セブンの女 17 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1994年から1995年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします




『なぁなぁあもっちゃん!ぶち、ええ曲見つけたんや』
『ミスターチルドレンって知っとる?』

あもんの同級生であるモリモッチが言った
『ぶちええで~夏にようけCMで流れてたし』
『はぁ?よう知らんの~』
あもんは答えた
『相変わらず、あもんは流行に疎いの~こいつらは絶対に有名になるで!』

『まぁまぁ聞いてみ~』とモリモッチはカセットをCDラジカセに入れた






『ふ~ん、なんか弱っちい曲じゃの~』
『イノセントってなんや?よう分からんわ~』
『ワシもよう分からん』

意外にもテキトーなモリモッチである
『じゃけど、ワシの住んどる向島の隣に因島ってあっての~』
『そこにぶち、ギターがうまい同級生がおったんじゃ』
『文化祭で演奏しよったの聞いたけど、あいつらも絶対に有名になるで!』
『今は大阪に行ってポルノなんちゃらってバンド名で活動しよるらしい』
『ポルノ?危ない名前じゃの~』

後に“アポロ”という曲で一躍有名になったポルノグラフィティは
もうすでに地元では有名なバンドであった
瀬戸内の小さな島から夢を見て出ていった同級生をあもん達は羨ましく思っていた


大学生というのは時間が余るほどある
しかし、その時間を有効に使いきる若者は少なく
麻雀やパチンコやナンパに明け暮れる大学生は多かった
あもんの場合はバイクという格好の遊び道具を持っていた為
余っていた時間をバイクと共に過ごしていた
しかしたまに“ぽっかり空いた時間”ができる
その空白の時間をしっかり堪能するほど大人にはなっていなかった



『モリモッチ、それより、この曲はどうじゃ?』
『イヤホンで聞いたらぶち、燃えるで!』

あもんはお気に入りのCDをかけモリモッチに聞かせた
14分に及ぶこの長い曲をモリモッチは熱心に聞いた
『うぉぉぉおお~ぶちスゲ~もうこれ歌じゃ無いじゃん!』
『なんか最近流行ってる“修業をしろ修業をしろ”っていう宗教みたいじゃな~』
『お前がやれ!お前がやれ!お前が舵を取れ!お前が決めろ!お前が決めろ!生きて!生きて!生きて!』
『あはははは!』

モリモッチは徐々に興奮してきた





曲を聞き終わったモリモッチは素朴な疑問をあもんに投げかけた
『じゃけど、お前がやれって言われても、何をすればいいんじゃろうか?』
『さぁ~』

あもんはその問いには答えられなかった
あもん達の受けた教育にはその答えを教えてくれる先生はいなかった
その多くは抽象的で何をどうしてどうやればいいかなんて教えてくれる人はいなかった
ある結果に導くのが教育というものであるが
その道しるべを全て定めるのは教育では無い
“この道を通りましょう”という教育はむしろ強要といえるであろう
“人生や運命や愛”などという存在感のない物体には多くの道筋があった
それが正しいのか間違っているのか?
それは誰も教えてはくれなかったのだ



『のう、あもん、お前はスミ子の運命を背負えるか?』
あもんは先日、シンジさんに言われた言葉が頭から離れなかった
あもんは考えても考えてもその答えを導くヒントさえも見つからなかった
運命って何なんだ?
そんな問いがあもんを不眠に陥れ遂には迷宮に迷い込む
運命って何だと思う?
そんな問いを同級生にすることはなかった
その上、そこまで運命には興味がなかったのだ
あもんは急にこの部屋が息苦しくなっていった
今ある環境に!あもんを囲む人間たちに!息苦しくなっていった
逃げだしたい!楽しい事だけをしたい!
もう何もかも嫌になったその時
あもんはアンチさんの元へ行く



『アンチさん!』
『ツーリング行きましょうよ~』
『おう、ええで~』
『次はどこ行く?』




あもん ザ・ワールド


あもん ザ・ワールド


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あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド


あもん ザ・ワールド


この時のあもんにはバイクだった
スミ子では無くバイクだった
あもんのイノセントワールドはバイクで走ることだったのだ
お前が決めろ!と言われて決めたのは
バイクで走り遠くへ行くことだったのだ


あもんはようやく20歳の誕生日を迎え大人になった
しかしこの時、スミ子の運命を背負えるほどの男ではなかったのは事実だった



続く