さくらんぼとふたりんぼ 3 ~あもん史妄想編~ | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あもんは昨夜、生まれて初めて青森ねぶたを体感した
ハネトをやり遂げみんなで近くの銭湯に行き青森フェリーターミナルに戻った
テントに入ったあもんは冷めやらぬ興奮の中
全身に疲労感が充満し深い眠りについた
翌朝、目が覚めると昼を過ぎていた
あもんは慣れないテント泊のためいつもは早く起きていたのだが
この時は起きられなかったのだ
そして、全身が筋肉痛になっていると気付くには時間がかからなかった
あもんはテントの外に出た
目の前にある椅子のサークルにはシンさんが一人座って雑誌を読んでいた
シンさんは静岡県から来ていて20代後半、髭面にサングラスをかけていた
シンというキャンパーネームはその顔が“タイガージェットシン”に似ているから付けられたそうだ



『おはようございます』
あもんは恐る恐る声をかけた
『あっ、あもん君、おはようw』
シンさんはその顔に似合わず甲高い声をしていた
『どうだった?初ねぶた。おもしろかったでしょ~』
シンさんはサングラスをとってニコニコしながら答えてくれた
『はい。楽しかったです。でも全身筋肉痛なんです』
『あははは、それはみんな一緒だよ、でもねぶたって一体感が最高だよね』

顔に似合わずやさしい口調で話すシンさんにあもんは親近感を覚えた
『何の雑誌読んでいるのですか?』あもんは話をつなげた
『え、これ、ニュートンって雑誌だけど』
『宇宙に興味があるんですか?』
『うん、全ては自分の中に宇宙は自分の中に…ってね』

あもんは少し次元の違う話に少し驚いた
シンさんのホンダのアフリカツインに乗っており全国を長く一人旅をしていた
定職には就かずトヨタの季節労働員をしてはお金をため旅に出ているという生活をしていた
あもんとは比べものにならないくらい旅を知っている



『あもん君って大学生?これから北海道に渡るの?』
『はい。初めての北海道で早く行きたい気があるんですけど、勢いでねぶたに参加したって感じです』
『へぇ~でもあもん君、旅は急がないほうがいろんなモノが良く見えるんだよ』
『旅はいろんなことを教えてくれるんだ。自然や文化、そして物事の本質を体全体で感じられる旅をしたほうがいいよ』
『せっかく、ここでみんなやねぶたに出会えたんだから、もうちょっと感じたほうがいいと思うよ』
『なるほど~そうですよね~』

あもんはシンさんの優しく重い言葉にしっかりと頷いたのであった






『おっ、君はあもん君だっけ?』
あもんが振り向いた先にはムッシュさんが立っていた
『はい。昨日からテント張っているあもんです』
『昨日すぐ寝たやろ~アカンって!ねぶたは跳ねたあとが楽しいのに~』
『えっ、みんなで飲んだってことですか?』
『そうや、ここには全国から仲間が集まっとるんや。この時期に毎年再会するんや』
『これで飲まずにいられるか~』

そう語り始めたムッシュさんは片手にビールを持っていた
『えっ!もしかして、今までずっと飲んでいたんですか?』
『いや、2時間ぐらいは寝たんちゃうか?これは目覚めのビールや』
『これがめっちゃうまいねん!』

ムッシュかまやつのような髪型をしているためその名がつけられたムッシュさんは
とても社交的な関西人であり多くの集団で顔が利いていた
よって、少し顔を出せば一杯飲まされ自身が酒好きであるため断ることはまずしない
結果、ムッシュさんはここでは四六時中ほろ酔い気分で漂っている
『ここに来たら胃が痛とうなるんや。あ~口内炎が痛い』
と言いつつムッシュさんはあもんにビールを差し出した
『いただきます』とあもんは言ってビールを飲んだ
ムッシュさんの言うとおり目覚めビールは別の味がする
運動後のビールのおいしさに比べたら劣るがなるほど腹にズシンと貯まる気がした
しかしこのビールは酔いがまわるのが早い気がしてあもんはチョビチョビ飲むこととした
そしてこの時あもんは思った


今日も北海道上陸は無理そうだ…と




$あもん ザ・ワールド


しばらくすると段々とみんなが起きてきた
椅子のサークルは少しずつ埋まっていった
椅子に座ったみんなはまったりとていて動く気配は無い
ここに集まっているみんなはライダーである
全国を旅して出逢った仲間である
故にそれぞれがあもんと同じように色んな所を旅したい気があるに違いない
しかしみんなは自分のバイクにさえも見向きもしようとしない



『あもん君ってライダー?』
あもんは怪しいビジネスマンさんに話しかけられた
『えっ、ライダーですけど、どういうことですか?』
『じゃぁ、僕と一緒だね。ここにいる人はキャンパーだから』

“怪しいビジネスマン”と名付けられたこの旅人はみんなと出逢った時に
とても怪しいキャリーバックを持っていたらしい
みんなと出逢った時に『なんでキャリーバックやねん!』と即座に突っ込まれたが
性格からか真面目に『ビジネスマンですから…』と言ってしまった
よく憂鬱モードに入る時があり焚火を見つめながらブツブツひとりで会話をしていた
その姿から『こいつは怪しい』と言うこととなり“怪しいビジネスマン”となったわけだ
『なに言うてんねん!お前は立派なキャンパーだ』


すぐさま突っ込んだのは福さんであった
福さんはいつも迷彩服を纏い片手にはエアーガンを持っていた
朝にキャンプサイトのゴミをあさるカラスをエアーガンで退治するのが日課であった
“ガハハ”と笑う豪快な旅人で、乗っていたBMWF650が似合っていた
豪快な割には絵心があり北斗の拳タッチな絵を描いていた
キャンパーネームは“ピンク”というらしいが余りにも風貌に似合わない為にあまりピンクと呼ぶ人がいない
そもそもピンクと言う名も自分で提案した名前であった
当時、キャンパーネームをつけよう!という話題の時に
次々と周りが下ネタ系の名前が付けられていった
それがどうしても嫌だった福さんは自分で『ワシはピンクがええ!』と言ったところ
『どこがピンクやねん!』と突っ込まれたらしい
福さんはあもんに言った
『ここにおる奴はみんなキャンパーや!誰もが初めはライダーやったんけど、キャンパーへと成長していったんや』
『あもん!キャンパーの世界へようこそ!ガハハハハ』





北海道を旅する者は大きく分けて“ライダー”と“キャンパー”に分かれる
どちらも旅人には変わりはないが旅のスタイルに違いが生じてくる
ライダーは一日何キロ走ったかを話題とするが
キャンパーはこのキャンプ場に何日滞在したかを話題とする
ライダーは朝早く出発し夜にキャンプ場に着きテントを張る
キャンパーは昼まで寝て暗くなる前から飲み始める
ライダーはツーリングを快適にするために旅用品を少なくするが
キャンパーはキャンプを快適にするために“何か遊ぶもの”を持ってくる
又、ライダーとキャンパーの識別はバイクのパッキングを見れば予想はできる
キャンパーのパッキングは基本的には衣装ケースなどを有効利用し
バイクに跨った時に頭より荷物が出ているぐらい多くの荷物を積んでいるのだ
『あもん、フロントカウルに洗濯バサミを挟んでたらキャンパーやで』
と福さんは教えてくれた


夕方に近づくと砂糖さんが起きてきた
砂糖さんはねぶた歴6年でこの集団の中では一番経験が多い
東京で職人として働いており毎年このねぶたの時期には必ず休むことにしている
酒は必ずビールで買うのはアサヒスーパードライミニ樽(2L)である
寡黙で口数が少ないがねぶたに対する情熱は凄まじいものである
跳ねる時の普段と全く違う変貌から他の集団からは“魔人”と呼ばれていた
『あッ、砂糖さん、おはようございます』あもんは砂糖さんに挨拶をした
『うん、おはよう』

砂糖さんは開口一番あもんに言った
『で、今日も跳ねるよね!』
『はい、跳ねます!』

と思わず返事をしてしまったあもんに
砂糖さんはニコッと笑った


あもんは結局、今日もねぶた衣装に袖を通した


$あもん ザ・ワールド





ねぶた経験も2日目になると少しは慣れてきて
あもんはハネトをもっと楽しめるようになった
昼間にはぐうたらしていたみんながこの時に一気にパワーを爆発させた
誰もが筋肉痛のはずなのにやけにハイになっており
人間の潜在的M感性に誰もが気づくようになる
『ラッセラー』と言えば『ラッセラー』と返し
昨日ハネた仲間とどんどん距離が縮まってくる気がした
ハネトが跳ねるほどねぶたは高揚してくるような気がして
この祭りに参加していることが誇りとさえ考えるようになってしまった
しかも何より楽しい
応援団で情熱の温度を知ったあもんはこの温度が堪らなく好きであったのだ
今までの大学生活で足りなかったもはこの情熱なのだろう
どこかでクールを演じているあもんがカッコイイと勘違いしてることに気がついた
“馬鹿で熱い人間”それが人を惹きつける要素であると忘れていた気がした




$あもん ザ・ワールド




$あもん ザ・ワールド






続く