恋するアホウ 10 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『しっかし、いつ来ても多いの~』
あもんはカズのシビックの助手席から車を眺めていた
ここは福山駅周辺の路地で、昼間は簡素なのだが夜になると若者が車で集う
別に何かの集会があるわけでもないし、お互いが仲間では無い
狭い路地を自慢の車で流しては、時折止まってある軽自動車に並んで止まる
車の中には同じく何もすることの無い女性が待ち構えている
別に誘いに乗るわけでもないが、無視するわけでもない
ただ単に青春を謳歌する為だけに彼女らはここに止まっている


そう、あもん達は若かった
若いがゆえに毎日が新鮮で一日が48時間あるみたいだった
持て余すまでの時間があもん達にはあったのだ
出会いを避けるわけでもなく、将来を約束するわけでもない
“暇つぶし”という表現が一番しっくりしそうだ
潰さないといけない暇は一途に寂しさからなる
時の中には多くの寂しさが充満しており楽しさはほんの一握りなのだ
そう、あもん達は寂しかった
誰かに褒められることなく、さらに貶されもしない
大人になったばかりの子供の意見なんて大人は聞いてくれもしない
こんなに一所懸命叫んでいるのに…
僕たちは一体何をすればいいの?僕たちの存在価値は?
ねぇ、お父さん、僕を知ってる?
ねぇ、お母さん、教えてよ、僕はどこにいるの?


ここ福山駅周辺路地には多くのクエスチョンマークが漂っている
それを食べてくれるものはいないし、僕たちには料理の腕も無い
だから僕たちも大人には期待をしないんだ
だから大人たちも僕たちに夢を託さないで
クエスチョンマークは年と共に消えていくから大丈夫さ
いつか僕たちが大人と呼ばれるようになったら立ち止まってよ
僕たちもきっと年は取るからさ
僕たちもきっと現実にぶつかるからさ
日本社会と言うブラックホールの中に押し込めるのは、もうちょっと待って
許してくれとは言わない
ただ、放っておいてくれ







『おい!カズ!車を止めてくれ!』
『なんだよ、あもん、びっくりしたじゃないか!』

カズは急ブレーキで福山駅前ロータリーで車を止めた
あもんが車を止めさせたのはそこに知り合いが居たからであった
『なんだ?あのカップルか?あもんの知り合いなのか?』
あもんが知っているのはそのカップルの女の方だ
遠くからなのでハッキリとした顔は確認できなかったが
その仕草と姿勢は間違いなくアミミであった
アミミと毎日電話デートをしていたのだが、今晩はアミミは友達と遊びに行くと言って前もって断ってきた
あもんは素直に承諾し、夜が暇だったので久しぶりにカズと福山駅廻りをしていたのであった
あもんが遠目で見ているのはアミミと彼氏であった
アミミの彼氏はアミミの地元に居て遠距離恋愛中である
どうやら彼氏が福山に来て時間帯からして最終列車で徳島まで帰る様子だ
涙の別れのシーンを想像しいたがどうやら様子がおかしい



『おい、なんかもめてるみたいだぞ』
いつの間にかカズもこのカップルに夢中になっていた
大きく首を振りながら反抗するアミミになだめる彼氏
やがて彼氏はアミミをギュッと抱きしめた
しかしアミミは手で身体をガードにその胸から抜け出した
困った彼氏は何やら弁解を始めた
下を俯き聞いてない様子のアミミは静かに興奮しているようだ
時間を気にする彼氏は少し動揺を見せて
遂にはアミミに無理やりキスをした
アミミは少し間、落ち着きを取りも出したが
すぐに我に帰り、彼氏を突き飛ばした
それから彼はアミミに背を向け福山駅の階段を上っていった



『あのカップルってあもんの知り合いか?』
『いや、違うよ、なんか面白そうだと思って…なぁカズ、もう行こうぜ』

あもんとカズはそれから福山駅廻りを2周して家に帰った



次の日の夜、あもんは福短寮に電話をかけた
いつもの時間より30分早い10時に電話をかけた
『もしもし、あもんと申しますがアミミさんはおられますか?』
電話を取ったのはあの福短お嬢だった
この時間帯は彼女の時間帯だっのかもしれない
福短お嬢は少し機嫌が悪そうにアミミに繫いでくれた
『どしたん?今日は早いじゃん?』
アミミも不思議そうに受話器から声を出した
『うん、アミミ、今から会いに行っていいか?』
あもんは挨拶もなしに本題に入った
『えっ、今から?どしたん?』
『ちょっと聞きたい事があるんじゃ、5分でええけ、会ってくれんか?』
『うん。あまり時間無いけど、ええよ』

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あもんは直ぐに部屋を飛び出しバイクを福短寮まで走らせた
アミミは相変わらず福短寮を出てあもんを待っていた
もう夜は寒い時期なのにアミミは何分外にいたのだろう
『聞きたい事ってなんなん?』
アミミはあもんを見上げながら聞いてきた
『アミミ、お前、楽しい恋しとるか?』
『えっ、どしたん?急に…』
『アミミの彼氏はアミミのことを楽しませとるか?』
『……』

アミミの返事は無い
しかし返事が無いことで答えが分かった気がした
急に秋風が強く吹き始めた
月が隠れ見る見るうちに雨雲が広がり辺りが暗くなった



『なぁ、アミミ』
『んっ!?』
『オレはアミミが好きじゃけん!』
『好きじゃけん、毎日電話するんじゃ』
『じゃけど、電話だけなんじゃ』
『電話だけじゃけど好きなんじゃ!』

あもんは訳のわからないことを言い始めた
すると、俯いたアミミは今にも泣きそうな表情になった
多分、昨日の喧嘩を思い出したのであろう
そんな時に告白をするあもんは卑怯であった
卑怯にもアミミの心を揺さぶりアミミをこの胸で抱きしめたかった


その訳は昨日見たアミミと彼氏の行為にあった
喧嘩しながらも彼氏にキスをされたアミミは一瞬、落ち着きを取り戻したのである
あの残像はあもんの脳裏に鮮明に残っているのである
そう、あもんは嫉妬したのだ
嫉妬した上に卑怯な手を使いアミミを胸に抱こうとしているのであった
なぜなら、あもんはアミミに恋をしているからである
つきあってもいないのにアミミに対する独占欲が湧いてきたのであった
このどうしようもない感情があもんを暴走し始めていた
この暴走はスミ子の時もチェリーの時もしたことはない
初めての暴走である為、あもんにも抑制力はなかったのだ
不幸にもその暴走に巻き込まれていたのはアミミであった
アミミが困惑を隠せないのは当り前であろう
アミミは彼氏がいるのだ。好きな人がいるのだ
だけどあもんの暴走はそんなことは気にしない
何故ならこれがあもんの恋だったからである



あもんはアミミの顔を見つめた
すると徐々にアミミは泣き始めたのであった
アミミの瞳から涙が流れた
アミミの頬には一本の涙の道ができていった


あもんはその涙を消す為に手をアミミの頬に当てた
そこにアミミの承諾は無い
とっさにただ、だけど本能的にあもんの手はアミミの頬と髪の間に納まった
あもんは優しくゆっくりと涙をぬぐう
驚いた表情で見つめるアミミはまるで何かを待っているようだった
あもんの力が強くなるのを待っているのか?
ふと、アミミを抱きしめたくなった
あもんはすこし手に力を入れた
その時、アミミの手があもんの手の動きを防いだ


『誰か…来るよ…』
『誰も来やしないよ、なぁ、アミミ』
『あもん君…そんなに優しくしないで』
『ごめんね…』


そう言ったアミミは意を決したように一歩下がった
『おやすみなさい』
両手を前でくみアミミは深々と頭を下げた
アミミは福短寮に走って帰っていった
時間は門限である11時の3分前であった


また、冷たい雨が降り始めた




続く