鯵ヶ沢「水軍の宿」での夕食の時間を迎えた。
鎌倉時代から戦国時代にかけて津軽地方で勢力を誇った安東氏に因んだ屋号のこの旅館は、舟形の露天風呂といい、剥き出しの梁が美しくデザインされた食事処「のれそれ」といい私の好みの宿だった。
ちなみに「のれそれ」とは青森県の方言で「とても〜」「目一杯」といった意味があるそうで、「最高のおもてなし」をするとか「津軽の料理を堪能してほしい」という気持ちが込められているのであろう。
指定されたテーブルに案内されて並んでいる料理を見て心が躍る。前日宿泊した「不老ふ死温泉」での食事にとてもガッカリさせられた(ロケーションがとても良い立地にあるだけにとても残念な印象だった)から雲泥の差といった感じだ。宿泊料金がほぼ同じだったから尚更である。
前記事で廊下にある酒類やジュースなどが宿泊客は自由に飲めることを紹介したが、日本酒が見当たらなかったけれども夕食ではしっかりと日本酒も用意されていた。
日本酒で用意されていたのは鯵ヶ沢の尾崎酒造の「安東水軍」。本醸造から純米吟醸、大吟醸など各種並んでいたものだからその全ての利き酒を楽しんだのは言うまでもない。順番に味わいを楽しんで最後は純米吟醸をもう一杯•••。こちらも料金に含まれているから破格のもてなしだと思う。前々日は秋田で利き酒を楽しんだし、数年前に身体を壊して以来酒量が少なくなっていた私にすれば珍しく多くの酒を過ごした至福の時間だった。
嬉しかったのは、多くの旅館ではお酒を味わっている間に次々と料理が運ばれてきてゆっくりと酒の味を楽しめないような「煽られている」気がするのと違って、まるで私が飲んでいるペースに合わせているかのように料理が運ばれてくることだった。おかげでそれぞれのお酒の味を堪能できた。私は食べるペースが早い方だからレストランでコース料理を食べているとひとつの皿を瞬く間に平らげてしまって、アルコールを飲むことができない事情(車を運転するなど)があるときは次の料理が運ばれてくるまでかなり間が空くことが珍しくないのだけれど、そのようなペースで次の料理が提供されるのはお酒を堪能している時にはとても嬉しい心遣いに感じられる。
合鴨鍋。兜の形をした蓋を取ると出汁と野菜の煮えたいい香りに刺激されて酒も進む。
鮭ちゃんちゃん焼。日本酒に合ってとても美味しかった。私好みの味で、もうちょっと量が欲しいくらいだった。
ヒラメの漬け丼。少し甘い味付けが日本酒を楽しんだ後の締めに心地よかった。
デザートはブドウとりんご。
緩やかな時間に浸りつつ津軽の夜が更けてゆく。
次回に続きます。