幸と不幸と現実と 49 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『島にはキャンプ場とかあるんですか?』
福江港に船が近づく頃にあもんは大将に聞いた
『ああ、いくつかあるけど、今回は町中の公園でキャンプするんじゃ』
『なんか、認められとるらしいで、福江祭りの跳人って言えばOKらしい』
『酒宴組のメンバーはマルイ研修センターってとこで寝泊りさせてもらっているんだ』
『俺って元々ライダーハウスとか苦手だからな。公園のほうがいいわ。あもんもそうだろ』
『そうですね。僕もみんなで雑魚寝よりもテントの方がいいですわ』

福江島の驚くべき待遇の良さである
福江祭りは福江島民の為の年に一度のお祭りである
あもん達県外者は準備も手伝っていないし運営にも関っていないただの観光客である
普通ならホテルなどに泊まって島に還元をしないといけないのに
ねぶたの跳人として参加するというだけで泊まる所を市が確保してくれている
『あっ、近くのホテル温泉も跳人衣装を着て“酒宴組”や“サカナ組”ですって言えば、数百円安くしてくれるらしいぜ』
『なっ、福江島ねぶたって最高だろ!』

何故か大将は自慢げであった



『研修センター行ってみようぜ!はっぴさんたち、もう来ているらしい』
テントを張った大将はみんなを誘った
酒宴組とはあもんも青森ねぶたで会った事があるのだが
聞いてみるとそれは東京支部の皆さんだったらしい
酒宴組には福岡支部もあるということで
福江に来ているメンバーはそれが主であった
はっぴさんとは酒宴組福岡支部のリーダー格であり
この福江ねぶたと跳人ライダーの繋がり役をしているみたいだ
はっぴさんも昔は旅人だった一人であるが、今は地元福岡に定着している
定職を持ちながら、この祭りには毎年家族で参加しているようであった



『おお、サカナ組も来たか!今年は多いな。うんうん、良いことたい』
はっぴさんは小柄ながらリーダーの風格を持った人であった
『はっぴさん、久しぶりですね~今年もよう来とりますな~』
大将が敬語の様な口調になっているのがあもんには新鮮であった
どうやらはっぴさんは大将などの上の世代の旅人らしい
『みんな、年取ってもねぶたは止めれんきね~毎年、身体痛めて帰りよるわ』
旅を止めてしまった人でも働きながらこの祭りには必ず休みを取り島に来る
ここまで人を虜にするのはやはり、ねぶた祭りの凄さであろう
『あっ、魔よけもおる!まだ青森行きよるとか?』
はっぴさんが魔よけと呼んでいたのは砂糖さんであった
砂糖さんは普段、砂糖さんとか砂糖くんとか呼ばれていたのでキャンパーネームがあったとは知らなかった
『はい。もちろんっすよ!シノさんに毎年お世話になってますよ』
『シノってまだやってるの?好きだな~あいつも』

と言っているはっぴさんも好きでまだやっている
『まぁ、ねぶたは明日からやけ、今日はしっかり飲んどけ!』
『明日もしっかり飲むけどな!あははは』

酒宴組と言うだけあってそこには男女20人ぐらいが宴会を始めていた
そこには家族で来ている旅人もいれば若い旅人もいた


この福江島にねぶたがあるということで集まった仲間たち
ここには『久しぶり!』もあれば『はじめまして!』もある
この仲間たちは旅をしていたからこそできた仲間たちである
もし、旅をしていなければ、ねぶたのことも知ることも無かったし
福江島で跳人として参加することも生涯無かったかもしれない


旅人は誰もが何かを思って旅を始める
過去を忘れるために、新たな自分を見つけるために
いや、単なる興味心だけかもしれない
色んなところに行きたい、色んなものを見たい、聞きたい、知りたい
その興味心は人間なら誰もが持っているはずである
だが、その興味の行き着く先が何かを知っている人間は皆無であろう



『過去は忘れるモノではない』
『悲しい過去を楽しい未来で塗り替えてやる!』

そんな思いがあもんの北海道旅のきっかけであった
しかし、それは自分を慰めるために敢えてかっこよく言っただけで
本当は“別れの悲しみ”から逃げる為に北海道を目指したのであった
あもんはある女性との別れがあった
この別れで涙はひとつも流さなかったけど
実際は明日が来るのが怖かった
だからあもんは現実から遠くに逃げたかったのだ
北海道手前の青森であもんはハカセに話しかけられた
これが青森ねぶたを知ったきっかけだったし
サカナ組と仲良くなれたきっかけでもあった
その後、北海道でサカナ組と旅をし、その翌年、大将と出会った
そして今、はっぴさんと出会った


旅のきっかけは正直、何でも良いのだ
大切なのは靴を履くかどうかであり
靴を履いて玄関を開ける勇気があるかどうかである
旅の結果は人それぞれで良い
何かを得られたとか失ったとか、本当はどうでもいい
大事にしないといけないのは旅の経験である
旅の経験はいつどこで発揮できるかは分らないが
少なくとも旅をする前とは経験値が上がっているであろう
単なる興味心を満たすだけでも良い
その結果が顕著に現れなくても良い
旅を終えた達成感と旅で出会った仲間を思い
旅人は幸せを感じているからだ














『あれ?あもん君?』
と話しかけられ振り向いた先にはミクねぇがいた
『えーーーどうして?なんで?』
『うふふふ。どうしてって?私、毎年来ているのよ』

ミクねぇとも青森ねぶたで出会い、北海道でも一緒に旅をした
あもんはミクねぇの『私って不幸なの…』という言葉がどうしても気になり
無責任にも『ミクねぇは不幸なんかじゃねぇ』と言ってしまった
ミクねぇの深い過去を知ってしまったあもんは何故か意地になった
“この女性を今から幸せにしてやりたい”という大きな事はできないとは思ったが
“この女性が今から幸せになれるようにしてあげたい”と意地になった
そのために一緒に利尻富士に登ったり、大空沢で万年雪も見に行った
何故、意地になったかと言うと、好きになったからであろう







あもんはミクねぇを好きになったのだといつしか思うようになっていた
しかし、そこに独占欲は生じていない
あもんは好きな人を応援したかったのだ
『あもんと会う前に不幸だったと言うのなら、あもんと会った後は幸せだと言わせてやる!』
意地はいつしか虚言じみた目標のようなものとなった
あもんは応援がしたかったのだろう
あもんは好きな人の応援がしたかったのであろう
そして、応援で何かの“きっかけ”を与えたかったのであろう
未来で過去より幸せだと思えるように“きっかけ”を与えたかったのであろう
結局はあもんは応援団であったのだと北海道旅を終えて思っていた


あもんは高校を卒業する時ひとつの疑問を抱いていた
『応援団ではない俺ってどんな俺なんだ?』
熱い情熱で成りきっていた応援団であるあもん
そのあもんから応援団を取ったらどんな人間なのだろう
そう疑問を抱いたあもんは地元から離れ福山で一人暮らしを始めた
地元にはほとんど帰らず、高校の仲間にも自分からは連絡をしなかった
あもんは福山でバイクを買い、仲間と出会い、旅を覚えた
旅を重ねるたびに様々なあもんがいたと気がついた


そのほとんどが弱いあもんであったが、旅を止める気にはならなかった
『まだ、やれるんだ!』と旅を終える毎に不思議と意志が芽生えた
何かをやるというビジョンは全く無かったけど
何かをやれるんだという自信があったのだ
そして今、その何かは“応援”であるということに気づいている
初めて気づいた時は何故か悔しかった
だが、応援という素晴らしい精神を否定することは絶対に無かった



『まだ、やれるんだ!』とこの時も思ったけど
それは『まだ、応援がやれるんだ!』という意志に変わっていた
あもんはこの結果に不服は全く感じていない
むしろその方があもんらしいと嬉しさを感じているぐらいだった
人格はそうたやすく変えられるものではない
ならば、変えなくても良いと思う
それが、熱い情熱で築き上げた人格ならなおさらだ
人格は変えなくて良い、成長させればいいのだ
無口だけど情熱的な応援馬鹿をもっと成長すれば良いのだ



『ミクねぇって酒宴組だったの?』
『えっ、そんなこだわりはないよ。サカナ組だって酒宴組だって、ここにいる人大体知ってるだけよ』
『おおーーミクねぇじゃねえか!』ミクねぇに気づいた大将が現れた
『ああ、大将、また会ったね♪』
『あら?ハカセ君も!ひさしぶりやん!』

ミクねぇはここにいるサカナ組のメンバーをみんな知っていた
『北海道に住んでいるんだっけ?どうだあっちは?』
『ううん。この前、地元に帰ってきたの』
『えっ?!』



あもんは驚いた
ミクねぇは離婚調停のために旦那の実家がある北海道に住んでいた
それが、地元に帰ってきたということは……
あれからどうなったんだ?


『そうか!そうか!お前もサカナ組西日本支部に復帰だな。あははは』
『うふふふ、そうね』


ミクねぇは少し酔っているみたいだった
大将は早くも酔いが回っている
ここに居る誰もが酔っている
あもんはこの二人の間に入って疑問を投げかけることは無理だと悟ったので
ミクねぇと少し距離を置き缶ビールの栓を開けた


続く