この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします
朝起きてると富良野は雨が降っていた
空の様子から多分、一日中雨が降ると思われた
シンさんの影響からかあもんも雨の時は何処にも行かない方がいいと思うようになっていた
北海道に来るまでは雨が降っていてもカッパを着て走っていたが
『無駄な時間がいちばん大切だよね』
というシンさんの言葉が今でも頭に残っていたからだ
あもんはテントの中で読書をしたり地元の友達にハガキを書いたりした
外を見ると誰もがテントから出てきていない
みんな、無駄な時間を満喫しているのかなと思った
昼を過ぎるとお腹が減ってきたので外に出てインスタントラーメンを食べた
ただ、生卵を入れただけのラーメンだったが美味しい
『あもん君~おはよ~』
とテンションの高い声が聞こえた
振り返ってみるとチェリーであった
チェリーは誰かが起きてくるのを待っているみたいだった
『あもん君!立ち上がって!早く!』
チェリーはこっちに来ながら言った
そしてチェリーは立ち上がったあもんに飛び付きハグをした
驚いたあもんはチェリーをそのまま受け止めた
『もう!一周ぐるりと回さなきゃダメなんだよ!』
チェリーはあもんの対応に不満であったらしい
ハグをしたら一周回すというルールは何処にあるんだろう?とあもんは不思議だったが
チェリー的にはそれがNGであるらしい
『NGだからもう一回やるね』
と言いチェリーは一旦後ろに下がり走ってきた
『あもん君~おはよ~』
とチェリーはあもんに抱きつきあもんはチェリーを一周回した
『あはははは、楽しいね~』
とチェリーのテンションは上がっていった
しばらく経って、ひとり又ひとりとテントから出てきた
するとチェリーは待ってました!と言わんばかりに走って行きハグをする
ハカセはノリが良くチェリーを2周も回した
福さんはもっとノリがよくチェリーを捕まえた後グルングルン回していた
森ケンはチェリーの勢いに負け転んだ。もうワンテイクやった
シンさんは意外にも恥ずかしがり屋で3回もNGが出ていた
チェリーはよほど面白かったのかこの日以降、このハグが毎朝の恒例となった
あもん達はご飯を食べ椅子のサークルで話を始めた
このサークルの上には福さんが持ってきたブルーシートを屋根として張っていた
よって雨が降っても濡れることはなかった
福さんはラジオを小さい音でかけた
そこからはこの年に流行っている曲が流れ始めた
『うぉ~この歌知ってんで!大阪では“そ・や・な”やけどな』
『Wコウジと大阪パフォーマンスドールや!さすが関西人やで!パクルのうまいわ』
『ジャケットも顔だけ切って張りつけてるし!』
福さんはこの曲にテンションが上がり無理やり“そ・や・な”と歌い始めた
『広島じゃ~“ほじゃね”が流れてますよ』
とあもんが福さんに教えた
『なに~広島弁バージョンもあるんかい!』
と福さんは驚いていた
『そうそう!北海道では“だべさ”名古屋では“だがね”博多では“そうたい”があるんだ』
ハカセの豆知識はここでも発揮した
『なんと!全国であるんかい!知らんかったわ~』
と福さんは更に驚いていた
すると山形出身である森ケンがボソッと言った
『東北弁バージョンもあるんだ~東北では“だっちゃね”なんだよね』
『ん!?』
流石のハカセもそれは知らなかったらしいが“だっちゃね”は存在をしいた
その話を聞いていたシンさんは『これって歌?』と首をかしげていた
日も暮れ始め夕飯の準備をする時間となった
すると福さんがみんなに提案をした
『富良野にめっちゃうまいカレー屋があるねん!』
『その名も“唯我独尊”!名前からしてカッコええんや!』
シンさんとハカセは流石に知っており、森ケンとチェリーは知らなかった
もちろん、あもんも知らなかったので連れて行ってもらった
富良野駅近くにあるこのお店はライダーの中でも噂になっており
多くのライダーがもうすでに座っていた
『ルーのおかわり自由やからいいねん』
と福さんが教えてくれた
出てきた大盛カレーはどす黒い色をしており、ソーセージがドカッと乗っていた
かなりのこだわり感があり噂通り美味しかった
甘いとは決して言えない辛さがあり流石のあもんでもルーのおかわりは何度もできなかった
しかし、福さんは豪快に食べており何度もおかわりをした
みんなが食べ終わっても気にせず食べる姿はまさに唯我独尊であった
キャンプ場に戻りみんなで酒を飲むことにした
雨がまたシトシトふり始めた
福さんはいつものようにガハハと笑いながら話していたが
あもんの急な質問に顔が深刻になってしまった
『阪神大震災の時って福さんは被害にあったのですか?』
福さんは煙草に火をつけて答えてくれた
『ああ、めっちゃ揺れたで』
『ワシのおった所は大阪の南部やから、被害はすくなかってんけど…』
『神戸にもツレがおって、すぐ物資を持って行ったんや』
『道は終日渋滞やったけど、こんな時役に立つのはバイクやった』
『もう、神戸と大阪を何往復もしたで』
『せやけど、凄かったのは2次災害の方やったと思うわ』
福さんのバイクであるBMWF650はラリー仕様にカスタムしており
地震で様変わりした道路を走るには力を発揮したらしい
福さんは誰からも頼まれることも無く復興ボランティアに参加をし
多くの被災者の現状を目の当たりにした
福さん曰く、震災後に襲ってくるのは混乱であり、それが絶望に変わっていくらしい
精神のベクトルが暴走をするようになり理性を失う場面も多かった
それに便乗した窃盗団が被害者を装い略奪もあったという
福さんは多くの旅で芯の通った人格を形成していた為
誰からも頼まれることなく反倫理的な行動の防止に努めたらしい
捕まえてみるとそれは話し方の違う県外者が多かったらしい
福さんが主張するのは“国の軸の弱さ”だった
県や市が災害により壊滅した時
軸となるべきモノはやはり国であるという
その最後の軸までもが混乱をしたあの時は
仕方がないので有志者が軸となった
しかし俄かな軸であるため強い意志の割には効果が現れなかった
結果、被災者は失望感が増幅していった
多くの民間ボランティアが来てくれたのは凄く嬉しかった
しかし、復興経験の少なさからこれも効果は乏しかった
今では大変申し訳ないと思っているが
あの時は『ワシらは予行練習の教材か!!』と思ったらしい
福さんは酒を飲みながら語った
あもん達も酒を飲みながら聞き入った
『でも、あの復興の早さは凄かったっすよね』
『あぁめっちゃ速かった』
『せやけど結局、その復興により儲けたのは土建屋や』
『公にはなってへんけど、景気が良かったらしいで』
『世界から集まった義援金も結果的には新地であぶく銭になっとるかもしれん…』
『実際、誰の金が何処で役に立ったのか、途中で消えてしまったのかは誰も分からへん…』
その時、黙って聞いていたチェリーがいきなり発言をした
『復興のお金は重税して払えばいいんだよ!』
『災害復旧税みたいな?』
『結局、募金って自己マンな気がする!』
『お金をあげただけで“人を助けた”って満足してるだけだよ~』
『だからさ、絶対に必要なお金は国民全員が払うべきだよ』
『どれだけのお金が必要で、ひとりあたり何円払えばいいのかをハッキリして』
『税金で払えばいいんだよ』
『それがみんなで笑える近道だと思うな~』
酔ったチェリーの発言には一同驚いたが、不思議と説得力があった
普段がああなのだからかもしれない
しかしあもんはチェリーの芯のある発言に頷いてしまった
そして自分の意見が全く思いつかなかったこのが情けないと感じた
あもん達は旅人である
たまたま先日、旅先で出逢った仲間である
この旅先で国や政治のことを論じても
それは単なる“茶飲み話”としかならない
しかし、あもん達も日本国民である
社会に全く貢献していないかもしれないが
日本国の未来を考えているのは確かである
いや、社会の波に気持ち良く流されている者に比べたら
よりグローバルに客観的に日本を見ている集団なのかもしれない
しかしこの集団には社会に意見をする場はあまりない
しかしそれでいいのだと思う
多くの主張を語り合い人から人へ伝わっていけば
ひとりの旅人の夢話がわらしべ長者のように国を動かすかもしれない
よって、政府が行う世論調査をこの時期に北海道のキャンプ場で行えば
面白い世の中になっていたかもしれない
続く