マナーはいらない 小説の書きかた講座 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

 

 

(内容)※Amazonより

三浦しをんが的確かつ楽しく伝える、小説の書きかた講座。
伝説のWeb連載「小説を書くためのプチアドバイス」が、書きおろしやコラムを加え、『マナーはいらない 小説の書きかた講座』として、ついに単行本化!
長編・短編を問わず、小説を「書く人」「書きたい人」へ。

 

作家・三浦しをんが「小説」を真正面から考えた―。
「小説を書くのは自由な行い」だがしかし、「ここを踏まえると、もっと自由に文章で表現できるようになるかもだぜ!」

人称、構成、推敲など基本のキから、タイトルのつけ方や取材方法まで、本書タイトルにあやかって「コース仕立て」でお届けする大充実の全二十四皿。

あの作品の誕生秘話や、手書き構想メモを初公開。

もちろん(某きらめく一族への)爆笑激愛こぼれ話も満載で、全・三浦しをんファン必読の書!


<目次>*本書より、一部抜粋
ようこそいらっしゃいました ―まえがき

(アミューズブッシュ)
一皿目 推敲について ―お庭の手入れは万全に
二皿目 枚数感覚について ―迷子にならぬために

(オードブル)
三皿目 短編の構成について(前編) ―シチュエーションか感情か、ご自由にお選びください
四皿目 短編の構成について(後編) ―具体例でご説明、自作を挙げたら首が絞まった風
五皿目 人称について(一人称編) ―視野狭窄に陥らぬようご注意を
六皿目 人称について(三人称編) ―考えすぎると地獄を見るのでご注意を

(スープ)
七皿目 一行アキについて(前編) ―息つぎはほどほどに
八皿目 一行アキについて(後編)―気づかいはほどほどに

(魚料理)
九皿目 比喩(ひゆ)表現について ―様子がおかしいのは情熱ゆえ
十皿目 時制について ―「時間の魔法」をかけて
十一皿目 セリフについて(前編) ―耳をすました近所のおばちゃん風
十二皿目 セリフについて(後編) ―さまざまな戦法の盛りあわせ

(肉料理)
十三皿目 情報の取捨選択について ―建物や街の描写、文章仕立て
十四皿目 取材方法について ―お邪魔にならぬ程度に
十五皿目 タイトルについて ―三つの発想法を駆使して
十六皿目 情報提示のタイミングについて ―情景や登場人物を思い浮かべて

(サラダ)
十七皿目 高揚感について ―中二の魂が叫びたがってるんだ風

(チーズ)
十八皿目 描写と説明について ―納豆を何回かきまぜるかはお好みで

(デザート)
十九皿目 書く際の姿勢について ―当店に寄せられたお声、その一
二十皿目 文章、書き進めるコツについて ―当店に寄せられたお声、その二
二十一皿目 構想と構成、登場人物について ―当店に寄せられたお声、その三

(コーヒーと小菓子)
二十二皿目 お題について ―真面目さと胡椒は同量ぐらいで
二十三皿目 短編と長編について ―「キレと余韻(よいん)」「構成力」を隠し味に

(食後酒)
二十四皿目 プロデビュー後について ―旅立ちを見送る書き下ろし風味
またのお越しをお待ちしております ―あとがき
 

◇◆

 

タイトルと目次を見ればわかるとおり、この作品は「小説の書きかたについて」がフルコース仕立てで書かれている。

これが本物のフランス料理だったら品数が多すぎてお腹がはちきれちゃう。ゲップゥ〜。

しかしご安心あれ、この作品はフランス料理でもなんでもない、小説の書き方の本であります。

だから食べ過ぎて胸焼けするどころか、まだまだお替わりが欲しいくらい、それくらいの作品になっていた。

 

ご存知のとおり私はどんなジャンルでも小説に限らず本を読むのが好き!

しかし書こうなんざぁ〜未だかつて思ったこともなく。

そんな私でもこの本を読んだら小説でもちょっこし書いてみようか!?などと血迷ったことを考えちゃうくらいおもしろかった。

小説を書くことに全く興味のない人にはエッセイとして読んでも良品だし、私みたいな小説を書かずとも本を読むことが好きな人には、また別の違った角度から読むことができるようになる本であると思う。

直木賞の選評を読んでも毎回しをんちゃん(作者:三浦しをん氏)は感覚的な話しだけでなく技術的な話も書いていて、タメになるなあ、と思っているのだが、なるほどこういうことを考えながら小説を書いているからなのか、と納得。

そしてしをんちゃんは相変わらず上手に読ませるなあ、と感心するのであった。

 

文体はくだけているがそこに書かれている内容は実に真摯に小説を書くということに向き合ったものとなっている。

そもそもなぜこの本を出すことになったか、というとしをんちゃんは長年「コバルト短編小説新人賞」の選考をやってきており、その選考会(しをんちゃんと編集部の10名ほど)において毎回激論を戦わせているうちに、

「ここをもうちょっと気をつけると、もっとよくなる気がする」

とか

「ていうか私は、いったいどうやって小説を書いているんだろう」

とか、いろいろ考えたり編集部の人と話したりしていたところ、コバルト編集部から小説の書き方について連載してみないか?という話が持ち上がったからだそう。

 

しをんちゃんの姿勢は一貫していて、

「小説を書くのは自由な行いだから、細かい作法とか気にしなくてもいい。ただ、確かに自由な行いではあるがここを踏まえるともっと自由に文章で表現できるようになるかも、というポイントも確実にある」

ここを根っこにして、描写やら人称やら小難しい技術について丁寧におもしろおかしく説明してくれている。

だから!つい私は騙された!

私も書けるんじゃないかってさ!ま、思っただけなんですけども(笑)

 

実際書いてみるとそら〜もう、大変なことではあるんだろうけど、みんながみんな天才ってわけじゃない、ということで、とにかく書く!書いて書いて書く!

まずは最後まで書く!

ほぼ応援歌のようになっていて微笑ましかった。

 

私のような初心者(って私は書いてもいないが)には、とにかく全体の構成をじっくり細部に渡って練ることをオススメする、とのこと。

書きたいことはあるけど最後まで辿り着けないって人も結構いるらしく、それはペース配分を間違っているからだ、と一喝。

だいたい途中で疲れちゃって詰まって書けなくなる人は全体の構成を練りきれておらず、そこまで一生懸命真面目に全力で走って来てしまっている人が多いそう。

長距離マラソンを走るのに総距離も知らずに走っている人はいなかろう、まずは全体をしっかり見て、どういうペースで走っていくのか見るのです、と指導してくれる。

それはプロランナーのレースに限ったことじゃなく、我ら一般人のジョギングでも同じ。

例えば皇居1周が何キロかもわからずいきなり全力で走り出す人はいないでしょ?ということであります。

 

エンタメ色や大衆色の濃い作品は特に、構成を細かく練るとアイデアはそこからまた出て来る。

というしをんちゃんの話で思いだしたのは、「鬼滅の刃」のワニ先生の設定の細かさ(まだ飽きずに読んでます笑)。

これには毎度感心する。

漫画本編には載せていない、人物や事象の設定がとにかく細かい。

そういう本編に載せていない細かい設定の過去や事件があったから、この人物はこういう動きをし、台詞を発するのだ、ということが自然と動いているのか・・といちいち納得しちゃう。

 

一方のしをんちゃんも負けてはいないよ。

しをんちゃんの作品はわりと読んでいるのだが、これらの小説を書く際のヒントとして小説の一部だったりがこの作品の中で例として挙げられていて(小説を書く際の構成のメモも掲載!)、それが本当に面白い。

あの小説で烏が突然話しだしたのはそういうことだったのか!とかとか。

 

あと興味深かったのは原稿枚数のこと。

仕事でも応募でも枚数(字数)制限はあって、書くことに慣れてくると字数を聞いただけで、だいたいこれくらいの世界観、これくらいの流れの作品になるな、と全体の大きさや流れ(短編だと序破急、長編だと起承転結)が読めて計算できるようになる、とのこと。

そしたらだいたいのゴールを見ながら書いていくこともできますわな。

 

へーーー!

これまた「鬼滅の刃」の話で申し訳ないのだが、公式ファンブック(第2弾)では「鬼滅の刃」立ち上げ時の編集者とのやりとりが掲載されている。

(諸事情により今後の展開を決められるだけ決めるということになり)まだ連載10話もいかないあたりでその編集者さんがワニ先生に聞くの。

 

「先生はその構成で何巻で完結すると考えているか?」(まだ1巻も出てない時点です笑)

 

ワニ先生はちょっと多めに、15巻くらいですかね?と答えてみたら

 

これから出す予定のキャラと展開を考えるとそれは無理。

少なくとも20巻以上はかかります。

 

と指摘されたらしい。←実際「鬼滅の刃」は23巻で完結!ナイス読み!

 

で、終わる巻数&だいたいの章立てを決めて漫画を書いていったそうですよ。

(編集者が敏腕すぎる・・もちろんワニ先生がすごいのは前提として。)

 

連載ものってそういう書き方をするものなのかわからないのだが(ドラゴンボールとか人気がありすぎてダラダラ続いて、鳥山明もやめたがってるのにいつまでもやめさせてもらわなかった、みたいな話があるじゃん?)、「鬼滅の刃」の人気の1つは全体の構成をまるで小説を書くかのごとく、全体の構成を練りに練って書き上げられたからってのもあると思うなあ、としをんちゃんのこの作品を読みながら思いました。

 

そしてまた「鬼滅の刃」の話だが、この敏腕編集者がいちいち「なんでこのキャラはこうなの?」「なんでそういうことになるの?」とか別名「なんでマン」と言われるほどいちいちなんで?なんで?と聞いて来るらしく(笑)、最初なんとなく・・としか考えていなかったワニ先生だったが、この「なんでマン」を突破しないと、一流の漫画は描けない!と考え、キャラや設定をそれはそれは細かく考えて、なんでマンの攻撃?にいちいち反撃?していったそう。

これがしをんちゃんのいう、全体の構成をしっかり練って、設定を細かく決める、ということであろう。

 

小説の書き方、の話なのに「鬼滅の刃」を例に出してしまったが(みんな読んでるかな〜って思って)、どの小説も(漫画も)全部が全部そういう形式で書かれているわけでもないだろうし、全体の構成も考えずいきなり名作が書ける天才もいるだろうし、ただ、こういう書き方をされているのかも・・と色々な小説を読むたびに考えをめぐらせるのもまた面白いかもなあ、と思うのであった。

そしてウッカリ小説でも書いてみるか!とか原稿用紙を用意なんかしちゃったりして〜。

用意した原稿用紙が真っ白のまま終わりそうだが、それはそれでいいじゃないか。

書いてみよう!って思わせるほどよい作品だったということで。

 

最後にやっぱりしをんちゃんファンの私は、あの小説やあの小説の裏話・・というか出来上がるまでの秘話・・というか、しをんちゃんが何をどう考えて書いたのか、という話が聞けて、純粋に嬉しかった、そんな作品でありました。

 

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