平成23年7月5日(火)、
シス・カンパニー公演『ベッジ・パードン』(in世田谷パブリックシアター)を観る。


$感傷的で、あまりに偏狭的な。

[作・演出] 三谷幸喜

[出演] 野村萬斎/深津絵里/大泉 洋/浦井健治/浅野和之


「愛する」ってなんだろう。


ネタバレします。

(あらすじ)※パンフレットより
1900年12月6日の朝。
ロンドン、フロッドンロードの一角にあるブレット家の三階に、
ひとりの日本人留学生が転居してきた。彼の名は夏目金之助(夏目漱石の本名)。
10月にロンドンに到着したばかりだ。
階下には貿易会社の日本人駐在員、畑中惣太郎が下宿している。
社交的で英語を流暢に話す惣太郎に対して、日本で英語教師をしていた金之助の英語は、
現地ではまったく通用しない。
厳守草木の主人ブレット夫妻や、英文学を教わるクレイグ先生の前では、
つい口が重くなってしまうのだ。
女主人の妹ケイトの存在も金之助を憂鬱にさせる。

そんな金之助も、ブレット家の女中、アニーペリンとは、
唯一肩の力を抜いて会話を楽しむ事が出来る。
アニーはロンドンの下町イーストエンド生まれで、明るく気のいい働き者。
ただしコックニー訛りがキツく、彼女の口癖である「I beg your pardon?」は、
金之助には「bedge pardon?」と聞こえる。
そこで金之助はアニーに「ベッジ」というあだ名をつけた、
しだいに心を通わせていく二人。

一方、ベッジの弟、グリムズビーも金之助を大いに気に入り、
とある計画をもちかけてくる。
1901年1月22日、ビクトリア女王が崩御。
ロンドンでは盛大な葬儀が行われようとしていた。
金之助が巻き込まれようとしている計画とは?

そして金之助とベッジの恋の行方はー?

明治政府の命を受け、夏目漱石が英国留学へと旅立ったのは1900年のこと。
ロンドンから綴った漱石の手紙には、度々[ベッジ・パードン]なる女性が登場する。
生来の神経症的性質を抱え、漱石は異国の地でどんな人間模様を育んでいたのだろう?
三谷幸喜が描く“のちの文豪”と“ベッジ・パードン”の物語。


三谷幸喜って残酷だな、と思った。
ろくでなし啄木』のときには感じられなかった感覚。

この作品は、
夏目漱石のイギリス留学時代に書かれていた日記などからヒントを得てはいるものの、
基本的に、三谷の創作作品である。

で、あのラストだ。
どうにでもなったはずなのに、あえて、あれ。

三谷幸喜が小林聡美と離婚した、ことを知っているからだろうが、
離婚した理由がこの作品に描かれている気がする。

そういや、二人の離婚を伝えるニュースの見出しの『電撃離婚』に笑った。
誰にとっての電撃なんだっつーの。
明石家さんまは1年前から離婚をすることを知っていたらしいし。
家族のことなんて、ましてや夫婦のことなんて、本当のことは誰も知らないって。

ま、それはさておき、
この作品における夏目金之助が三谷幸喜そのもののような気がしてならなかった。
私の大好きな野村萬斎さんが演ずる金之助が、最後まで冷たい人に見えた。

自分のことしか考えていない人。
異国の地で、孤独に耐えかね、
淋しくて淋しくて、女中ベッジパードンと結ばれる。

しかし金之助には日本に残した家族がいた。
妻がいた。
子供もいた。
しかも妻は二人目を妊娠していた。

でもベッジパードンに真実を話さなかった。
妻はいるが、離婚する。子供はいない、と嘘をつく。
なによりそばにいると落ち着ける、そんな彼女を離したくなかったのだ。

妻とはうまくいっていないし、
僕は彼女がいなければ生きていけない。
日本に一緒に来てほしい。
金之助はそう言った。

ベッジは
金之助がいれば私は幸せ。
どこにでも行く。
あなたがいてくれれば私はそれでいい。
苦労なんて気にしない。

ベッジパードンはどこまでも彼をまっすぐ信じ、愛した。

しかし、妻とはうまくいっていない、というのは、
単なる行き違いであったことを知る。
大泉洋演じる惣太郎が、金之助の才能に嫉妬し、
妻からの大量の手紙を隠していたのだった。
(男の嫉妬のやっかいさが、よく描けている。男の嫉妬は女の嫉妬よりも根が深そう。)


妻はちゃんと金之助を心配し、想っていた。
金之助は妻の思いを知る。
ベッジは金之助の困惑に気づき、
金之助が自分を連れ出してくれなければ、
明日にでも娼婦として売られてしまうにも関わらず、
金之助の前から姿を消すのであった。
その後、ベッジは娼婦宿で体を壊し、病院で死んだ、と風の噂で聴くのであった。


金之助は
最初から最後まで自分のことばかりで、
ベッジのことなんて、ちーっとも考えていなかった。
ベッジは
最後まで金之助にとって一番いい道を、と
自分のことより金之助、金之助の選択肢を摘まない、という生き方を選んだ。

と思うと、
深津絵里ちゃん演じるベッジが愛おしくてならなかった。

ベッジも金之助も、お互いを求めていた。
愛、を心にもっていた。
でも、それぞれ二人の愛の形が違った。

愛ってなんなんだろう。
それは、もしかたしたらただの幻なのかもしれない。
独りよがり、というか、
あるようでなくて、ないようである、そんな不確かなもの。

その後、金之助は精神を病む。
慣れないイギリス生活と、ベッジへの想いと、ベッジへの申し訳なさなどから。
そんな中、ベッジの夢を見る。
ベッジは金之助に、
気にしなくてもいいよ~、作家になりなよ~。きっとなれるよ~。
と言ってくれる。

みんな金之助に、
作家になれ。
ユーモアのセンスがある。
文才もある。
と励ましてくれる。

そして、ラスト。
窓から微笑むベッジ。
外から覗き込む、犬や惣太郎。
その微笑むをうけ、うん、なにか書いてみようか。
と何かを決したような強い表情をする金之助なのであった。


おいおい。
ベッジ、死に損。
というか、その夢、随分都合よくねえか?

人間は常に言い訳しながら生きている。
誰のためでもなく、自分のために。

私はねえ。
そんな金之助の姿と三谷幸喜がものすごくかぶって仕方なかった。
というか、三谷幸喜は、金之助の姿に自分をかぶせたのではないかと思う。
自虐的、というか、自戒の意味、というか、僕こんな人なんです、というか。

残酷だなあ。

人柄は作品には出るが、作品の善し悪しには関係ない。
と思う。

きっと三谷幸喜って自分の作品に対し、極限まで頑張れる人だが、
それ以外には、全く目もくれない人なんだと思う。
それはある面から見れば、とても残酷だ。
ある面、妻、から見れば。

自分が一番、自分のことしか考えない人。
でも才能であふれている人。

なーんて、勝手なことを妄想しながら観ていた私なのであった。

野村萬斎さんは相変わらず素敵だったし、
深津絵里ちゃんもかわいかったし、
大泉洋さんはあんな感じだったし、
でもでも、なによりよかったのは、
浅野和之さんでした~。

過去、浅野和之さんの作品をいくつか観てるのね、私。

叔母との旅
海をゆく者

いずれもよかったわ~。
特に、叔母との旅。
パンフレットで知ったのだが、この「叔母との旅」で、
第18回読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞しているらしい。

その『叔母との旅』で、一人10役をこなした浅野さんだったが、
今回はなんと一人11役を演じている。

とにかくすごい。
ラストなんて、犬になっちゃったんだから!!!!
犬から尻軽女まで、なんでも演じちゃう浅野さんなのでありました。

肝心の作品への評価ですが。
おもしろかったんだけど、妙に淋しかったんだな。
作品の残酷性ばかりが目立って、素直に楽しめなかったのも事実なのであった。