平成30年10月7日(日)、
「マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル」(in サントリーホール)を聴きに行く。
今から半年ほど前、楽しみにしていたイスラエル・フィルの公演が中止となった。
→参考記事『あの素晴らしい音をもう一度。』
そして後日・・
私「あ〜。マウリツィオ・ポルリーニが来日するんだ。一度生で聴いてみたいな〜。」
※ポリーニさん、昔はポルリーニ表記で、私はこちらのほうが馴染みがある。
私「しかしながらやはりお高い・・・。」
私「あ、でも、イスラエル・フィルで払い戻されたお金があるじゃん!こっちにま〜わそ。
ピアノコンサートだし、私一人でいっか。」
汗「・・・。俺も行くぞ。」
私「なんで〜。いっつもピアノの時は来ないじゃん!だいたいこのチケット高いんだから!」
汗「だからこそ、行くぞ!ズービンさんのお金が浮いてるんだったら俺も行く!」
というわけで、イスラエルフィル公演中止で浮いたお金がそのままポリーニのピアノ・リサイタルに回され、早速行ってまいりました!!!!
腹が減っては戦は出来ぬ(誰と戦う気!?)、というわけでサントリーホールの目の前の中華で食事をすることに。
汗かき夫は見るからに辛そうな「激辛麻婆豆腐」を食べ、死ぬ程汗をかき、まさに名は体を表すであった。
これからコンサート鑑賞だっつーのに、そんなに汗をかいていいのだろうか。
ちなみにこの激辛麻婆豆腐の豆腐を1個だけ食べさせてもらった私の感想。
「豆腐1個につき、チャーハン1皿は食べないと舌が死ぬ。」
です。
私は牛肉やきそば。(あと1皿、海老となんとかの炒め物も頼んだYO!)
ところでこの日は季節外れの真夏日で、慌てて夏物から一張羅をひっぱりだしてきた。
つい先日は11月下旬並みの寒さとやらで、秋物を爆買いしたって言うのに未だ出番なし。
→参考記事『スポーツの秋、スピークの秋。』
開場時間がせまってきましたよー!
そして会場に入ると、舞台に設置されたピアノの前に群がる人だかりを発見。
舞台からわりと遠かった私たちだったが、野生児の視力を持ち合わせているわたくし、
「スタンウェイって書いてあるけど、その下に見慣れないサインが入ってる!ちょっと確認して来るねー!!!!」
と走り寄って行った。
※開演前の写真撮影はOK。
「このFabbrini、もちろんポリーニのピアノの調律を長きにわたって行ってきた、ベテランの天才調律師アンジェロ・ファブリーニさんのことです。ファブリーニさんが監修した特製ピアノなのですね。」(「2016/04/07 KAJIMOTO音楽日記」より)
ということは、これはポリーニ専用のピアノなのね〜。
弾き慣れたピアノで演奏したい、というのはすごくわかるが、演奏会で移動するたびにこのピアノを運搬するって結構手間じゃなかろうか・・・
しかもピアノを運搬するという行為自体がピアノそのものに結構負担がかかりそう。
そんなデメリットがあってもいい演奏をしたい、というポリーニの気持ちに聴衆の私、ぜひこたえたい!と思いながら、開演のお時間です。
◇曲目◇
シューマン: アラベスク op.18
シューマン: アレグロ ロ短調 op.8
シューマン: ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 op.14 [1835/36年初版](管弦楽のない協奏曲)
(休憩25分)
ショパン: 2つのノクターン op.55
ショパン: ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
※アンコール
ショパン: スケルツォ第3番 嬰ハ短調 op.39
ショパン: 子守歌 op.57
◇◆
シューマンは今日のポリーニの体調に合っていなかったのか、選曲が渋過ぎてイマイチだったのか、おそらくどっちもだろうが、一番よかったのは「アラベスク」の冒頭約20小節で、哀しく歌うメロディが非常にすばらしく、それ以外の記憶は
「良い演奏ではあるんだろうけど(←バカ耳あもちゃん)、強弱の差も少ないし、なんだかよくわかんない演奏だな。」
であった。
ただ、しっとりと濡れたような独特の音色はさすが大御所だなあ・・としみじみとした。
ところでポリーニの生演奏を初めて聞いた私であったが、グレン・グールドも白旗挙げちゃうんじゃないかってほどのポリーニの迫力ある歌唱力に私は驚いた(笑)。
私(ん!?シューマンのアラベスクに歌詞なんてあったっけ??)
と耳を疑うほど、イケメンじいちゃんがピアノを弾きながら朗々とうたっていた(笑)。
(私たちの席は会場のほぼ最後方であったにも関わらずぅ!!そこまで届く歌声。)
休憩中にポリーニおじいちゃんとパチリ。
汗「前半はアレグロがよかったような気がする。」
私「そうかい。私はアラベスクの冒頭がよかったね〜。」
汗「あの曲はあんな感じでいいの?」
私「あはは。ほんとはよくないんだけどさ。結構ミスタッチが多くて意外だった。」
大昔は精密機械とまで呼ばれていたポリーニなのだが、やはり年を重ねると些細なことは気にせず、大局を見る感じなのかしら。
ところでこのコンサートのプログラム、表紙&裏表紙がとてもオサレ。
しばらくリビングに飾っておこう!
そして気が向いたときにパラパラめくるんだ〜。ウフフ。
そしてこの25分の休憩後、私たちはポリーニおじいちゃんの真の実力を見せつけられることになる。
まずはショパンの「2つのノクターン op.55」で軽くジャブ。
いや〜、どうやったらあんな音が出るのかなあ。
過去の記事でたびたび「あもちゃん、ショパンが苦手」と宣言していた私だが、ポリーニおじいちゃんの演奏を聞いて、無性にショパンが愛おしくなった。
そして本日メインのショパンのピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58である。
ショパンに限らず全体を通して、とにかくミスタッチの多いコンサートではあった。
曲そのものを知らない汗かき夫が指摘するくらいだから、その多さは想像できると思う。
しかしながらそんなミスタッチなんて正直どうでもよくなるくらい、すばらしい演奏であった。
音楽はつくづく心で弾くものなんだなあ・・・と思う私であった。
(そりゃ当然技術ももちろん要りますけども!!!)
転調を繰り返す第一楽章で心を揺さぶられ、ピアノの高音部が軽やかに響く第二楽章のメロディであるはずなのに、会場中に切なく響く音に私はハッとした。
そして緩徐楽章である第三楽章では、ポリーニのピアノの音の風景の向こう岸に、すすりなくショパンの姿が見えてくるようであった。
ポリーニの音が泣いてる・・・。
ショパンが泣いてる・・・。
ポリーニの音を聞いて、あもちゃん胸が張り裂けるかと思いました。
そして衝撃的なテーマから入る第4楽章。
激しく波が打ち寄せては、印象的なノスタルジックなメロディが押し返し、そこに突然鳥のさえずりのような高音のかわいらしい音が入ってくる。
感情の一つ一つがそれぞれの感情にぶつかっては散り、散っては集まってくる。
もう舞台の上のポリーニは、いや彼の向こうにいるショパンは大号泣していて、その姿にあもちゃんももらい泣きですわ。
全く泣いてませんけども!!!!つーか、手に汗握って聞いてました。はらはらどきどき。
恋人ジョルジュ・サンドとの関係が悪化しつつある時期に作られたのがこのピアノソナタ第3番である(この3年後、決定的な別れが訪れる。)。
別れが哀しかったのか、それとも違う何かを悲しんでいたのか、それはわからないが、ショパンが泣きながら作ったのは間違いないとポリーニの演奏を聞いて私は確信した。
ポリーニの演奏は、冷たい、とか、感情を排除、などと聞いていたのだが、本日の演奏、全くそんなことなくてむしろ感情の塊だったんですけど・・・
私の耳がバカ耳だから・・・?
一応、ポリーニの演奏の動画を置いておきます。
本日の演奏は低音部和音を外しまくってて、こんな完璧な演奏じゃなかった(笑)が、それでもこの演奏以上に心を打つ演奏であった。
(ただもちろん、↓こちらの演奏もすばらしいのです。)
「ショパン/ピアノソナタ第3番ロ短調作品58/ポリーニ(ザルツブルク音楽祭1981年8月20日)」
ポリーニのすばらしい演奏に会場からブラボーの声がちらほら。
うむうむ、今夜もブラボーおじさん(※)があちこちにいるね、よかったよかった。
私も心の中でブラボーを叫んでおきました。
※ブラボーおじさんとは・・・
演奏の善し悪しに関わらず、ブラボーと叫んでくれる見知らぬおじさん。
花も恥じらうお年頃のあもちゃんの代わりに重宝している。
が、悪い演奏でも言うので、必ずしもいい存在とは言えない。
アンコールはショパンのスケルツォ第3番と子守歌であった。
2曲目の子守唄は、もうこれで終わりか〜というタイミングで再びポリーニが突然舞台上に現れ、突然演奏し始めた。慌てて席に座る聴衆(笑)
2曲も弾いてくれるとは思わず、サプライズという感じで嬉しかったなあ。
(2曲目のアンコールを聞かずに会場を出ちゃった人も結構いた。)
聴衆がスタンディングオベーションでポリーニの演奏を讃えたから、それに応えてくれたのだと思う。なんという誠実なおじいちゃんなんでしょう。
(プログラムには神経質で完璧主義のポリーニの姿が語られていて、それはそれでおもしろかった。おもしろいエピソードがたくさん書かれてました〜)
ここで1つ文句が〜。
2曲目のアンコール時、会場全体が「もう終わり」という雰囲気だったこともあり、全体的にリラックスした感じで皆聞いていたのだが、あちこちで演奏中の写真をこっそり撮影したり、おそらく動画を撮っていると思われる方々を見ました。←野生児あもちゃん、驚きの視力で発見!
マナー違反にもほどがある!!!!!
ごめんね、ポリーニおじいちゃん。
一部マナーの悪い聴衆のせいで気分を害したが、演奏会そのものはすばらしかった。
汗かき夫をして
「アルゲリッチのピアノより好きかも〜」
と言わしめるほどであった。
私はどっちも好きよ〜。
汗「いや〜、それにしてもあんなにも違うものなんだなあ・・・・」
私「ん?誰と比べてる・・・?」
汗「・・・ちらっ。」
私「むきー!そりゃ今は下手くそだけど、20年前はそこそこいい演奏してたんだよ!」
汗「・・いやいやいやいや、そんなわけないでしょ。」
私「そんなわけあるの〜〜〜〜〜。」
明日から汗かき夫の前でピアノの練習がしにくくなりましたとさ。