猿若祭二月大歌舞伎〜江戸歌舞伎三百九十年〜 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

平成29年2月14日(火)、

『猿若祭二月大歌舞伎〜江戸歌舞伎三百九十年〜』(歌舞伎座)を観に行く。

 

私の永遠の恋人、十八世中村勘三郎の息子である中村勘九郎の2人の息子が(ややこしいな)、

揃って初舞台と聞けば、自称「世界の伯母ちゃん」、行かないわけにはいきますまい。

というわけで、この目でしかと見守るべく銀座の地に降り立った。

 

私「世界の伯母ちゃんが2人の勇姿を見にきたからね〜」

母「おばあちゃんもおるで〜」

 

老母と歌舞伎、とか私の人生そろそろ終幕なんじゃなかろうか。

まさに冥土の土産。

 

冥土の土産は夜の部(16時半開演)だったので、ランチを食べることに。

1週間ほど前、歌舞伎座周辺でよさげな店はあるかなあ・・

と思案しておりましたらば、汗かき夫が

「天麩羅はどう?ランチは行ったことないけど、夜はおいしいよ。」

と教えてくれたので、母に打診してみたところ

「天麩羅大好き!!」

というので、そこを予約してみた。

 

揚げたての天麩羅を食べるため、

最初のご飯セットだけ撮ってあとはひたすらモクモクと食べていた私たち。

 

2人「あっつ、ふほほほ、あふ・・あつ・・」←猫舌親子。

母「おいしいわああああああ」

私「おいしいね。特に穴子がお〜いすぃ〜!!

  そういや汗かき夫が

  『自分と味覚が似てる◎◎(←汗かき夫は母を名前で呼ぶ笑)も気に入ると思うよ』

  って言ってたけど、ほんと気に入ってくれてよかったわ。」

母「汗かき夫が太鼓判おす店はどこもおいしいわ〜♪

  また今度3人(私&汗&母)で行こうよ、連れてって〜と言っといて。」

私「う・・うん・・」

 

約2時間かけてランチを食し、珈琲でも飲みましょうか、とテキトーな店に入る。

 

ポーズをキメるあもちゃん。

さっきまで天麩羅を貪りくっていたのに、さらにスコーンを食べる。

 

お腹いっぱいと言いながら食べ、母の十八番『全方位愚痴』を聞き流しながらさらに食べる。

 

特におされな外観でもなく、本当にふっつーの(なんならダサめ)の店だったのだが、

珈琲はおいしくて、スコーンもサクサク焼きたて、母と2人で

「のんびりできたし、どこも混んでて仕方なしに(コラッ)入った店がいい店でよかったね」

とこれからの観劇に向け、ハッピーハッピー(←コアラじゃないよ)な予兆を感じていたのであった。

 

◇◆

 

 

よきかなよきかな、寿ぎの舞台に相応しい晴天じゃ。

 

かわいい私の甥っ子たち(笑)←気分は2人の伯母ちゃんですけえ。

(中村勘太郎(右)、中村長三郎(左))

 

自分に名前が二つあるという意味が理解できているんだろうか?

あだ名みたいなもんだよ、とでも説明してるのかしらん。

子どものころから特殊な環境で育つというのもなかなか大変だのう。

 

2人の舞台を「世界の伯母ちゃん」と「世界のおばあちゃん」が見守ります。

 

私「そういやダッコマン(私の本当の甥)たちは動物園に行ってるんでしょ?」

母「そうそう。私も出かける用意してたら、ダッコマンが

  『ばぁばも出かけるの?』って聞いてくるから

  『そうよ。ばぁばはあもおばちゃんと出かけてくるよ』って答えたら

  『じゃあダッコマンもあもおばちゃんとおでかけ?』って言うんよ〜」

私「お前は動物園に行くんだっつーの笑」

 

動物に会うより、ケーキを持ってくるあもおばちゃんと会いたかったか笑?

 

◇◆

 

今回も一番いい席ではなく2番目にいい席をとった。

(一番いい席は歌舞伎観劇が冥土の土産的なジジババが多く、

 ゆえに歌舞伎座に来たことで満足、肝心の舞台を観ることなくしゃべくりたおす人続出。)

 

ところがすっとこどっこいあもちゃん、2番目にいい席をおそるべき速さで確保しちゃったのか

2番目の席の中でもいい方の1階席になってしまったのだ〜。

2階席の方が静かなのに〜。←歌舞伎好きな人が多そうなイメージ。

 

桃がふた〜つ描かれた緞帳。

やはり1階から見た方が景色はいいなあ。

(2階からだとどうしても見下ろすから、奈落の仕掛けとかも先に見えちゃうの笑)

 

頼むジジババ!冥土の土産は冥土に行ってから(←コラッ!!)開けてくれ!!

 

◇◆

 

二人の桃太郎はそれはそれはかわいかったんだけど、

それ以上に「梅ごよみ」の勘九郎と菊之助の粋な芸者っぷりに酔いしれた。

 

  萩原雪夫 作

一、門出二人桃太郎(かどんでふたりももたろう)

  三代目中村勘太郎 二代目中村長三郎 初舞台

  劇中にて口上相勤め申し候

 

第一場 桃太郎どんぶりこ

第二場 二人桃太郎

第三場 門出桃太郎

第四場 桃太郎勝どき

 

兄の桃太郎 初舞台勘太郎

弟の桃太郎 初舞台長三郎

お婆さん  時蔵

お爺さん  芝翫

息子勘作/鬼の総大将 勘九郎

嫁お鶴   七之助

犬彦    染五郎

猿彦    松緑

雉彦    菊之助

村の女   児太郎   

村の男   橋之助

村の男   福之助

鬼     錦吾

鬼     亀蔵

村の男   彌十郎

庄屋妻お京 雀右衛門

吉備津神社巫女お春  魁春

庄屋高砂       梅玉

吉備津神社神主音羽  菊五郎

 

 

これほどまでに観客皆が固唾をのんで舞台を見守ったことがあったろうか。

物語はいたって普通の桃太郎。

二人の桃太郎が2つの桃からそれぞれ飛び出る、というところだけが違うだけである。

3歳と5歳の小さな桃太郎の一挙手一投足に観客のジジババたちが注目する。

頑張って台詞を言う小さな桃太郎たちの姿に胸が熱くなる。

(特に勘太郎の台詞はなかなかの量だったが、最後まで間違えることなく演じきった。)

 

5歳の勘太郎は鬼が振り下ろす金棒をぴょんと飛び越えるのだが、

3歳の長三郎にはまだむずかしく、黒衣が長三郎をひょいと抱えあげるのも微笑ましい。

観客全員、頬が緩みっぱなしであった。

おかげで1階席の冥土の土産ジジババたちは実に静かで、

冥土の土産は冥土に行ってから開けることにしてくれたようである。ホッ。

(ちなみに鬼の総大将は二人の父親である中村勘九郎であった。

 二人の息子のことが心配だろうし、自分は鬼役もがんばらないといけないし、

 夜の部の最後の「梅ごよみ」では重要な芸者役も演じないといけないし、で

 心労がたえない一か月であったろう。お疲れ様でした・・)

 

口上もチビッコ二人は頑張ります、程度だったのだが、周りを囲む役者衆がとにかく豪華!

さすがお祝いの舞台だけある。華やかにするというのが慣例らしい。

犬彦役の染五郎も

「自分も二人の襲名披露舞台にでたい!」

と積極的に売り込んだらしい。

 

私の永遠の恋人、十八世中村勘三郎の初舞台には

爺様役で染五郎の祖父(初世松本白鸚)が出ているらしく、

また勘九郎/七之助の初舞台には染五郎の父(松本幸四郎)が犬彦で出ているらしい。

歌舞伎って縁が濃ゆい〜。

ともだちのともだちはみんなともだちだ、じゃないが、

しんせきのしんせきはみんなしんせきだ、と言っても過言ではなかろう。

実際、十八世中村勘三郎が好江さん(七代目芝翫の娘)と結婚したときは、

歌舞伎役者の9割が親戚になった、と言われるほどだったらしい。

 

ところで前回の歌舞伎で私の中で株を爆下げした橋之助改め八代目中村芝翫だが、

 →参考記事『芸術祭十月大歌舞伎

爺様役として舞台をよくまとめていた。

文春騒動はとりあえず芝翫の中では収拾がついたようである。

華やかな主役もすてきな脇役も演じられる大役者になってほしいものである。

 

二人のちびっ子桃太郎が勝ちどきをあげ、舞台は終わった。

 

母「んも〜〜〜〜かわいかった〜〜〜〜〜〜><」

私「ほんと、がんばってたよね〜〜〜〜〜〜><」

 

伯母ちゃんとおばあちゃん、二人のかわゆい姿にメロメロであった。

 

母「昔は思わなかったけど、勘九郎と七之助、やっぱり兄弟じゃなあ。よう似とるわ〜」

私「そうなんだよね。似てないように思えるけどやっぱり似てるんだよね。」

 

ところで私の愛する中村扇雀さんがこの舞台にいないのだ。

中村屋の主要な舞台にはだいたい出演するのに、今回私の愛しの扇雀さんがいない。

なぜならば〜

こっちに出ているからなのであります。

扇雀ラブのあもちゃん、もちろん観に行きました!!

後日アップ予定だが、扇雀さんがもったいない使われ方をしていて残念だった。

 

 

二、絵本太功記(えほんたいこうき)

  尼ヶ崎閑居の場

 

武智光秀  芝翫

操     魁春

真柴久吉  錦之助

佐藤正清  橋之助

初菊    孝太郎

武智十次郎 鴈治郎

皐月    秀太郎

 

観客席、舟を漕ぐ人、続出!笑

全体的に静かな展開のせいか、照明が薄暗いせいか、

はたまたジジババたちはそろそろおネムの時間のせいなのか。

みんな寝ていて(隣の母も笑)、確かに地味な展開ではあったが、

私はこの作品好きだったなあ。

 

最初はほんとどうなることかと思ったが(凪のような展開)、

鴈治郎演じる若い十次郎が戦で死にゆく場面や、それを嘆く女性たちの姿に涙した。

若者が戦で命を落とす姿はいつの時代も辛い。

しかし父親である光秀(芝翫)は息子の命を失ったのはつらいが、

侍としての生き様を優先するこのじれったさもよかった。

 

私「なんだかんだでよかったわ〜。とくに鴈治郎がよかったわ〜」

母「なんかようわからんかったわ〜。」

 

そりゃあれだけ寝てればわからないでしょうよ。

ま、静かに寝ている分には全然かまわない。

 

幕間は30分。

 

ランチで天麩羅、おやつにスコーンを食べて、

「もうお腹いっぱいで食べれんわ〜」

と言いながら、お弁当を買ったらなんだかんだで二人とも完食であった。

 

休憩時間にはイヤホンガイドでチビッコ二人と勘九郎/七之助のインタビューが聞けた。

 

母「うんうん。」

 

イヤホンガイドの中の勘九郎の声に返事する母。を横目で見る私であった(¬_¬)

 

 

  為永春水 原作 木村錦花 脚色

三、梅ごよみ(うめごよみ) 

  向島三囲堤上の場より深川仲町裏河岸の場まで

 

丹次郎   染五郎

芸者仇吉  菊之助

芸者米八  勘九郎

千葉半次郎 萬太郎

許嫁お蝶  児太郎

本田近常  吉之丞

芸者政次  歌女之丞

太鼓持由次郎 松之助

番頭松兵衛 橘三郎

古鳥左文太 亀鶴

千葉藤兵衛 歌六

 

序幕  第一場 向島三囲堤上の場

同   第二場 隅田川川中の場

二幕目 第一場 深川尾花屋入口の場

同   第二場 深川尾花屋奥座敷の場

三幕目 第一場 深川中裏丹次郎内の場

同   第二場 深川松本離れ座敷の場

同   第三場 深川仲町裏河岸の場

 

簡単に説明すると、

染五郎演じる色男丹次郎をめぐって、許嫁のお蝶と芸者仇吉と芸者米吉が揉める

というよくある話なのであるが、これがもう本当に気持ちがいいの。

お家騒動というシリアスな話も盛り込みながら、仇吉と米吉が殴り合いのケンカ、とか

腹抱えて笑うところもた〜くさん。

勘九郎の米吉もそれはそれはすばらしかったが、

今回本当に目ん玉ひんむいて見つめてしまったのが、仇吉を演じた菊之助。

歌舞伎以外の時はあまり好きな顔じゃなかったのだが(失礼すぎ〜)、

鬼平犯科帳ファイナルのときは、鬼平役の義父吉右衛門と出演していたが、

そのときも好きじゃなかったのだが(しかし所作はさすがでありました)、

舞台の「仇吉」を演じる菊之助は本当に輝いていた!!!

 

メリハリのある舞台で、起きていたジジババたちは大いに笑い楽しみ、

そして夜も深まり(幕間のご飯タイムも効果抜群)、大半のジジババたちは寝ていて、

私は周囲に全く気をとられることもなく、本当に心から楽しめた。

 

今をときめく若手(壮年?)の勘九郎、菊之助、染五郎が揃う舞台なんて本当に珍しい。

それもこれもチビっこ二人の襲名披露のおかげであろう。

勘九郎も菊之助も、そして色男丹次郎を演じた染五郎、三人が本当にすばらしかった。

3人ともに、間もよく、息づかいもすばらしく、何より抜群のセンスであった。

泣いて、笑って、江戸の情緒に浸り、そしてジリジリと胸が焦げていった。

 

結局この物語は、許嫁のお嬢様であるお蝶と丹次郎が結婚、という大団円で終わるのだが、

その結末を見て命を賭けて丹次郎を守ろうとした芸者二人(勘九郎/菊之助)が

「しらけるねえ〜」

と強がりを言って幕切れとなるのだ。

 

ほんとそれが粋だった。そしてなぜだか泣けてきた。

身分をちゃ〜〜んとわきまえている芸者でありながらも、その心中を察すると切ない。

 

「芸は売るが操は売らぬ」という張りと意気地を身上とした、

気っ風のいい江戸深川の辰巳芸者は深川花街の名物だったらしい。

(深川が江戸城から見て東南(辰巳)の方角にあったから辰巳芸者と呼ばれた。)

 

好きな男のために命を賭して生きるが、その男の幸せのためなら身をひくことも厭わない。

二人の芸者の様子にあもちゃんの胸が焦げた。

しかも丹次郎と結ばれるお蝶がこれまた性格がかわいいのだ。

高慢ちきの性格のクッソ悪いお嬢様なら二人の芸者もぶん殴ってやれもしただろうが、

幸せになるんだよ、と女から見ても思えるそんな可憐な少女なのだ。

 

ううーん、改めて思いだしてもこの作品、よく出来てると思う。

為永春水かあ。1冊人情本でも読んでみようかしら。。。

 

プログラムを後から読んでみたところ

 

「為永春水の「春色梅児誉美」、続編「春色辰巳園」を原作としている。

 明治に入り、関西で火着した歌舞伎役者の勝諺蔵が『春色辰巳園』という外題で

 歌舞伎にし、以後、多くの作品が生まれた。

 その中で、昭和2年7月、歌舞伎座において、木村錦花の脚色、

 十五世市村左衛門、六世尾上梅幸、七世澤村宗十郎で初演された舞台は、

 舞台監督を永井荷風、美術を鏑木清方が勤めた豪華版でした。

 この時の台本を基本にして上演を重ねている。」

 

とのことであった。

 

とりあえず原作にあたってみたいが、そんな気力が今の私にあるかしら・・・。

 

チビっこ二人に癒され、芸者二人に心を焦がされ、今回も幸せになった歌舞伎観劇であった。

 

二人とも、がんばるんだよ!!