あもん家の長い5日間 ⑫ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

 

1213日 朝

 

民ちゃんのサイクルヒットのおかげで、通夜は明日の夜という事となった

明日の事なので葬儀の見積もりは今日の朝ゆっくりでいいという事であった

アイカは普通に学校に行き、コータも普通に幼稚園に行った

アイカは昨日『明日、9時に葬儀の打ち合わせでしょ?』と参加する気が満々であったが

姉ちゃんは授業に遅れるという理由でアイカを学校に行かせた

ただ、ちょと不安定になっていますと先生に伝えたみたいだ

アイカは昨晩、何かを思い出して一人で泣いていたらしい

 

朝9時に安置室に集まったあもんと母と姉ちゃん

担当者は時間通りに安置室に現れた

父は当たり前だが、昨日と同じで布団で眠っている

改めて顔を見て話しかけたが、起こしたら起きてきそうな顔色であった

『昨日、菩提寺様から連絡がありまして、広島の浄土宗のお寺様が代理で式をして頂けるそうです。道筋は通っていますので、何も問題はありませんよ』

『ただ、戒名は菩提寺様にお願いするのが筋でございます』

『それによって檀家にならないといけないとかはそれぞれですが、今はあまり厳しくはないみたいですので、一度お問い合わせください』

 

『それでは、打ち合わせを始めましょう』

と担当者は太いクリアノートを取り出し、ひとつひとつ説明を始めた

祭壇の事、お飾りの事、お花の事、香典返しやお茶請け、食事や通夜の布団の数

霊柩車の種類に火葬場へのバスの準備などなど

全ては金額にも繋がってくるので、担当者はひとつひとつ丁寧に説明をしてくれる

しかし『どうしましょうか?』と問われても、喪主経験のないあもん家

『一般的にはどうなんでしょうかね?』となかなか決断は弾まない

一番悩んだのはお通夜や葬儀に参列してくれる方の人数予想だ

急な事でもあるので個人の関係者みんなに知らせているわけではない

これからそれぞれで連絡をするという段階なのだが、この時点て人数を予想し見積もりをしなければならい

結局、『一般的にはみなさん、こうされています』という担当者の声が一番の決め手であった

『お寺さんのお布施とか、何もわからないのですが、、』

『あっ、それは大体、宗派によって決まっておりますので、お伝えします』

『とりあえず、弊社への入金は後日で結構ですが、式当日に必要な現金や書類をお伝えしますよ』

 

やはり、お悔やみの儀式である為、ひと通りの常識はこなさなけばいけないが

全てはお金に繋がるものでもあり、喪主の悩みの種にもなる

あもん家は幸いにもお金のことはあまり気にしなくても良かったので、事は早く進んだ方だろう

だが、決めることが多すぎることは事実だった

3人とも打ち合わせをするのに体力を使ってしまう羽目となった

あもん家は民ちゃんのサイクルヒットのおかげで中一日と言う休息を得たが

普通であったら、故人他界の夕方にこの打ち合わせをしなければいけない

旅立ちの前から気力を使い、旅立ちの時に糸が切れ、旅立ちの後にこの体力消耗

お葬式とは気力と体力がかなり必要となってくる

事前に用意をと言われる方も多いが、それは現実的ではないと遠慮する方も多いだろう

しかし、知識としてこの様な決め事が儀式にはあるということは知っておいた方が良い

あもんはそう思い、この出来事を記しているという理由がある

あもん家はもう一度経験したので、次からは大丈夫だと思うが

大家族から核家族へ家族形態が変わった日本では、葬式と言う儀式を進める手順を知っている方は少ないと思う

全てが経験から教わるものであって、誰も予行演習なんてできないのがお葬式

多くは参列者としてしか知らない儀式が喪主になるとあらゆる物語が存在するのがお葬式だ

 

部屋隅では眠っているかのように父が横たわっている

安置室は担当者の淡々とした声が続いていた

その時である、静寂の中に不思議な声を3人は聞いたのであった

『うぅ~~ん』

『・・・・』

『えっつ!なに!誰か、しゃべった?』

あもんと姉ちゃんはふと顔を見合わせた

勘違いだと思い説明を聞いているとまた不思議な声が聞こえた

『うぅ~~ん』

『えっつ!もしかして、父さん?父さんが答えているの?』

『うぅ~~ん』

『・・・・』

 

『ごめんね。昨日からあまり、食べ物がのどに通らんけぇ』

と答えたのは、あもん母であった

父の返事かと思われた不思議な声は母の空きっ腹の音だったのだ

『じぃじはね、打ち合わせの時、ばぁばのおなかから返事しよったんよ』

と後にアイカに教えたら、アイカはケラケラと笑っていた

その後、姉ちゃんもお腹から父の返事を出していたのであった

 

『お料理やお弁当の数とかバスの手配とかは明日でも結構ですので』

『あと、香典返しも実数精査となりますので、心配なさらない様に』

と担当者は選択を伸ばせるものをきちんと教えてくれた

 

『ところで、湯灌の儀は行われますか?』

 

『なんですか、それ?』

 

『おくりびとという映画はご存じないでしょうか?』

 

『あっつ、分かった!モッくんのヤツじゃ!』

 

『もし、行われるのなら今すぐ段取りをいたします』

『多分、今日の昼からでも大丈夫だと思いますよ』

 

あもん家は父にお風呂に入って貰って天国へ行ってもらうことにした

 

この儀式をゆっくりと行えるのも、民ちゃんにサイクルヒットだったのだろうか

 

『お父さん、タイミングよく旅立ったね』

『最後まで、家族の事考えてくれとったんじゃやね』

『ほんま、うち等がバタバタせんように。。知っとったみたいに、段取りがええね~』

あもん家3人はそう頷いた