「太田光氏,大絶賛。」
だそうだ。
こんな帯のついた本を誰が読みたくなるだろうか。
私は帯で本を選ばないので,読んだが,帯は再考の余地有り,と。
まずはタイトルの「八日目の蝉」。
蝉は地面に出て七日目で死ぬ。
でも八日目まで生き残ってしまった蝉はかわいそう。1人取り残されて。
最初はそう想ってた。でもほんとに?
やっぱり八日目まで生き残った蝉は,
七日で死んでしまった蝉が見ることができなかった景色を見たり,
経験できなかったことを経験できるわけで,かわいそうなんかじゃないんじゃないか。
そういうメッセージが,恵里菜と千草の口を借りて作者のメッセージとして語られる。
1章の主人公希和子も,2章の主人公恵里菜(薫)。
どちらも八日目の蝉としてこれから生きていく。生きろ。
そういう希望を込めたタイトルなのではないだろうか。
アマゾンでは「サスペンス」と紹介されているが,サスペンスと呼ぶにはご都合主義なところあり,
血のつながる親子,血のつながらない親子,それぞれの親子関係を
「誘拐」という犯罪と誘拐された恵里菜(薫)という1人の人間で結びつけたられた,
ヒューマンドラマ,として読んだ方がいい。
主人公は1章と2章で分かれる。
あらすじをざっと説明する。
1章。
希和子は不倫をしていた男性との間に子供ができたが,
離婚話の妨げになるから下ろしてくれ,と言われ堕ろす。
が同時期に,男性の妻に子供ができていたことを知る。
要するに離婚する気なんてハナからなかったのだ。キー!男ってヤツはよ~。
希和子は私の赤ちゃん,赤ちゃん,と追い詰められて,とうとう,男性の子供を誘拐する。
そして希和子と赤ちゃんの長く続く逃亡劇が描かれる。
(実際,住民票や戸籍や母子手帳を持たない赤ちゃん連れ彼女の逃亡は不可能に近いと思われる。)
2章。
誘拐された恵里菜(薫)は無事家族の元へ戻ってきた。
しかし,マスコミや世間から面白おかしく騒がれ,戻ってきた場所も平和な場所ではなかった。
父は不倫で誘拐犯を追い詰めていた。
母は恵里菜(薫)を見る度に,不倫をしていた夫や不倫相手を憎む。
なぜ,私がこんな目に。
そういう話。
犯罪は犯したものや家族のその後の人生を狂わせるが,実は犯罪被害者の人生も狂わせるのだ。
言ってしまえば,ただの不倫だった。ただの遊びだった。
それがこんなに騒がれることになってしまった。
三橋歌織被告の事件をなぜか思い出した。
夫の祐輔をバラバラにした。
しかし裁判が始まると,ひどいDVを受けていたことがわかった。
殺された被害者である祐輔は,被害者であるにも関わらず,DV加害者という名を背負っていく。
しかも本人は亡くなっているため,反論もできない。
殺しちゃいけない。
殺されちゃいけない。
本当にそう思った。
2章では,裁判で語られた希和子の逃亡劇の際に関わった人たちの証言による過去の話と
恵里菜(薫)が現在成長していく様子が同時進行で語られており,大変面白く読めた。
1章では詳細が分からなかったことが2章でわかったり。
最後,恵里菜(薫)は逃亡の際住んでいた場所を訪れる。
(岡山や香川が舞台で,方言とか懐かしかったりします。
方言がちゃんと岡山市部あたりの方言になっていて,よく調べてるなあ,という印象。)
最後まで読むと,人生捨てたモンじゃない,と思わせるいい作品になっております。
誰もが幸せになるチャンスがあって,
それをつかむのは自分で歩き出すことだ。
などというメッセージもビシビシ伝わってきて。
ただ。
私は角田光代の作品なら,やっぱり対岸の彼女がいいなあ。
そうそう。
あとものすごーく気になったことをメモ。
がらんどう。
すとんと納得。
という言葉たち。
きっと角田光代は意識してこの言葉を使用しているように思う。
角田光代という人は,文章にリズムがあって,節回しが独特。
だからこういう言葉も,歌詞のように使っている。
