彼女を平気で堕胎させるような男だぜ・・と妙に納得してしまったし、とにかく悪い作品でもないのだが、他の4作品が良すぎてこの作品はなんか、む〜ん、となってしまった。

男も女もメンヘラ同士でむ〜ん。

 

最後の「テクノブレイク」もコロナを扱っていたが、こっちは上記よりも良かった。いいっていうか怖いんだけどちょっと笑っちゃう、みたいな。

主人公の女性のストーカーというか変態っぷりが面白かったです。まあ作品の出来としてはまあまあ。

 

とにかく冒頭2作品で心を鷲掴みにされた私。

怒涛の勢いで読み終えた。

読み終えてもなお、あの恐怖の感覚は忘れられず、人の脆さを思い知らされた気がした。

確かに世界は絶望に溢れている。

でもその絶望から這い上がれるか否かは結局自分にかかっているのかもしれない。