12月15日 昼
『アイカね~あっくんと、ばぁばとママが泣くとこ初めて見たんよ!』
『へぇ~そうかね~珍しいモノ見たね~』
『うん!』
アイカは父の遺影を見ながらドライブ気分でお話をしていた
コータはあもんの膝の上に座り、車窓から外を眺めてニコニコしていた
重かった霊柩車の中の空気が一気に軽くなった気分だ
火葬場に着くとことは淡々と進められ
本当に最後の別れだということで、参列者全員がご焼香をして、顔を見て父と別れた
告別式の最後でじっくりと時間をかけてお別れをしたせいか
みんなに涙がこぼれる様子は無かった
アイカも泣くことは無く緊張した顔で大人しくことに参加していた
コータは綺麗で大きな建物である火葬場であっちこっちと走り回っていた
そう、最後はこれで良いのだろうと思った
いや、父とはこれで最後ではないのだとも思った
父はもう話しかけても答えてはくれないが
残された者が忘れない限り父は生きているのだ
だから話しかければ話しかけるほど父は遠くで必ず振り向いてくれて
それが分かっているから、これからの人生で困難が現れた時には
きっと、神よりも強い力を与えてくれるだろう
父が火葬された
あもんは、これからは俺が家族を守るんだ!と決意した
火葬が済むまで1時間半程度掛かると言うので
親族はお弁当で昼食を取った
お互いに久しぶりに会ったであろう親族たちは
どこか和やかでとても良い雰囲気に見えた
あもんは、これが家族なんだなと当たり前のことを思った
骨となった父を親族みんなで眺めた
骨はそのほとんどが真っ白で綺麗だ
中皮腫に侵されていた右肺だけが薄っすら茶色だった
『身体は健康だったんだよね~よう食べよったけぇね~』
母が小さく呟いた
『えっつ!初七日って葬式の日にやるの!七日目じゃないの!』
『はい。通常は親族様がまたお集まりになるのが苦労ですから』
と担当者はあもん達に教えてくれた
初七日は命日も含めて七日目に行う法事で
故人が三途の川のほとりに到着する日とされている
故人が激流か急流か緩流かのいずれを渡るかがお裁きで決まる大切な日で
緩流を渡れるように法要をするみたいだ
父の足は速いみたいだ、もう三途の川までたどり着いている
お寺さんが再び登場し法要は淡々と進められた
最後に親族は控室で少し休憩をし
それぞれが日常生活に戻って行った
あもん達はそれぞれに深くお辞儀をして別れた
『アイカ、アイカの誕生日っていつ?何年の何月何日?』
『んっ?えっとね~2008年の2月28日』
『平成では?』『えっとね~平成20年』
『平成20年2008年2月28日か~』
『じゃぁ、じぃじが旅立った日は何年の何月何日か覚えとる?』
『覚えとるよ。12月12日』
『今年は2016年じゃったよね?平成は何年?』『平成28年』
『平成28年2016年12月12日』
『アイカは2と8ばっかりじゃけど、2と8を掛けたらなんになる』
『16!』『なんか、アイカとじぃじの日、似とるね~』
『ほんまじゃ!に・と・る!!』
『アイカ、あっくんの誕生日は?』『11月11日!』
『あっくんとじぃじの日も、似とるじゃろ~』
『ほんまじゃ!ほんまじゃ!に・と・る!!』
そんな何気ないお話をしていると母が話しかけてきた
『ねぇねぇ、あっくん、お墓どうするかね?』
『あっつ!まだ、それがあったんじゃ!とりあえず、明日でも見に行く?』
『あとは、四十九日か、、ん?よう考えたら、お父さん旅立ったの月曜日じゃけぇ、七日目は日曜日じゃね。じゃったら、四十九日も日曜日じゃ』
『ほんま、タイミング図ったようにいい時に旅立ったもんじゃねぇ~』
『何言うとるん、四十九日までにやることはまだまだ沢山あるんじゃけぇ』
『役所の書類提出やら保険の手続きやら、カードや携帯とかの解約とかもあるじゃろ~』
『よう、分からんのが定期預金じゃ、なんか本人じゃないと解約できんとか』
『それが、相続になるとか、よう~分からんのんじゃ!』
あもん家に長い一日はまだまだ続くのであった
終わり