(あらすじ)※Amazonより
この十年、僕らは誰ひとり彼女を忘れられなかった。
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」
『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』『きつねのはなし』代表作すべてのエッセンスを昇華させた、森見ワールド最新作!旅先で出会う謎の連作絵画「夜行」。
◇◆
第156回直木賞候補作である。
直木賞の様子についてはこちら・・・
→『あもる一人直木賞(第156回)選考会ー結果発表・統括ー』
煙のように消えてしまった友人を巡って、仲間たちが1人1人過去について語っていく話を短編集という形でつなげていく、なんとも不思議で少々怖い作品。
10年前、英会話教室の男女グループのうち、ふっと夜の穴に消えるようにして失踪した長谷川さんという女性がいた。
しかし皆、長谷川さんを心に留めてはいながらも普段の日々を生きていた。
そして10年後の現在、再び仲間が集まった時、とある画家の絵をきっかけに、一人一人がそれぞれの「夜」について話し出す。それらの話は
「尾道」「奥飛騨」「津軽」「天竜峡」「鞍馬」の5章に分けられ、それぞれ5つの場所での夜が描かれている。
慎み深い恐怖がそこには描かれていて、夜の底のような漆黒の闇の世界が広がっている。
この5つの場所のうち、私は尾道しか行ったことがないのだが、夜に尾道の坂から海を見下ろすと、電車の窓だけが光っていてそれらの列が夜を横切って行くのがよく見える。
それがなんとなく美しくもあり、ちょっとこわかったりもする。そんな情景が鮮やかに描かれていた。そんな「尾道篇」は特にこわかったです。
しかし読んでも読んでもなんだかよくわからず、各章が終わっても理解不能、闇に包まれたままどんどん物語は進む。
ここでおそらく好き嫌いが極端に分かれると思う。
そして最後に映画「シックスセンス」的などんでん返しが待ち受けている。・・これはちょっと違うか。
最後まで密やかに謎めいているのだが、なんとなくギリギリ足が地に着く結末を迎える。
実際生活していて時々思うことはないだろうか。もう一人自分がいて、その別の私は別の違う人生を生きているんじゃないか、と。
(結婚、仕事、転居、生死・・の人生の岐路で分かれて行ったもう一人の自分。)
それが地面ごとひっくり返り、目の前で暗転するような驚きを持って最後の章を読んだ。
ラストもこの作品らしく曖昧であった。
どっちとでもとれる。ハッピーエンドかバッドエンドか。夜行か曙光か。
パタッと絵画が反転する瞬間、そこには派手な怖さはないが、ひたひたと忍び寄る怖さがあった。それを巧みに描いていた。
上記でも触れたが好きな人は好きだと思う。
だが最後まで「?」が消えない人も多いと思う。全く答えも出ず、解決もしないからである。
パラレルワールドを描いているのだ、と言えば多少解決することもあるかもしれないが・・
この摩訶不思議な世界が森見作品の特徴でもあり、愛すべきところなのだが、直木賞選考会のような権威ある(小馬鹿にしております)場面では、「説得力がない」と弱点にもなる。
そしてその弱点が案の定そのままネックとなり、直木賞を逃してしまった。
しかも惜しくも・・というわけでもなく。
「森見登美彦さん(38)の作品は、今までいくつも読んでいるが、なかなか理解に苦しむ。そこが読みどころではあるが、今回の「夜行」は、スタンダードな小説の形を踏んでいた。一読者としては大きく自分のところに近づいてきてくれた。ただ、今回はかなり重厚な骨太の作品が多かったので、膂力(りょりょく)に欠けたという感じがしました。」
要するに
今までの森見さんの作品は摩訶不思議すぎて難解だったけど、今回の作品は多少リアルな世界に基づかれた作品だったので、わりとわかりやすかった。でも描かれている内容が重厚なものだったので、今度はそれを支える筆力が少々足りなかった
と言われております。
きっと今の選考委員のままだと一生直木賞は獲れないだろうなあ、もりみん。
第156回では六度目の正直、の恩田陸さんが直木賞を受賞したのだが、それに遜色ないと思ったんだけどなあ。まるで世界観は違うけれど。
私はこのなんともいえない摩訶不思議なモヤモヤが好きだった。手に触れたら溶けてしまいそうな不安定な物語の連なり。
私が今いる世界は本当の世界なのか?誰しも一度は朧げに感じるささやかな疑問。それを見事に描いている。
夜の尾道と、雪国の津軽の描写のすごみに私はやられたよ。「膂力に欠ける」だなんて思いもしなかった。ラストの「夜行と曙光」が交差する神秘的かつ恐怖の描写もすばらしかった。
さすがベテランという腕前を思う存分見せてもらった作品であった。
しかし私は知った。もりみんが私より5歳も年下だってことに!まだ30代ではないか。。。ベテランというには若過ぎる〜。あの作品の落ち着きっぷりはなんなのか。
いっそ直木賞なんて気にせず、その不思議な世界観を描いて何度でもノミネートされ(何度もノミネートされるということは文藝春秋の社員にもりみんファンがいるってこと笑)、そのたびに私を摩訶不思議な世界に誘ってほしいものである。