一番好きな季節は秋です。
金木犀の香りが漂いはじめると残暑もいよいよ終わりという安堵感、まるで恋焦がれたひとに逢いに行くかのようなワクワク感に包まれます。
秋の日は釣瓶落とし•••上空に架かっている雲の下に夕日が現れても水平線に沈むまでの時間はわずかです。だからこそ日没前の黄金色の時間に浸っていたい想いが強まるのです。
高い空に刷毛で掃いたような雲に心が落ち着きます。
時に考えることがあります。
私は男だからきっと「男なりの秋の捉え方」をしているのだろうけど、女性で秋が好きな方の感性ではどのような表現で秋を捉えるのでしょうか?
想像できるようなできないような•••。
もうそこまで雪が近づいてきていることを知らされているというのに、凛とした冷気に包まれる晩秋の朝がたまらなく好きなのです。
と、自分の好きな秋への感じ方を述べました。
しかし、それは四季がはっきりしているこの国の国民だからこそ言える贅沢なのかもしれません。それぞれの季節の美しさに浸っていると、日本人であることの幸福を思わずにはいられません。
関東の梅が見頃を迎える頃、山を隔てた信越国境はやっと里の雪が消え始めます。
初夏•••田圃に水が張られて生命の鼓動が響いてきます。
冬は風雪と闘う日々が続くこの列車も夏の陽光を浴びて気持ちよさそうに駆け抜けていきました。
山が色づく頃、日本海の波も荒々しい表情を見せ始めます。
やがてあらゆる景色や音を覆い隠してしまう季節が訪れます。
一番好きな季節が輝いて感じられるのは他の季節があるからこそです。