重巡洋艦利根が残した美しい日本 | あもん ザ・ワールド

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2016年6月 記

江田島市能美島に軍艦利根資料館がある







軍艦利根は太平洋戦争初期から活躍した
帝国海軍最新にして最強、そして最後の重巡洋艦である






関東一の大河の名を冠する利根は歴史のある巡洋艦で
昭和13年三菱長崎造船所で3代目が竣工し、重巡洋艦となった
3代目利根は主砲を前部に集中させ、後部は航空機専用の装備を設け、水上機六機を搭載した
35ノットの高速。20センチ連装砲4基8門を配置。魚雷発射管は3連装4基、片側6門を装備
ここまで美しい巡洋艦はないと称えられるほどの評判であったった




巡洋艦は戦艦,航空母艦に次ぐ攻防力を有する軍艦で
高速で大きな航続力,通信および警戒能力をもち
偵察,警戒,主力の援護を仕事とする
戦闘前の索敵としていち早く海上に現れ
戦闘中は戦隊旗艦としての突撃指揮をし、戦艦や空母の護衛までした
いわば、艦隊の美しい母親のような存在だった
海戦では先に敵を見つけた方が有利という事が証明されており
レーダー技術がまだ不完全だった太平洋戦争前期に
艦隊が持っている索敵機を飛ばして、搭乗員の肉眼でよって敵艦隊を探していた




当時の巡洋艦では偵察機が概ね二機、多くても四機というのが標準的な搭載数
重巡洋艦利根は、六機もの索敵機を搭載する事が可能であり
それは僅か一艦で、同時に六つの索敵線を形成出来ることを意味する
この六機もの偵察機の搭載を実現させるため
主砲は全て艦橋の前に配置される事になり、艦後尾には主砲がなかった
それをカバーしていたのが35ノットの高速と統率取れた航行技術であろう
巡洋艦は敵に突撃する性質をもっており後方には主砲が必要は無かったという解釈もある






利根は索敵能力の高さと脚の早さを買われて、真珠湾奇襲攻撃から最前線に駆り出される
機動部隊の攻撃に先立ち、真珠湾の状況を報告したのが利根の艦載機であった
その後は常に機動部隊に随伴し、艦隊の母として活動を続ける事になった







歴史的完敗と言われてるミッドウェイ海戦では
まさかの射出基(カタパルト)の故障が起こり
「敵発見」の報告が予定よりも10分遅れた
「利根のカタパルト故障がなかったら?」という議論まで生んだほど悔やまれた不運であった


第二次ソロモン海戦に参加し、その後は南太平洋海戦、マリアナ沖海戦に参加
海戦から生き長らえた利根は、その後修理のため日本へと戻ることとなる
しかしこの時、日本には外洋へ艦隊を送り出す燃料が無くなっていたのだった
優秀な重巡洋艦利根はその技術を海戦で発揮することなく訓練艦となっていったのだった
そして利根にはさらなる不運が続くようになる
米軍よる日本への爆撃が頻繁な状態になると利根は格好の標的となってしまった
せめて「発見されにくくなるように」とマストや甲板に松や杉を被せてカムフラージュし
島に見せかけようともしたが、松や杉は直ぐに枯れて黄色く変色し、余計に目立つ結果となった
『艦上の植木が枯れてきました。そろそろ取り替えては如何?』
という屈辱的なビラが米国機から巻かれたこともあったという
やがて日本の空襲が本格化すると利根は洋上の砲台として闘うことになる
砲台として最後まで闘ったが八百機にも及ぶ空襲では無事で済むはずはない
米艦載機爆撃の応戦奮闘も甲斐なく、乗員128名の戦死者を出し
昭和20年7月28日夕闇が迫る頃、軍艦旗を掲げたまま艫のほうから沈んで行った
戦後、沈んだ江田島の海から引き上げられ利根の一片までもが
日本の復興の為に鋼材として用いられたという







なんとも美しい生き様であろう







利根が最後を遂げた江田島湾は
今では美しい瀬戸内の風景を創り
あの時の悲劇を忘れるぐらいに穏やかな風が吹いている








利根が江田島湾に停泊してから空襲をうけるまでの期間それは僅か2ヶ月余の間だったが
1400余名の乗組員は民家に宿泊し、島民の世話を受けたり家族のような交わりをもった
その心の繋がりのできた人達が海を血で染めて傷つき倒れ
一方島内に落ちた爆弾のため無抵抗の住民の中からも犠牲者が出た
利根の戦没者128柱と島民の犠牲者17柱の御霊を慰めるため
昭和40年、ここに碑の完成をみた




一隻の船に託した多くの希望が
一瞬にして絶望へと変わっていく
その想いをすべて背負って重巡洋艦利根は沈んでいった
















『負の遺産に花を』

あの人たちは戦った
疑うことを忘れて戦った
母国のために 愛するひとのために
そして なくなった
………
………


生まれ変わろう
新たなる意志は鍬を持たせた
おなかいっぱに食べよう
新たなる夢の種を蒔いていった
そして いつか
原野に咲く 花が見たい
………
………

やがて種は捨てるほどに育ち
原野に咲いた花は遺産となった
………
………


そして いま
正と負があるように
創られたものの下には壊されたものがある
美しきものの裏には卑しきものがある
イエスとノーがあるように
満足の数が増えるほど夢の数が減っていった
空を飛ぶために踏ん張った靴の底で一厘の花が倒れていった
………
………

だから もういちど
負の遺産に鍬をいれておくれ
あの人には咲かせられない
僕にだって咲かせられない
君たちだけに咲かすことが出来る
新たなる花を
そしてこの詩の続きを綴っておくれ

未来は君たちのためにあるのだから