- もいちどあなたにあいたいな/新井 素子
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昨日のあなたと今日のあなた。
わたしの知っている本当のあなたはどっち?
(あらすじ)※Amazonより
なんだか変!いったい何が起きてるの?
大好きな和おばさんは、愛娘を亡くして大きなショックを受けているはず、
だからあたしが力づけなくちゃ。
でも、それにしても。―何かがおかしい。
澪湖は、その謎を探り始める。
失われた記憶と、関係のなかで醸成され増幅される呪詛・・・
著者ならではの軽妙な文体でつづる濃密な物語。
※記事最後で少々ネタバレします。
新井素子氏については、最相葉月『星新一1001話をつくった人 』で多少知っていた。
・SF作家であること
・高校二年生で、第1回SF新人賞で佳作入選。
・小松左京や筒井康隆は新井の文体に違和感を覚え反対していたが、
星新一があまりに絶賛したため、入選となった。
程度なのだが・・・。
新井氏の作品はこれが初。
なぜこれをあえて選んだかというと、タイトルのかわいらしさ。
とにかくタイトルに惹かれ、きゅんとした。
「もういちど」
ではなく
「もいちど」
これは絶対に作者がこだわっているな、とわかる。
案の定、ラスト、「もいちど」である理由が明かされる。
・・・この理由が明かされるくだり、丁寧すぎてしらけたのだが。
親切に色々と教えてくれるのはいいのだが、
そういうところは、「なんとなく」で通じるものだし、あまり説明されても・・・
とちょっと冷めちゃったのだが。
作品全体の評価としては、
「SFもの」としての下敷きがあるため、
全体的に現実から少し浮いた印象のある作品である。
SFに私が慣れていないせいなのか、
最後の最後まで「遠い世界」という印象のぬぐえない作品であった。
遠くで事件が起こり、最後まで身近に感じられず、
旅先のテレビでたまたま見たドラマ、それくらい遠い距離。
が、
最後の陽湖の独白部分のみ、怒濤の「リアリティ」と「生活感」の描写で、
なんぞ昔にあったんですか?
と聞きたくなるような、肌の近さ。
せっかくここで
「陽湖と澪湖」の親子関係の難しさとこじれを丁寧に描くチャンスなのに
さらっと流されて、
突然憎み合う親子、と断定され描き終えてしまった。
私・・・ついていけませんでした。
もう少し説明してほしかったなあ。
そりゃ「和おばさん」の話がメインであるから、
多少シンプルになってしまうのも理解できるのだが、それにしても略しすぎる。
新井氏の文章からにおってくるにおいが少し私の文章のそれと似ている。
だから親近感はあったのだが、
少し崩しすぎの箇所は鼻についた。
ただ・・・
ラストの文章はすごい。
今までのどうでもいい、だらけていたもの全てを吹っ飛ばす文章力。
いきなりキラキラ度が増し、新井さんの文章力が100%フルに発揮されている。
名文。
本当に名文。
ラストの名文を引用したい。キュン。
※ここからかなりネタバレしますよ。
(和おばさんはパラレルワールドを旅する人であった。
無自覚のまま、違う世界に飛び移ってしまう。
寝て起きたら、違う世界の私になっているのである。
そんな自分に戸惑いながらも受け入れながら生きていくしかない和おばさん。
そんな和おばさんの独白。)
いつも。
いつだって。
私は、怖い。
だって。
私は、いつ、他の世界に行ってしまうのか、まったく、判らないんだよ。
(略)
ゆるく、噛む。
キョウちゃんの腕。
これは、今は私のキョウちゃんの腕なんだけれど、あした、同じこの腕が、私のキョウちゃんであるのかどうかは、まったく判らない。
まったく別の「私」が、このキョウちゃんの腕を所有する可能性はある。
いや、そんなことを言うのなら。
今、噛んでいる、この腕、それ自体が「私のキョウちゃんの腕」では、すでにして絶対にないよね。
(略)
そうしたら。
そうしたら、私は。
もう一度。
もう一回。
お兄ちゃんは私のヒーローだ。
その、ヒーローに。
もういちど。
私の、夢、だ。
もいちど、あなたに、あいたいな。
もいちど、あなたに、あいたいな。
(Fin)
(引用終わり)
オープニングのエピソードにつながるラストの描写に、キュンときた。
私の心臓は握りつぶされたかのようであった。
しかもこのラスト描写が実は二重構造。
(1)エンディングからオープニングへと読者を引き戻す。
(2)エンディングにおいて語られる和おばさんの夢
=「玉突き事故」が続いていけばスタート地点に還ることもあるかも。
この二重構造に気づいて、ますます切なくなった。
実はラスト直前まで、
「あ~あ、そんなに面白くなかったな。次、何読もう?」
とまで思っていた私。
しかし、このラスト数ページで、一気に泣いた。
作品全体の評価はあまり高くないが、ラストは最高。