島根県出雲市多伎町小田のはたご小田温泉に宿泊してチェックアウトを済ませた私たち夫婦は旅館の御主人や女将さんたちに見送られて前日に借りた駅レンタカーを返却するためにJR西日本出雲市駅をめざします。


 前日は出雲大社から小田温泉へ向かうのに海岸沿いのくにびき海岸道路を走行してきましたが、今回は国道9号線を東へ向かいました。


 出雲市駅前の駅レンタカーの営業所で車を返却して駅構内に入ります。

 途中で万が一渋滞などに巻き込まれて駅に到着するのが遅くなって予定している列車に乗り遅れてしまうと後々大変なことになってしまうから余裕を持って来たので駅に早く着いたので駅構内の売店などを見て回って時間を潰しました。

 さすがは出雲大社への玄関口とあって大国主大神像が鎮座して御神籤まであります。


 国鉄時代には出雲市駅からは大社線が大社駅までを結んでいて国鉄分割民営化後はJR西日本に承継されたものの、国鉄時代に既に特定地方交通線の第3次廃止対象線区として国から廃止が承認されたいたことから平成2年(1990年)に廃止されてしまいました。かつては遠く名古屋駅から急行「大社」や大阪駅から急行「だいせん」といった優等列車も直通していた路線だっただけに残念です。


 かつて出雲市駅に顔を見せていた列車のヘッドマークやサボなどが展示されています。


 寝台特急「出雲」のヘッドマーク。

 現在は「サンライズ出雲」として285系寝台電車で東京〜出雲市間を東京〜東海道本線〜山陽本線〜岡山〜伯備線〜伯耆大山〜山陰本線〜出雲市という経路で運転されている列車の寝台特急列車としてのルーツは客車列車として東京〜東海道本線〜京都から山陰本線〜浜田という経路で運転されていたブルートレインです。

 国鉄時代に合理化などの影響で全国的に機関車牽引の客車列車で機関車前面に掲げられていたヘッドマーク取り付けが省略されて姿を消した中で東京駅を発着する寝台特急列車だけはヘッドマークを誇らしげに掲げられていました。寝台特急「出雲」もその一員で、私はこの「出雲」の図柄が好きでした。


 岡山駅と出雲市駅を結ぶ特急「やくも」運転開始50周年を記念するパネルが展示されていました。

 伯備線経由で岡山駅から米子•松江といった山陰地方の主要都市を通って出雲市駅まで運転されているこの列車は山陽新幹線岡山開業時に陰陽連絡特急として山陽と山陰を結ぶ使命を背負ってそれまでの急行列車を格上げしてデビューしました。

 当初はディーゼル特急でしたが、伯備線および山陰本線米子〜出雲市電化完成により高速で曲線を通過できる振子式特急型電車381系に置き換えられて現在に至っています。


 それで•••。

 今回の旅行では出雲市駅から鳥取県に入ってすぐの米子駅までを特急「やくも14号」で移動することを計画に組み込んでありました。

 381系特急型電車は先日の記事でも触れたように急な曲線や勾配が多い我が国の鉄道路線において曲線を高速で通過できる車両の開発と研究が行われ、連節台車(車両と車両の連結部分に台車を配置するタイプで小田急電鉄のロマンスカーなどで採用されています)や振子式(曲線を通過するときの遠心力を利用して車体を曲線の内側に傾斜させる方式)などが検討され、昭和40年代に試験車両591系が製造されて主に東北本線や信越本線など東日本地域で試験が行われてその実績をもとに実用化された車両です。

 昭和48年(1973年)中央本線(塩尻以西)および篠ノ井線全線電化完成に合わせて名古屋〜長野間を結ぶ特急「しなの」でデビュー、所要自分の大幅な短縮を果たしました。

 その実績から昭和53年(1978年)の紀勢本線新宮電化に合わせて天王寺〜新宮間の特急「くろしお」に前面スタイルを非貫通型にマイナーチェンジされた381系100番台が導入されました。

 そして昭和57年(1982年)の伯備線および山陰本線米子〜出雲市間電化完成により岡山〜出雲市間の特急「やくも」に「くろしお」同様381系100番台が導入されました。

 国鉄分割民営化以降、新型車両の導入などによりまず「しなの」から381系が引退、「くろしお」からも順次撤退して一部は福知山に転属して大阪や京都と城崎温泉や東舞鶴など北近畿地区を結ぶ特急列車に転用されましたが、こちらにも新型車両が導入されたため引退したため381系を使用した特急列車は「やくも」だけとなっています。さらに381系は最後に残った国鉄特急型電車でもあります。


 ところで既にJR西日本から2024年春に新型車両273系をデビューさせて「やくも」に導入することが発表されています。

 次はいつ中国地方に旅行できるかわからないし、今のうちに381系に乗車しておこうと思って今回の行程に組み込んだのでした(列車本数の少ない山陰本線でできるだけ早い移動手段を考えて特急列車を選んだという事情もありますが•••)。


 高架となっているホームへ上がると既に列車は入線していました。

 始発駅でまだ発車時刻まで時間があるので撮影する時間はたくさんありますからこの機会に思う存分スマホで撮影しました。

 塗装の塗り分けはJR西日本が国鉄特急型車両に新たな標準色として取り入れたもので、塗り分けパターンを統一して列車によって色違いとしたものとなっています。「やくも」は濃いピンク色水色のラインです。

 このカラーになる以前はパノラマグリーン車を連結した編成にパープルを基調とした「スーパーやくも」色、一般編成には濃い緑色を窓周りにあしらった2通りのパターンがありましたが、現在はこのカラーに統一されています。

 ただ、381系もいよいよカウントダウンが始まったこともあってか、最近はオリジナルの国鉄特急色に復刻された編成と「スーパーやくも」色に復刻された編成が1編成ずつ走っています。


 トラックドライバーだった時代には関西をはじめ西日本方面には飽きるほど来ていた私ですが、鉄道となるとほとんど来る機会が無かったので381系は高校生の時に当時の国鉄中央本線の特急「しなの」に乗車したとき以来です。実に40年以上が経過しています。


 関東ではまず見ることのできないこのロゴ•••北陸新幹線金沢開業以前は長野の親戚宅へ行った時には直江津へ出ると越後湯沢〜金沢間を結んでいた特急「はくたか」で新潟県内でも見ることができていましたが、現在では東日本エリアでは見ることができません。




 鉄道に全く興味の無い方のために申し上げますと妻面に書かれている「米イモはお米と芋のことではありません。この車両が所属する車両基地であるJR西日本米子支社後藤総合車両所出雲支所の電報略号(電略)です。

 鉄道の駅や車両基地などの施設には昔からこの電報略号というものがありまして、国鉄時代からの伝統なのかJR各社の車両には現在でもこの電略が表記されています。特急型車両は妻面(連結面)に書かれているので見えにくいですが、近郊型や通勤型車両では車体側面裾部に書かれているので旅先などでこんなところに注目してみるのも面白いのではないでしょうか?


 乗車する編成の岡山方に設定されている自由席車両の先頭はクハ381-112でした。


 側面の列車種別•行先表示器はオリジナルの巻取り式です。前面のイラストマークと合わせて国鉄時代や国鉄分割民営化後しばらくは広範囲にわたってさまざまな特急列車に使用されていた編成ではおりかえしの駅での幕回しの時に普段は見ることができない地域を走る列車のイラストマークや行先が見られて楽しいものでした。私も上野駅で東北や北陸方面からやってきた列車が折り返す時によく眺めていたものです。「やくも」の381系は伯備線限定使用なのでそれほどバリエーションはないとは思いますが•••。


 基本編成の岡山方は簡易貫通型先頭車に改造されたクモハ380-75です。元は中間車のモハ380-75でしたが、運転台ブロックを取り付ける改造工事を受けた車両です。

 国鉄分割民営化前後には増収策の一環として料金の安い急行列車を廃止(特急格上げ)し、運転本数を増やした特急列車の車両不足を補うために短編成化して捻出された中間車を組み合わせて新たな編成を増やしました。

 しかし、そこで当然ながら運転台のある制御車が不足するため中間車の一部車両の車端部を切断して運転台ブロックを取り付ける先頭車化工事が行われました。さ、に一部車両では繁忙期と閑散期の乗客数に適応した編成を臨機応変に組成できるように簡易貫通型とした運転台ブロックが取付けられたのです。


 左側が岡山方付属編成の中間車、右側が簡易貫通型先頭車化改造を受けたクモハ380-75です。しっかり幌が繋がれて通り抜けできるようになっています。

 簡易貫通型は両開き式のスライドドアを装備したオリジナルの貫通型とは違い、いかにも改造費用を安く抑えたという感じでちょっと不細工な感じですが、こうして中間に入って貫通扉を開けて通り抜けできるようにしていると車内ではイラストマークを間近に見られるのでいいものです。






「やくも」のイラストマークはいかにも神話の国を走る列車らしいものとなっています。発表されている273系の車両イラストを見るとこのマークも描かれるようですね。


 出雲市方先頭車両はグリーン車化改造された車両のクロ381-139です。元は普通車だった車両をグリーン車化したものです。



 基本編成の方は側面の行先表示器がLED式となっていました。



 伯備線を走る381系は新製後40年以上が経過しているのでもちろんリフレッシュ改造を施されています。


 ただ、シートピッチを広げて足元が広くなったのはいいのですが、窓割とシートの位置が合わなくなっています。座席によっては窓側でも展望はあまり良くないところがあります。居住性向上を考えると古い国鉄時代の車両ですから仕方ありません。同様の事例はJR東日本の183系や189系、485系のグレードアップ改造車にも見られました。

と、ここで母ちゃん毒舌炸裂です。

「父ちゃん❗️これじゃあお外が見えないようムカムカ


「居住性向上のために改造されたんだから仕方ないじゃないか」


「母ちゃんには関係ないよう❗️」

確かに現代人らしからぬ背丈の低い母ちゃんにとって国鉄時代に設計されたシートピッチでも問題はないでしょうが•••。しかし、女性であっても私より背が高い人が多い現代の若い人では旧態依然としたシートピッチでは窮屈であることは明白です。


「父ちゃん、いっちょJRにクレームつけてきなムカムカ


「なんでおれがそんなクレーマーにならなきゃならないんだよ。自分がやれよ」


「そんな理不尽なクレーマーみたいなことを母ちゃんができるわけないじゃないか」


「おれだって同じだよアセアセ


 母ちゃんの理不尽な憤りをよそに岡山行特急「やくも14号」は出雲市駅を定刻の10時31分に発車しました。

 次回に続きます。