さくらんぼとふたりんぼ 2~あもん史 妄想編~ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



あもんは北海道へ上陸する前に
青森フェリーターミナルに寄り道をしていた

夕方になると青森フェリーターミナルはソワソワし始めていた
みんながテントから出てきて衣装に着替え始めたのだ
あもんが入った集団にはハカセの他に多くの旅人がいた
ねぶた歴6年という気合いの入っている砂糖さん
髭面にサングラスという怖面のシンさん
迷彩服に長髪パーマを結んでいるフクさん
又、同じ年の森ケンにチャチャイにニョウイ
その他大勢、見るからに怪しいみんながこのサークルに集まっていた
新人であるあもんに対しみんなは快く受け入れてくれ衣装の着方から教えてくれた



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『で、ハネトって何をするの?』
あもんはハカセに聞いた
『ねぶたが市内を巡回するんだけど、その後ろで跳ねるんだ』
『ラッセラーラッセラーってね。ひとつのパターンがあるから、一回やってみると分かるよ』
『エンドレスに続くから体力使うけど、一種のハイ状態になれるんだ』
『楽しいし気持ちいいよ!』

あもんはよく分からなかったがなんだか楽しいということだけは伝わった


そうこうしているうちに出発の時間となった
みんながバイクに乗って入口で一列に並び始める
『えっ!この格好でバイクで行くの?』
『そうそう!みんなでねぶた会場までツーリングするんだ』
『毎年やってたら結構有名になっちゃって、“ハネトライダー”って呼ばれるようになったんだ』

100人を超えるハネト衣装を着たライダーが集まった
先頭の合図の元、バイクは徐々に動き始めた
あもんは今まで多くのツーリングをしてきたのだが、仮装をしたツーリングは初めてだった
足元は足袋でシフトをあげるのが痛かったが着物の中に入る風が気持ち良かった
風で靡くタスキが一直線に並びそれぞれのバイクが楽しそうに走っている
ハカセとチェリーは二人乗りをしてあもんの隣を走っていた
チェリーは笑顔満タンであもんに手を振り『気持ちいいネ~』と叫んでいた
大きな橋に差し掛かった時そこには多くのギャラリーが待ち構えていた
そのギャラリーに手を振るモノ、ガッツポーズをして立ち上がるモノ
多くのカメラにハネトライダーは納まれていった


青森市内に着き指定されたバイク置き場に停めた
パレードの傍まで歩いていきそこで一旦、待機をした
すると、ひとりのハネトがみんなに叫んだ
『よ~し、みんな!今日も跳ねるぞ!』
その男はひとりで叫び始めた


『ラッセラーラッセラー、ラッセラッセラッセラー』
『ラッセラーラッセラー、ラッセラッセラッセラー』


すると周りにいたみんながいっせいに左右に跳ね始めた
そして大きな掛け声が響き渡った
『ラッセラーラッセラー、ラッセラッセラッセラー』
『ラッセラーラッセラー、ラッセラッセラッセラー』

その輪は徐々に大きくなっていき、ひとり又ひとりと跳ねながら叫び始める
やがてそのかけ声はひとつとなり大きな輪ができ始めた
『よし!あのねぶたの後ろじゃ!みんな行くで~~』
リーダーのかけ声によりあもん達はねぶたの後ろに着いていった


その時、あもんは生まれて初めてねぶたを見た
立体的に描かれたねぶたの迫力で心臓がドキドキした
それはまるで燃え上がるがごとく赤い色をしていた
十数人に担がれたねぶたはゆっくりと進んでいった
“威風堂々”この言葉がねぶたにはピッタリであろう
恐れも無く己の全てを全身に現わし静かに勇壮に進むねぶた
その後ろをあもん達ハネトが歩いている
太鼓が拍子を刻み続け、囃子が絶えず音色を奏でていた




ここであるハネトが笛を吹き始める
その音色は鋭く繊細に響く
『ピーピピ、ピーピピ、ピーピピ』
その音色はハネトの気持ちを鼓舞するかのように鋭く耳に刻まれた
しばらくして、笛は変化をみせる
『ピーーーーーーー』
その音を合図にハネトは足を止め即座に輪を創った
一瞬、時が止まり静寂が訪れる
みんながひとつの輪になりお互いの顔を見渡した
あもんがぐるりと顔を見渡したその時である
ひとりのハネトがその輪の中心に飛び出してきた
そのハネトは輪の中心に着くか否かで大声で叫んだ
『ラッセラーラッセラー!!』
そのかけ声を合図に輪になったハネトは一体となった
みんなが一斉に跳ね始め一斉にかけ声を返すのである
『ラッセラッセラッセラー!!』
すかさずリーダーはかけ声を返す
『ラッセラーラッセラー!!』
みんなもすぐさまかけ声を返す
『ラッセラッセラッセラー!!』


そしてハネトはそのままの状態で威風堂々であるねぶたの後を跳ねながら進んでいく
このかけ声はエンドレスである
輪の中心になったハネトの声が出なくなるまでエンドレスなのである
“狂喜乱舞”この言葉がハネトにはピッタリであろう
男も女もぶつかり合いながら乱舞する
ここに“他人”という境界は無い
会った事も無かった、そてて今後会うことも無いであろう人と人が
同じねぶたのもとで跳ねている
そこで生まれる仲間意識は通常の生活では味わうことができない
人が人として楽しみを共有する
ただ楽しければいいのだ
過去の苦しみや悲しみはどうでもいいのだ
今が、この瞬間が気持よく、そしてそれを共有している人が隣で叫び跳ねているだけで
この世の幸せを味わえた気がした










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鋭いねぶたの眼は怒りの表情をしているが
それがあの時のあもんを呼び醒ましてくれた
そう、あの海田高校応援団のあもんである
何の見返りも求めず、ただ必死に叫んでいたあの頃
我の為ではなく朋の為に尽くした応援
その先には堪らなく気持ち良い達成感があった
ハネトは応援に似ている
己の限界に挑戦しその先に見える真っ白な世界
ねぶたにもその世界があると思った



『ラッセラーラッセラー!!』
『ラッセラッセラッセラー!!』
『ラッセラーラッセラー!!』
『ラッセラッセラッセラー!!』







あもんはハイになった
ハイになったその後に灰のように疲れた

そしてあもんは見つけたのであった
応援団に続くあもんの情熱の矛先を
青森ねぶたでみつけたのであった



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続く