恋するアホウ 11 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あれからというものアミミへの電話は少なくなっていった
毎日が2日に一回になり、4日に一回になり、一週間に一回になり…
でもそれは普通のことであろう
あもんとアミミは恋人同士では無かったからだ
あもんがアミミを好きなのは伝えたがアミミには彼氏がいる
アミミにとって一番はあもんでないことは確かなのだ
『彼氏と別れて俺とつき合ってくれ!』
以前のあもんならそう言ったであろう
しかしあもんは過去の恋愛の中から“恋の面倒くささ”を覚えていた
“必死になることは悲しいこと”と分かった口を叩いていたが
本当は恋に臆病になっているあもんなのであった
そしてあもんはいつも通り恋から逃げてバイクを乗ることにしたのであった



『また、この季節が来ましたね』
あもんはR2メンバーが集まったアンチさんの部屋で言った
R2には毎冬恒例のツーリングがあったのだ
それは“吉野屋牛丼ツーリング”という
朝晩が堪らなく寒くなったこの時期にこのツーリングは深夜出発をする
痛いぐらいの寒さを体感し耐えきれなくなった末に入るのは24時間営業している吉野屋であった
たった数百円の牛丼がまるで松坂牛の牛丼のように錯覚するのは何故だろうか?
あもん達は毎年その謎を解く為に厳寒の深夜にツーリングをする
ヘルメットのシールドは曇って何も見えない
シールドを開けるとまるで冷凍庫でバイクを走らせてるような寒気が顔面を凍らせる
加えて顎から容赦なく入って来る寒気もヘルメット内を凍らせる
幾ら冬用の手袋を履いていても限界は必ずあるものだ
かじかむどころかカチンコチンに手が凍る勢いだ


今年の吉野屋牛丼ツーリングには最近R2に入ったサトシも参加していた
サトシは写真部でもあり一眼レフを掲げてこの牛丼ツーリングに参加した
そしてそのサトシの要望により今回は広島県の絵下山という夜景スポットを第一目標とした



福山から約150kmの道のりを休憩することなく走り絵下山の夜景を堪能した後、吉野屋の牛丼を食べた

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今年で3回目となるこの吉野屋牛丼ツーリングは更に進化をしていた
牛丼を食べた後もあもん達は中国山地に向って走り、三次市を目指した
山中にある三次市ではこの時期の早朝に瀬戸内海が現れるのだ

朝日はいつだって早起きだ
いつも起こしてくれる朝日より早く起きるのはなかなか難しい
しかも曇や雨ではなかなか「まん丸朝日」は望めない
夕日より望むことが難しい朝日
そんな難関を乗り越えてまで何度でも見たい朝日があった


広島県三次市は霧の町である
島根県に流れる江の川を取り囲むように低い山が連なる
「朝と夜の温暖差が激しい日」というのが
絶好の霧が出る条件となる
時期的には11月初旬がベストだろう
三次市内を望める高谷山という低い山からは
このベストな時期には霧の海が広がる
朝日が昇る前から温度が上がる9時ぐらいが見ごろだ
霧の海に点在する山の頂

こんなところにも瀬戸内海があったのだ



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あもん達は次に七塚原という小さな高原を目指した
ここにはミニ北海道と呼ばれるエリアがあったからだ
ミニ北海道に着いた時に朝日が昇り始めそこには幽玄的な北海道の景色があった





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ある日、あもんがキグナス石油のバイトから帰って来ると留守電録音のランプが点滅していた
留守録の中にはアミミの声が入っていた
もうここ2週間はアミミとは電話をしていなかった
『もしもし、あもん君、ごめんね、元気?』
『最近、電話くれないね、忙しいのかな?』

そう言ってアミミは電話を切ったが
あもんは今回は電話をかけなおさなかった


あもんは怖かったのだ
また暴走し始めるのが怖かったのだ
もちろん、アミミを好きになったということは嘘では無い
しかし、アミミは地元に彼氏がいるのである
成立をしている恋を壊してまで責任を取れる想いがあるの?
そんな問いに今のあもんは答えることができなかった
どうせ別れがあるのなら出逢わなければいい
過去の経験によりそんなマイナスの恋愛観もあったのであった


しかし、数日後、アミミの声は再び留守録の中にあった
『もしもし、あもん君、ごめんね、元気?』
『あのね、私、あもん君に会いたいんだ…』
『できれば24日の日に、25日には実家に帰っちゃうから…』
『よければ、返事ください』

これを聞いたあもんは意味が分からなかった
24日と言えばクリスマスイブである
25日に実家に帰るのなら一日早く帰ってイブを彼と過せばいいのに…
何故だ?何故?クリスマスイブの日にあもんと会いたいなんていいだすのだ!
もしかして?別れたのか?あれから彼とは別れたのか?
なら、何故?25日に実家に帰る?彼のいる地元徳島に帰るのか?


あもんは混乱した
そして怖くなった
だからあもんは電話をかけなおすことができなかった


それからというものアミミの留守録はしばらく続いた
だけどあもんは電話をかけなおさなかった
あもんが部屋にいた時にも電話がかかってきたが、あもんは出なかった
それでもアミミは『もしもし、あもん君、ごめんね、元気?』と声を残していった
そしてある時、アミミは留守録の最後にこう言った
『私、24日に7時から福山駅で待っているから…』
“あもんを待っている”
“好きな人がいるのに好きだと言われた人を待つ”
あもんはアミミがよく分からなくなった
そして自分のキモチも分からなくなった


成就できない恋ならばいっそこのままで終わるのが丁度いい
あもんもアミミもこれ以上苦しまなくて済むからだ
きっと明日になればアミミ以外の女性にも会えるだろう
無限大に発症する“好き”という感情はいつしかまた現れるであろう
あもんはそう思ったがアミミに会いたかった
アミミに会って本当の気持を聞きたかった
行きたい、行きたくない、本当を知りたい、本当を知りたくない
あもんの頭はもうグチャグチャになってしまった
そんな時にはやっぱりバイクに跨った
バイクに跨って大声で歌を歌って一心不乱に道を走るだけだった


結局、あもんは12月24日の7時5分前に福山駅に着いた
福山駅ロータリーでアミミを探そうと思った瞬間にはアミミはあもんの後ろに居た
『あもん君!来てくれたんだね!』
振り返ると赤いタートルネックにチェックのスカートを履き、白いマフラーをしているアミミが見えた
『サンタじゃん!』と思わずあもんが言ったらアミミは『あははは』っと笑った
あもんはとりあえずアミミを食事に誘った


よく考えたらアミミとデートするのは初めてであった
見ると、今日のアミミはたまらなく可愛かった
あもんの血潮は一気に上昇したちまち緊張の渦の中で彷徨っていた
アミミとはパスタを食べに行った
ちょっと大人ぶってワインなど頼んでみたが全く味は分からなかった
アミミもこの時初めてワインを飲んだらしいが『よう分からん』といて殆ど口をつけなかった
ワインを飲み過ぎるとヤバいというのはよく知っていたのであもんも少しでワインを止めた
それからはカラオケに行ったがアミミはあまり歌おうとせず、あもんだけが歌っていた
緊張のあまり間を持たせるのが必死だったのであもんは歌を歌って時間稼ぎをしたのであった
あもんがしつこく誘うのでアミミは渋々歌を入れて歌った




あもんはふと、この歌は自分に歌っているのか彼に歌っているのか考えたが
今は考えても仕方が無いと、考えるのを止めた
この時のあもんはとても楽しんでいた
よく考えたら女の子と二人っきりのデートは久しぶりであった
しかもクリスマスイブの夜に街でデートなどは初めてかもしれない



『あっ、雪が降ってきた』
カラオケから出たアミミはいち早くホワイトクリスマスに気付いた
『駅のイルミ、見に行かん?』
『うん』そう微笑みながら答えたアミミはたまらなく可愛かった
福山駅のイルミには大きなツリーがあった
辺りを見回してみるとカップルばかりである
雪が降る寒い夜にカップルは寄り添いツリーを眺めているのであった
あもんとアミミも適当な所に座った
ある程度イルミを堪能した二人は徐々に馬鹿笑いが消え
自然とじっくり話し込むようになった


『あもん君、今日はありがとうね、電話出てくれなかったから、来ないのかと思った』
『ううん、ちょっと期末試験の勉強がきつかったし、バイトも忙しかったけん』
『ごめんな、ぶち、楽しみにしとったんじゃ』とあもんは嘘をついてしまった
『でもさ、アミミ』
『うん、何?』
『なんで、アミミは今日、俺とおるんじゃ?』
『どういうこと?』
『いや、クリスマスじゃけん、彼と過すのが普通じゃないんか?』
『ううん。そんなことないんよ』



『彼は今日はダメなんよ』

アミミの返事にあもんはショックを感じた
あもんはこの質問の答えにアミミが“彼と別れたの”と言うと思っていた
しかし、アミミは“彼は今日はダメなんよ”と言った
ということはアミミに彼がまだいるといことが証明されているのであった



『今日はダメってどういうこと?』
『普通、彼氏なら仕事が終わってでも会おうとするんじゃない?』
『彼は今日はダメって、言ったんよ』
『なんで?ダメなんじゃ!今日はクリスマスイブなんで!』

あもんは何故か彼に腹を立ててしまった
こんなに性格もしっかりしていて可愛い子をクリスマスイブにひとりにさせるなんて許せなかった
そしてあもんは勢いのあまりに言ってしまった
『その彼って他に彼女がおるんじゃないんか?』
その質問にアミミはドキッとしたがしばらく黙り続けた
あもんもやばい質問をしたと思い黙ってしまった
雪が激しく降り始めた
アミミの髪に雪が白く積り始めた
そしてアミミは小さな声であもんに言った






『ううん。他に彼女はおらんのんよ』
『でも、彼には家族がおるんよ』



『なにぃぃ!』
あもんは思わず大声を出してしまった
隣のカップルが驚いた表情でこっちを見ている
だが今のあもんには隣のカップルなんて視界に入るハズが無い
『アミミ、それって…』
『うん、私、不倫しとるんよ』



『お前!それって、恋じゃないじゃろ!』
『それは正しい恋って言わんで!』
隣に居たカップルが気まずくなったのか何処かに行ってしまった
『うん、正しい事じゃないってことは分かっとる』
『じゃけど、それが私の恋じゃけん』
『奥さんのいる彼を好きになったのが私の恋じゃけん』


結局、アミミはただ単にクリスマスイブに一人でいることが寂しかったのであった
それを紛らわすための相手をあもんとしていただけなのであった


『じゃけど、今日はあもん君と過して楽しかったんよ』
『ごめんね、でも、スキって言ってくれて嬉しかったけん』


この複雑な心境を落ち着いて対処できる技量はあもんには無かった
何が正しくて何がいけないのか、何が好きでどこに恋があるのか全く分からなくなった
この状況をどうしようもできなくなったあもんは疲れ果ててアミミに言った



『濡れるけん、もう帰ろうか…』
それを聞いたアミミは返事をせずにゆっくりと立った
『あもん君、ごめんね』
アミミはそう言って雪に濡れながら帰っていった
あもんにはアミミを無言で見送るしかなかった






続く