katoken

平成20年10月25日(土)、『 詩人の恋 』(紀伊国屋サザンシアター)を見る。


「詩人の恋」といえばシューマン。

シューマンといえば、私。


は?


いきなり突飛だったが、シューマンを弾かせたら右に出るモノはいない、と

周囲1mくらいの人に言われてはや○年。


シューマンの「詩人の恋」、スキだったなあ。

小・中時代、よく聞いていた。

ロマンチックで(ドイツ語わかんないけど。いやもちろん英語もわからない。)、

メランコリックで、思春期の私をさらに悩ませた歌だったと思う。


この演劇、演劇、と言っていいのかなんと言っていいのか。

オペラでもなく、ミュージカルでもない。

ただただ、音楽劇、である。


あらすじを少々。


ウィーンに住むマシュカン教授。

彼はピアノは下手くそで、声楽家としても峠を過ぎたヴォイストレーナー。

そんな彼の前に、かつて神童と言われたピアニストのスティーブンが現れる。

スティーブンは音楽の壁に突き当たってピアノが弾けなくなってしまい、

クラシック伴奏者への転向を考えていた。

そのためのレッスンを受けるのに、何故かマシュカン教授を紹介されたのだ。

ピアニストであるスティーブンに、マシュカン教授は何を思ったのか、

シューマンの連作歌曲『詩人の恋』を全編歌いこなすことを課題とする。

“ピアニストが何故、歌を?!”と強く反発するスティーブンだが、

嫌々ながらも歌のレッスンを始めることに・・・。

音楽に身も心も捧げた男たちの、魂をゆさぶる感動の舞台!!

音楽の都、オーストリアのウィーンを舞台に天才ピアニストと落ち目の声楽家が、

シューマンの名作『詩人の恋』を巡って火花を散らす!

口が悪くてケチだけど、挫折したピアニストを立ち直らせようと全力をそそぐ

マシュカン教授(加藤健一)。

プライドが高く、反発を繰り返しながらも教えを理解していく

スティーブン(畠中洋)。

2人の魂をかけたぶつかり合いは、いつしかひとつの旋律となって心に響き始める・・・。

(↑加藤健一氏のHPから引用し、少々手を加えました。)



いいあらすじである。熱く、愛情にあふれ、魂がこもっている。



初めて見る音楽劇に、私も汗かき夫も圧倒されていた。

すばらしかった。

加藤健一氏のファンになってしまったもの。

声も歌もすばらしくて、演技もすばらしい。

彼の歌う「詩人の恋」は、ドイツリートっぽくないのだが、

それはそれで不思議な味があり、心がこもっていて、じーんとした。


観劇後、加藤氏に感化されてしまった私は、

汗かき夫に

「詩人の恋」をむちゃくちゃな歌詞で歌ってあげていた。

新宿の雑踏の中で、エスカレーターの上で、電車の中で・・・。

変な人と呼ばないで。


前半と後半、突然ストーリーが変わる。


前半は上記のとおりのストーリー。

挫折した天才ピアニストが、音楽への情熱ほとばしる教授のもとに指導をあおぎにやってくる。

しかし、二人はあまりに性格が違っていた。

青年はかつての栄光から離れることができないでいた。

自分の演奏はダメだ、とわかっているのに、プライドを捨てきれないで居た。

そういう彼の気持ちをわかってあげている教授マシュカン。

青年に根気よく、音楽とはテクニックではない、魂だ、心だ、愛だ、情熱だ、と

ひたすら説く。


マシュカン教授の音楽に対する熱い思い、本当にすばらしかった。

自分が指導されているかと思うほど。

私もすぐにでもピアノを弾きたくなった。

歌いたくなったよ。(声楽経験ゼロですが)


音楽だけには長けている二人だが、ほかのことはまるで変人。

交わされる会話も明るく、抜けていて、まじめでそしてかわいらしい。

終始、笑っていました、私。


前半、マシュカン教授の指導を受けている途中、

天才ピアニスト青年は、マシュカン教授と歌いながらピアノを弾いているうちに、

どんどんのめりこんでいって、

音楽に対する情熱の灯を心に一瞬ともすことができた。


「こんなにピアノが楽しいと思ったのは初めてだ!」


この二人がユニゾンで歌い、彼がピアノ伴奏を熱く弾いているシーンに

私も、ジーンとした。

ここのシーン、音楽としての『詩人の恋』の、聞かせどころである。

本当に熱く、心がこもっている。


それにしても、

ピアノをあんなテクニックをもって弾いても楽しかったことがなかったなんて。


なんという不幸。

なんというみじめ。


私なんて大したテクニックもないのに、楽しくて仕方なかったけど。

鈍いもんで・・・エヘヘ。



さて。

後半ストーリーがガラリとかわる。


てっきり、この青年が教授の指導で復活する話、かと思いきや・・・


なんと、突然ユダヤ人収容所、ナチス、とかそういう話が出てきてしまう。

いやいや、出てきてしまっても良いのだけれど、

なんとびっくり、韓国併合まで出てくるんだよなあ。

1986年ウィーン、という設定で、なぜ日本の韓国併合の話が出てくるのか。

ドイツがユダヤ人迫害に相対する形で出てくる日本の韓国併合の話。

ちょっとひきました。

一緒にする意味を教えて欲しいのだが。


作者は「ジョン・マランス」。

ちょっと調べても素性がさっぱりわからない。


彼の主張はこうだ。


イギリスには偉大な作曲家や声楽家は出ていない。

それはなぜか。

国が侵略された経験がないからだ。

それにくらべて、ドイツやオーストリアはどうだ。

二回の大戦、それ以前にも色々侵略されたり、つらい経験がある。

抑圧からすばらしい音楽は産まれるのだ。

日本という国も同じ事がいえる。

日本から、偉大な作曲家や音楽家も出ていない。

それはやはり侵略された経験がないからだ。

ああ、二度の原爆投下、あれは確かに悲惨だ。

しかしあれは2つの都市、ということであって、国全体が攻撃されたわけではない。

それに比べてどうだ。

韓国は、日本に侵略され、併合され、抑圧された国である。

いずれ韓国からは偉大な音楽家がでると思うよー。


とな。


ちなみにイギリスには、ヘンデル、という偉大な作曲家がいますけどね。

日本にも滝廉太郎、という偉大な作曲家がいますけどね。

・H20.10.27 修正

 ヘンデルは、イギリス人だがもともとドイツ生まれでイギリスに帰化した。

  らしいです。・・・ヘンデル=イギリス人、のイメージが強すぎる~。



まあ、個人的な違和感はともかく。


実は青年は隠していた秘密があった。そして教授にも・・・。

その秘密はなんと同じもの、二人はユダヤ人なのであった。

(しかも、教授はダッハウ収容所から生還したユダヤ人なのであった。)


という突然の、ジェットコースター的展開。


最後、マシュカン教授のもとから離れて、いよいよピアノのレッスンを受けに旅立つ青年。

彼にマシュカンは言う。


「来週から、新しい生徒がくるんだよ。韓国人の。」


うーん、この一連のストーリーが要らない気がするのだが。



前半の、

テクニックばかりにたより、

過去のピアニストの真似をして演奏し、

個性的な演奏が全くできなかった天才ピアニストスティーブン像が

ユダヤ人であることを告白してからの後半、どっかいってしまった・・・。


ユダヤ人としてかつて収容所に入れられて地獄をみた教授は

それでもドイツに溶け込もうと生きていた。

でも毎晩悪夢を見、自殺未遂を繰り返していた教授。

その姿を目の当たりにして、感情豊かな心を手に入れ、豊かな演奏を繰り出していく青年。


という書き方は間違っていないと思うのだが、

もともとあった、天才ピアニスト、というのがどっかいってしまった感が否めない。


惜しいなあ、惜しいなあ。


でも、音楽劇、という斬新な切り口や、ストーリー自体はおもしろかった。


最後、スティーブンは立ち直った場面は、背景が青空であった。

心がすっきり晴れ、ピアニストとして復活するであろう、

すばらしい未来を表していると思う。

そして、天才ピアニストを復活させたマシュカン教授も

あらたな生徒を獲得し、明るいであろう未来へと、

青空のもと、第一歩を踏み出したのであった。



この演劇でなにがすばらしいって、やっぱりシューマンの『詩人の恋』。

いいなあ、あの出だし。

ちなみにこの詩を書いた「ハインリヒ・ハイネ」はユダヤ人。


ハインリヒ・ハイネの詩「詩人の恋」にシューマンが音楽をつけた。

それがこの『詩人の恋』なのである。


シューマンって、このハインリヒ・ハイネが好きみたいで、

この『詩人の恋』の他にも、ハイネの詩に音楽をつけている。

『リーダークライス』とか『二人の擲弾兵』とか。



一部違和感の残るストーリーではあったが、

音楽劇としては最高で、汗かき夫も感動しきり。


汗かき夫の好きなところは


「喜びと悲しみの組み合わせーこれこそ本当に美しい音楽の核となるモノだ。」

「喜びと悲しみ、どちらかが盛り上がれば、どちらかも盛り上がる。相乗効果である。」


というところ。


妙に感じ入っておりました。わかるけど。


この音楽劇、言葉や台詞が美しい。

翻訳がうまいんだろうなあ。

日本を代表する翻訳家の小田島恒志さん、さすがだなあ。



最後に。

これだけ絶賛に近い形の音楽劇の感想を述べておきながら、

ここであえて文句を言わせて!



マシュカン教授がどうしてもうまく弾けない、

「詩人の恋」の第1番の前奏、F♯(エフ・シャープ)のシーン。

しつこいーーーーーー。


あれだけ間違えるシーンを続けられると、ちょっとイラっとする。

・・って私だけ?


演出がしつこいねーん。


と内心思いましたです。



(おまけ)

マシュカン教授役の加藤健一氏、通称「カトケン」だそうで。


それを聞いて、


「カトちゃんケンちゃん、ごきげんテレビ!」


を思い出したのであります。


この番組を知っている人は、30歳以上でしょうか。



(もひとつおまけ)

劇中、マシュカン教授がやたらめったら「菓子パン」を天才ピアニストに勧める。

観劇後、私はパンをむさぼり食ったのは言うまでもない。

パンが異様に食べたくなること必至。