8月の家族たち | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

平成28年5月14日(土)、『8月の家族たち』(in シアターコクーン)を観に行く。



選ばれし俳優たちのすごみに注目!!

スタッフ
作:トレイシー・レッツ 翻訳:目黒条
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

美術:松井るみ 照明:関口裕二 音響:水越佳一 衣裳:伊藤佐智子 
ヘアメイク:宮内宏明 擬闘:栗原直樹 演出助手:坂本聖子 舞台監督:福澤諭志

出演
麻実れい、秋山菜津子、常盤貴子、音月桂、
橋本さとし、犬山イヌコ、羽鳥名美子、中村靖日、藤田秀世、小野花梨、
村井國夫、木場勝己、生瀬勝久

(あらすじ)※公式HPより
8月、オクラホマ州のオーセージ郡。うだるような暑さの中、
ウェストン家の三姉妹のうち、長女バーバラと次女アイビーが実家に戻ってきた。
詩人でアルコール中毒の父ベバリーが失踪したというのだ。
ベバリーは家政婦ジョナを雇った直後に、姿を消していた。
家に残されていたのは、薬物の過剰摂取で半錯乱状態となり、
口を開けば罵声を娘たちに浴びせる母バイオレットだ。
長女バーバラは夫のビル、娘のジーンを伴っていたが、家族には明かせない問題を抱えている。
両親想いの次女アイビーもまた、家族には秘密の恋愛を育んでいる。
ぎくしゃくした母と娘たちの緩衝材は、陽気な叔母マティ・フェイと夫のチャーリーだ。
そして一家に、衝撃的な現実が突きつけられた。
やがて三女カレンが婚約者のスティーブを連れて姿を現す。
叔母夫婦の息子リトル・チャールズも到着し、ようやく一族全員が揃ったディナーのテーブルで
それぞれが抱える鬱積が爆発し…。

2007年にシカゴの劇場で産声をあげた本作は瞬く間に脚光を浴び、
同年にはブロードウェイに進出、戯曲はピューリッツァー賞を受賞、
作品はトニー賞最優秀作品賞他4部門を受賞。
映画版は、母役にメリル・ストリープ、長女役にジュリア・ロバーツ、
次女役にジュリアン・ニコルソン、三女役にジュリエット・ルイス、
そしてユアン・マクレガー、ベネディクト・カンバーバッチなど錚々たるキャストが出演。
各国の映画賞を受賞・ノミネートされるなど、輝かしいばかりの功績を誇ります。
かねてから日本での上演が渇望されていた21世紀を誇る名作が、
2016年5月Bunkamuraシアターコクーンにて上演いたします!

◇◆

秋山菜津子さんが出演する舞台は過去にも何度か見ているはずなのだが、
今回ほど秋山さんのうまさを痛感する作品はなかった。

そりゃー今までも下手だなんて思ったことはなかったけれど、
本当に今作品では秋山さんの上手さが際立っていた。
(私の中で)絶対女王として君臨する麻実れいをしのぐほどのうまさであった。

しかし麻実れいさんは見れば見るほどうちの母親に似てる。
容姿が似ている以上に、とにかくうちの母同様、圧がスゴイ!!→千鳥風に。

あ!きっと東日本最強母は麻実れいさんなんだ~。
あ!でも子供はいないみたいだから違うか~。

現在、東日本最強母の座が空席なのはともかく、
圧がすごくてクセの強い母親役をやらせたら、麻実れいは天下一品。

薬物の過剰摂取で半錯乱状態で、口を開けば罵声を娘たちに浴びせる母

なんてどう演じたらいいんだっつーの。

そんな怪物的な母が心の拠り所にしているのは、家を去った長女であるバーバラ。
理知的でクールでしっかりもので、家を去ってはいても一家の要である長女。
わ~か~る~。
長女が家族の要っていうの、すごくわ~か~る~~。

次女のアイビーは結婚もせず、家のそばに住んで両親の世話をしていた。
姉と妹が、両親を捨てて家を出て行ったことを半分恨みながらも、
それでも自分は両親を置いて出て行けない。。と自分で自分を縛っていた。

母親はそんな次女の献身的な態度もあまり受け入れていない。
だって長女に依存してるんだもーん。
三女カレンに至ってはあまり目に入っていないご様子。

母は、子供がみんな同等にかわいいわけじゃない、とか言っちゃうの。
ひえー。
まあそりゃそうなのかもしれないでしょうけども。それを言っちゃあおしめえよ。

叔母(母の妹)との話から、母と叔母の母親はとんでもない親であったことが明かされる。
今で言う虐待である。
母と叔母の姉妹は、そんな虐待を受けながら成長し、今に至っていた。

母に常につきまとう重たい影と子供への愛情表現の下手な理由がわかる気がした。
そして叔母の妙な明るさとその場をとりなそうとする性格の理由がわかる気がした。

第一幕では母親が猛烈な勢いで家族を振り回す様子が描かれ、
第二幕ではそんな母親に立ちはだかって長女が宣戦布告。

あんたはわかってないかもしれないけど、私がこの家の主導権を握ってんのよ!

かっこいいいいいい~~~~~。
このときの秋山さんがめちゃかっこよかった。
キリリと母バイオレットに向かって立つお姿に、私、惚れた~。

そして第三幕では三姉妹の抱える問題が母によってどんどん明らかにされ、
再び母の手に主導権が戻るのだが、そのときには母の元を皆が去り誰もおらず、
母バイオレットの元に残ったのは家政婦ジョナだけだった。

こうして書き出してみるととにかく人間関係が複雑な物語であったこと、
そしてどこから見るかで全く違って見える作品であることがわかる。

愛した人と離婚することになった長女。
旦那に色々と感情的にぶつけちゃうのね。そして素直にかわいくなれない。
(一番クールで理知的な長女が、実は一番母親と似ているという皮肉。)
愛した人が実は腹違いの兄弟(叔母と父が・・)であったことがわかった次女。
愛した人が明らかにあやしくてダメ男であった三女。

虐待で育った母が育てた子供たちは、皆何かを抱えてる。
ともとれるし、
皆、その連鎖を断ち切るべく、自分が育った家族を捨てて出て行った
ともとれる。

また母と叔母の姉妹の関係も見逃してはいけない。
親から虐待されて育ち、お互いがお互いを支え合って成長した絆は強い。

母と叔母、母と叔母と2人の夫、母と娘たち、そして娘たちとそれぞれのパートナー。
それぞれに愛情があって、愛を皆それぞれの形で不器用に求め、
時にはその愛が自身を強く縛り、それがほどけたり・・
家族が激しく罵り合いながらも、そこから奇妙な形で出現する愛。

明るく見ることも、暗く見ることも、全ては私たち観客に委ねられている。
ブラックコメディと言ってしまえばそれまでなのだが、
なんというかブラックコメディと単純な言葉で言えないのがもどかしい。
笑いと静寂や恐怖の落差の激しさとそこから飛び出る妙な愛の形に、
背筋を凍らせながら笑うのだ。
それをブラックコメディっていっていいのかなあ。
あもちゃん、英語が苦手なもんですけえ。

さらにはそういうブラックコメディを成功させるには、役者がうまくないといけない。
改めて今作品の役者さんは皆、うまかった。と言いたい。

ヤク中の母親役が難しいことは当然だが、実は秋山さん演じる長女の役もとっても難しい。
家族の要として母をうまくとりなしながら、三姉妹の長女として姉妹をまとめる。
その一方で自分の夫(実は離婚している)や娘とのぎくしゃくした関係を
どうしようもなく持て余していて、幼なじみの保安官には懐かしさからかわいくなる。
いろんな表情を見せていたのがこの長女であった。

常磐貴子ってうまいんだろうなあ、と思っていたが(マクベスでも見たけど笑)、
麻実れいや秋山さんを前にすると、そうでもなかった・・。
いやいや下手じゃないんだけども!!
男性陣もうまい人ばかりで最後まで気が抜けない一夜であった。

最後に私イチオシの演出家ケラさんについてちょっと触れたい。
相変わらず「女」の作品を演出させたら日本一!
すごーくおもしろかった。
そして「三姉妹」作品が本当に好きなんだなあ~と感心した。
作品の至るところからケラさんの愛情を感じることができた。

公式HPによると、ケラさん曰く

「キャスティングについては、
 今回は私の要望とプロデューサーサイドのオーダーを擦り合わせました。
 結果、私にとって未知の俳優さんを含めた、新鮮な顔ぶれが集結。楽しみです。」

なるほど納得。
なんかケラさん的なキャスティングじゃないよな~と思っていたのだが、納得。
しかしその新鮮さがよい結果を生み出していた。

また台本についても

「急遽、演出に加え、上演台本もやらせてもらうことにしました。
 近年連続しているチェーホフ作品同様、大幅な改変は一切するつもりはありませんが、
 同じ内容の台詞でも、語順、語尾等を変更し、
 微細な加筆や削除の権限を与えてもらえるだけで、
 作品を生き生きしたものにできる可能性が大きく広がるのです。」

とのことで、改変はなくとも少しだけケラ色になっていたようである。

プログラムでは

「今回も上演台本は自分でやらせたもらったとはいえ、
 執筆と同時に脳内で演出もしている次作とは違って、
 たとえば「この台詞さえなければスムーズに流れるのに」と感じる台詞があっても、
 大幅な改変はできません。その辛さを自虐的に楽しみ、
 数多の不自由さをクリアしていくことで、自分が鍛えられるはずだと思うわけです。
 まあ実際には大して鍛えられていないかもしれませんけど。」

と話しているのだが、私が思うに、ケラさんのオリジナル脚本もとってもおもしろいのだが、
他人の脚本という制限がある中でのケラさんの演出ほどおもしろいものはないと思っている。

自由句なんかより、575という制限がある俳句のほうがよっぽどおもしろい、
というのと同じかもしれない。ええ、私の勝手な意見です。

最後にちょっと長くなるが、プログラムにあったケラさんの文章を記載しておきたい。
だれのためでもなく、自分のために。

「これは個人的な話ですが、去年、自分の母親を亡くしたことで、ようやく家族というものから解放されたという感覚があります。奥さんはいますが、どこかでずっと母親の呪縛にとらわれていたところがあった。母が死んだときにはすでにこの作品をやることが決まっていましたが、図らずもそんなタイミングであったために、自分にとってこの作品を上演する意味がかなり変わってきたんです。
 母は僕が中1の時に家を出て行ったので、この作品の姉妹たちのように、母親と言い合いをした記憶は僕にはありません。ただ、父親に包丁を突きつけている母親を仲裁したり、酔った母に随分と振り回された幼少期でした。その母が死んでしまったことで様々なことが許せたりもするし、逆に、聞こうにも永遠にわからなくなったことも出てくる。でもわかりようがないからこそ吹っ切れるという面もあるわけです。それがこの作品に影響を及ぼすかどうかは別として、パーソナルな楽しみとして、家族というのをより俯瞰して眺めながら演出できていると思います。
 必ずこういう偶然というものはあって、自分の置かれている環境と、その作品をやるということの因果関係を、毎回自分でしつらえているところがあるのかもしれない。どんなに計算して創ったとしても、実際の舞台生かの何割りかは『運』だったりもしますから。前後にやる作品の順番によっても思考が変わるし、俳優のコンディションにも左右される。結局のところ、演劇は偶然の産物でもあるんです。偶然の積み重ねによって、作品ができあがっていく。直感と言ってもいいけれど、そうした偶然が生み出してくれる軌跡を、僕はずっと信じているのだと思います。」(7頁)

壮絶な内容であることもさることながら、文章が非常に美しい。
ケラさんの文面に私の巨乳はわしづかみにされた。
私の勉強のためにメモしておきたい。


ところで映画版はこれらしい↓
母親バイオレットを演じたのはメリル・ストリープとのこと・・適役すぎぃ。
似合い過ぎてて、見るのがこわい。
でもどんなすごい演技をしてるか無性に見たい。
こわいものみたさ。

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