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恋 (新潮文庫)/小池 真理子



第114回直木賞受賞作品である。


「恋」だなんて,また直球どストライクのタイトルで,手に取るこちらが赤くなってしまう。

でも,面の皮が厚いんで,見た目は変わりませんけど~。



そこそこ有名なルポライターが,

死の淵に立ち,いつ逝ってもおかしくない状態の矢野布美子から,

とある事件の真実を聞き出すところから物語は始まる。



時代は1972年。

世間では浅間山荘事件のことでもちきりだった同日,浅間山荘事件に隠れるように,

当時大学生だった矢野布美子が二人の男性を猟銃で死傷させる,という事件が起きていた。

被害者は,大久保勝也(死亡)と片瀬信太郎(重傷)。

いったいなにがあったのか・・・。



矢野布美子の口から真実が語られていく。



片瀬信太郎とその妻雛子,そしてアルバイトをしていた秘書の矢野布美子。

この3人が織りなす愛憎物語が事件の背景にある,と報道されていた。

しかし,真実は全く違った。


この3人は,ドロドロ三角関係,というわけではない。

むしろこの3人はものすごく仲が良かった。

気味が悪いほどに。

それは倒錯した愛だったのだ。

矢野布美子は,片瀬信太郎を愛するのと同時に妻雛子も愛していた。

信太郎と雛子が愛し合うその姿を見ていることで幸福を感じていた。

二人はセット,そこに私がペットのように存在する,と認識するだけで幸せだったのだ。


ガラスのようにもろく危うい関係である一方で,

これ以上にない美しいバランスを保って3人は存在していた。


ところが,このバランスを崩すものが現れる。

それが大久保勝也。


そしてラスト近くで明かされる衝撃の事実。



いや~,私はひっくり返った。その衝撃の事実に。

まさかそんな展開になるとは思ってもみなかったので。

直木賞選考委員の評を読むと,

あの衝撃の事実は不要だったのではないか,という意見が多数。

でも,私はあれは必要だと思う。

あの二人の夫婦の不思議な愛・セックス観がスルリと納得できるから。

あの事実がなければないで「そういう夫婦もいるんだなあ」と無理矢理納得するが,

あったほうが,自分自身に説明しやすい。


ここに出てくる3人(信太郎・雛子・布美子)は,皆変態。

精神的にも肉体的にも。


自由奔放な雛子は,いいな,と思う相手がいれば自由にセックスをする。

そして信太郎に,「○○さんとセックスしてくるわ~」と平気で報告する。

信太郎も,雛子に「ふうちゃん(布美子)とのセックスはよかったよ」と平気で報告する。


最初,布美子はそのような関係にショックを受けるのだが,だんだんと慣れていき,

この夫婦にかわいがられることに幸福を見いだしていく。


このふうちゃんがとてもかわいい。

変態だけど。

片瀬夫婦といつまでも死ぬまで一緒にいたい,と強く願う。

その心情が,手に取るようにわかる。

それはまるで子供が親を恋うような姿にも,ペットが飼い主を恋うような姿にも見える。


そしてこのかわいいふうちゃんに射殺される大久保勝也。

これが,ほんとにむかっ腹のたつ男で,早くふうちゃん,撃っちゃって!と思ったくらい。


のめりこみすぎ,私。


ただ。

小説ではひどくステキで,ちょっとあばずれで,でも小悪魔な魅力のある女性,として

がんばって描かれていた雛子に,全く魅力を感じなかった。

なんでだろうなあ。

あばずれ,といえば,谷崎潤一郎のナオミ,だが(私の中で。),

彼女は美しくて,それはそれは魅力的だった。

ナオミのあばずれな魅力に比べると,ほこりかぶってくすんでるよ,くらいノーサンキュー。


この雛子,大久保勝也に出会って豹変するのだが,そのくだりは非常にいい。

ふうちゃんが,大嫌い,と思えるくらい普通の女に変わっていく雛子。

わかる~!

あんな,こんな,にぶちんな女,嫌いよね!!!!

私も嫌い,全員消しちゃえ~!というくらいの勢い。



非常に読みやすく,まとまりもよく,サスペンス的な要素もあり,独特の雰囲気も出ていた。

文章がすべるように書かれ,物語が進んでいくため,ずんずん読み進められる。

獲るべくして獲った,という作品ではないだろうか。


タイトルが内容といまいち合っていないキモするのだが,

あえて「恋」をしていた存在がある,としたら,片瀬夫婦,なんだろうか。

ふうちゃんではない,と思う。