恋するアホウ 8 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


さすがのあもんも今回の風邪には手こずっていた
なにしろ、愛媛の石鎚山に登った後、福山までバイクで走り
雨にぬれて帰った後、また雨にぬれて福山をバイクで走ったからだ
北海道から帰ってからも日曜日はほとんど旅に出ていたから
最近は家でじっくり寝ていたことは無かった
多分、長い旅の疲れが溜まっていたのであろう
いや、一番のダメージはやはりアミミに彼氏がいたことを知ったからなのかもしれない
よく考えるともう一年以上は風邪をひいた記憶はなかった
こうやってこのカビ臭い部屋で一日中ベットの上に居るのは新鮮ささえも感じる


改めてこの広い部屋を眺めてみた
あもんの部屋は玄関を入るとキッチンリビングがあり
続いて押入れ付きの6畳の部屋がある
この部屋にTVを置きリビングとして使っている
そして今寝ているベットのある部屋も6畳でここに机やタンスなども並ぶ
ひとりでは広過ぎるこの部屋は彼女がいれば快適であった
キッチンでご飯を作る彼女にTVを見ながら料理を待つあもん
着替えをする時、彼女はベットの部屋に行きあもんは人音を聞きながらTVを見ていた
古いことに贅沢を言わなければこの部屋は2人にとっては丁度良い広さであった
あもんは大学に入って2人の女性とつきあい失恋をした
よって2人ともこの部屋に来て泊っている
二人でご飯を食べ、TVを見て、音楽を聞き、将来のことを話した
夜が更けると二人はこのベットで寄り添い朝日を迎えた
彼女の匂いが部屋に充満し古いこの部屋にも不思議と清潔感があったものだ
アミとの別れ話もこの部屋であった
スミ子は毎晩のようにこの部屋に来ていた
しかし今はあもんがひとりでいるだけだ
ひとりではこの部屋は広過ぎる
この部屋にひとりでいることは寂しさを増すばかりで
それが遂には苦痛とさえも感じてくる
いつからかこの部屋はカビ臭くなっていた
あもんが旅に夢中になるのはそんな理由が本意なのかもしれない






余計なことばかりを考えてしまうのであもんは焼酎を飲み始めた
風邪をひいているためもちろん、美味しさは味わえない
しかし、この寂しさを紛らわせるには酒の力を借りなければならなかった
ろくに食べ物も食べずにあもんは飲んだ
酒を飲んでいると昨日のアミミのことを思い出してしまった
昨日のアミミのパジャマ姿を思い出してしまったのだ
アミミはスミ子と比べたら大人の色気はないと言ってもいい
チェリーのようなじゃじゃ馬も似合わないタイプだ
どちらかと言うとあもんがあまり振り向くことの無かった謙虚で大人しいタイプである
真面目で親の言うことを良く聞き、校則さえも破ることの無さそうな感じである
高校の時に応援団を謳歌し、大学になるとバイクで夜な夜な走っていたあもんとは出逢わないタイプである
そんなアミミに偶然にも学園祭で出逢い、昨日はパジャマ姿まで見た
身体のラインが確認できないぐらいの小さな身体であったが
濡れた黒髪とほのかに香るシャンプーの匂いがあもんの脳裏に残った
何故だろう?何に惹かれているのだろう?
いや、でもダメだ、ダメなんだ!アミミには彼氏がいるのだ!!
そんな自問自答があもんのお酒の肴にもなっていた


そんな時、あもんの部屋に電話が鳴った
受話器をとるとそれはアミミからだった


『もしもし、あもん君、ごめんね』
『昨日、濡れていたから、風邪引いていないかなと思って…』
『うん、風邪引いた』
『ええ、それって、私のせいだよね、ごめんね、大丈夫?』
『大丈夫だよ、ただ、寝過ぎて眠れんけど…』
『眠れないの?眠れなかったら余計なこと考えちゃうよね』
『うん、余計なこと考えていた』
『何、考えていたの?』


『今、アミミのこと考えてた』
『えっ!なんで?』
『よう分からんけど、昨日のアミミのこと思い出してた』
『私なんかのこと、ごめんね、余計なこと考えんといて』
『考えまーとしようとしても考えてしまうんじゃ、なぁどうすればいい?』
『えっ、そんなん、分からん…』
『なぁ、アミミ、今度こっちから電話してもいいか?』
『え、いいけど…なんで?何話すん?』
『ワシはアミミのこと知りたいんじゃ』
『え、でも私、余計なことだよ』
『余計なことと分かってても、知りたいんじゃ!』


『うん、それなら、いいよ…じゃぁ、あもん君のことも教えてくれる?』
『ああ、ええで、それと電話かけるの毎日でもええか?』
『えっ、毎日!じゃぁ…夜の10時半にしてくれる?寮の電話だから、私、その時間に待ってる』
『毎日電話してもいいんだな?アミミのこと教えてくれるんだな?』
『うん、いいよ』


電話を切ったあもんに急に眠気が襲ってきた
あもんはこの日、夢を見ることなく深く眠った



風邪は次の日には治り、あもんはいつもと同じ生活を始めた
朝起きて大学に行って講義が無い時はキグナス石油で働いた
夜8時にバイトが終わるので買い物をして9時前に帰る
この日から新たに加わった日課はアミミに電話することであった
毎晩10時半にあもんは欠かさず福短寮に電話をかけた
アミミは約束通りこの時間に電話を取った
時間を決めた為あの福短お嬢がでることは無かったし
この時間帯は電話使用が少ない時間帯なので繋がらないことは無かった
しかし、この寮の規則で一人の電話使用時間は15分と決められていた
よってあもんは毎日15分間だけアミミと話しアミミのことを知った
たった15分の電話であったが、あれからあもんは眠れなくて酒を煽ることが無くなっていった


アミミは短大2年生で来年の春に卒業となる
大学生活もあと4ヶ月程度である
就職はもう決まっており、地元に帰って寮生活をするみたいだ
アミミの地元は四国の徳島県であった
趣味はこれといって無く、やはり余り外に出て遊ぶタイプでは無いらしい
休みの日は部屋でゆっくり掃除や読書をしていると言っていた
あもんの話でアミミが一番興味を持ったのは応援団時代の話だった
バイクと旅の話もしたがどうやらアミミは想像もできない応援団の話が面白かったみたいだ
あもんは応援団の男臭い世界をアミミに教えた
アミミは高校からずっと女子学校だったので男臭い世界を知らない
情熱という言葉も発することがない生活を送っていた
アミミはあもんの高校時代の話を熱心に聞いていた


しかしアミミにとってあもんの話しは“余計なこと”であろう
あもんにとってもアミミのことは“余計なこと”となる
何故ならアミミは地元に彼氏がおり
もう4カ月もすればアミミは彼氏のいる徳島に帰ってしまうのである
この確定的な未来を二人とも分かっていた
分かっていて毎日10時半に“余計なこと”を教え合っていた
アミミはどう思っているかは分からないが
あもんはこの“余計なこと”に夢中になっている自分を見つけていた
この新しい恋の始まりはあもんには経験が無い
初めて感じるこのむず痒い気持ち
それはまさしく初恋と言えるであろう








続く