幸と不幸と現実と 4 | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

あもん史 妄想編

幸と不幸と現実と 4


この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あもんは広島の実家に帰り、着慣れないスーツを着ていた
今日は就職採用試験会場に行く
正直、気分はあまりのらない
就職活動をしていると言ってもそこには熱意は無く
ただ単に広島にある建設会社を受けてみようか程度の感覚であった
大学の友達は全国の企業から資料請求をして入試説明会を受けてあれこれ選択をしていたが
あもんはそんな活動をするよりか、バイクに乗っている時間の方が多かった
結局、あもんが就職採用試験を受けたのは広島にある建設会社の2社だけだった
『二つとも落ちたらどうするの?』そんな不安はなかったと思う
『落ちたら落ちたで、全国を旅して就職先でも見つけるかな?』という気持が強かった
いやむしろ、“採用試験に落ちたい”という気持が正直だったのかもしれない
両親には大変申し訳ないが、大学には夢も現実も感じる所はなかった
あもんが夢と現実を感じた所は旅先のキャンプ場であり
そこにはワクワクするような未知なる世界が広がっているように思えた
大学には“人生の幸せについて”考える講義はなく、事務的に時間が過ぎていた
しかし、キャンプ場の焚火の周りには“人生の幸せについて”を講義してくれる旅人は多くいた
そこで語り合う幸せは幻想なのかもしれないが、想像が無くして現実は無いものである
薄っぺらい幸せなら、ただ単に流されて生きていてもできる日本に生まれ
幸せの価値観が貧相になっていく老い方だけはしたくはない
『夢を語れるということこそ幸せなのだと思う
それを見知らぬ他人に語れるのはもっと幸せなのだと思う』
どこかの旅先で教えて貰ったこの言葉が頭の片隅から離れない
深く考えれば考えるほど、この就職スーツを着るのが憂鬱になっていった


まぐろ大会で大将が言った『小さくまとまんなよ!』という言葉は
あもんにとって大きな宿題となっていた
狭い地元で一生を過ごすのか?広い世界で一生を過ごすのか?
会社員の一人として育って行くのか?日本人の一人として育って行くのか?
クエスチョンマークが頭から離れない
では、大きくまとまればいいのだろうか?小さく自由人になればいいのだろうか?
『ダメだ!全く分からん!!!』あもんはそう答えるしかなかった
あもんは大将たちと比べると見聞が少ない
もっと色んなものを見て触って感じて、転んで立ち上がって、そして歩き始めて…
そんな経験を積まなければこの問題は解ける筈はない
あもんが出逢った旅人のほとんどが経験している事があった


それは『挫折』である
一度や二度、人生に負けている旅人がほとんどである
大きな荷物にはとても重たい過去が入っており
その荷物を軽くするために旅に出る
背負った過去が消え去ったその先にようやく、自分の居場所が見つかるものである
『そうか!挫折か!人生に負ければいいのか!』とあもんは思うようになった
よく考えると、あもんはこれまで人生に挫折した事はなかった
それもそのはず、夢も現実も無い事務的な学生生活を送っていたからである
学生生活の中で涙が流れたのは失恋のときだけだ
あの時は自分が不幸のどん底にいる気持でいっぱいだったが、それは勘違いである
一度や二度の失恋ぐらいでは重たい過去と言えるような荷物にはならない
もっと、もっと、人生に負けて、こんちくしょうを経験しなければいけないのだ
そして、他人にも負けないぐらいの大きな荷物が出来た時
本当の幸せの地に行けばいいのである
『では、どうやって人生に負ける?』
応援団であったあもんは少々のことではこんちくしょうとはならない
それには今まで戦ったことのない大きな敵と戦うことが必要である
あもんが今まで出逢ったことの無い手ごわい敵は何処にいるのだろう






『ん?』

『それって、社会じゃん。日本社会じゃん!』


あもんが今、一番に恐れているもの
それは日本社会にある企業で働くことである
自分の時間を会社に捧げることである









そう考え始めたあもんは今着ている就職スーツが気になってきた
『ねぇねぇ、母さん、ネクタイ曲がっとらん?』

あもんは就職採用試験会場に向った

就職採用試験会場を出たあもんは複雑な気持であった
理由は試験が難し過ぎたからである
その試験はまるで国立大学の入試問題のごとく
全教科に渡ってチンプンカンプンであった
全く持って採用試験用の勉強をしていなかったあもんにできるはずはなく
自己採点なんてする気も起こらなかった
『日本社会ってこんなに厳しいの?』とは誰にも聞くことが出来なかった
『もしかして、これが挫折ってやつか?』とも誰にも聞くことが出来なかった
しかし、あもんが転んでも悔むこと無しない
『まぁ、どうにかなるじゃろ~』
あもんの根本的な楽天主義がこんな時に凄く役に立つものである









続く