セブンの女 16 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1994年から1995年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『おう、ここじゃ』
シンジさんはスナック“セブン”のドアを開けた
『ここはワシの母ちゃんの店での~スミ子が働いとった店じゃ』
『えっそうなんですか!』

あもんは一度もスミ子の働く姿を見たことがなかった
『へぇ~あんたがあもん君ね~』
この店のママであるシンジさんの母が話しかけてきた
『スミ子がやめて商売があがったりじゃ~あの子ようモテとったけんね~親父にばかりじゃけど』
『あもん君があんたならウチも安心じゃ~』
『スミ子もやっと幸せになれるような気がする』

ママは水割りを作りながらあもんに話しかけた
『やっとって、スミ子は不幸だったのですか?そんな素振りは見せんけど…』
『女の幸せはね~男によるんよ~ねぇ!シンジ!しっかりしいや!』
『うるさいの~あっち行っとけや!ワシはあもんと話があるんじゃけん』

シンジさんはママを追いやった



『ほんで、あもんは京やコージやカズとも知り合いらしいの~』
『はい。京ちゃんとバイト先で知り合いまして、それから仲良くなって遊んでますわ』
『ほうか!あいつらはワシの後輩じゃけんの~あいつらにバイクを教えたやったのはワシなんじゃ』
『中でもコージは気合が入っとたけん、ワシの跡を継がせたんじゃ』
『結局はあいつが解散させてしもうたけん、ワシとコージの2代で終わってしもうたけど』

あもんの予想通りシンジさんはバッドボーイズであった
シンジさんはこの街で族を結成し精力的に組織を大きくしていった
何度かの抗争もありその結果、足が片方義足となった
かねてから目をつけていたコージに跡を継がせコージの尻持ちをするようになった
族が無くなりようやく落ち着いてシンジさんは不動産関係の仕事をしているらしい
『で、コージはなんで族を解散させたんですか?』
あもんはコージ自身が口を濁す疑問をシンジさんに聞いた
『そりゃ~あいつなりにケジメをつけようとしたんや』
『スパッと解散させた時はカッコえかったけどの~それからが腑抜けになってしもうたんじゃ』
『ケジメって?』









『ん、あいつは子供をつくったんじゃ』
『あもん、お前、まだ知らんのんか』
『何を?』








『コージとスミ子はつきあっとったんで、ほんで、子供作って…』
『スミ子は子供おろして、二人は別れたんじゃ』




『えええ!』
あもんは驚きを隠せなかった

あもんの知らない街であもんの知らない過去がある
新参者あもんを快く受け入れてくれたこの街の仲間達
だが、その輪には深い深い過去があったのだ
しかし何故、その仲間達はこの深い過去を話してくれなかったのだろう
過去を語るほどの仲間にはなっていなかったのだろうか

しばらくして、あもんは無口になった
















シンジさんはドスの聞いた声であもんに迫った
『のう、あもん、お前はスミ子の運命を背負えるか?』
『お前はスミ子を幸せにできるんか!?』



その時、スナックのドアが開いた
『やめて!!』
そこにはスミ子が立っていた
『もう!シンジ君!いらんこと言うたらいけん!』
『ウチが自分であっくんに話すんじゃけん!いらんことせんのんよ!』

スミ子は涙を浮かばせながらシンジさんを怒った
『じゃけど、このことはいつかは知らせんといけんで!』
『好きになった人なら全部話さんといけんで!』

シンジさんはまるで妹をいたわるかのようにスミ子に言った
『わかっとる、わかっとるけん、でもそれは自分で言うけん!』
『あっくん、行こ!』

スミ子は強引にあもんの手を引っ張り店から出た
シンジさんは何も言わず追いかけても来なかった















外は霧雨が降っていた
あもんとスミ子は雨に濡れながら向かい合った
『スミ子、お前、不幸だったのか?』
あもんはスミ子に尋ねた
『うん、何度も何度も泣いたの…いっぱい泣いたの…』
『ウチね、コージとつき合いよったんよ。コージがバイクに乗り始めてから』
『ぶち、好きだったけん、子供ができたことは後悔しなかったんよ』
『でも、そん時、お父さんが死んだんよ』
『事故や病気とかじゃないんよ、酔っ払って家の前の農業用水路に落ちてね』
『すぐに救急車呼んだんじゃけど、だめじゃった…』
『…いっぱい…いっぱい…泣いた…』
『そしてウチは命って呆気ないね…と思ったんよ』
『そしたら…この子を産むのが怖くなったんよ』

雨足が次第に強くなっていった
冷たい雨がスミ子の涙を隠していた
『コージはそん時なんて?』
『そうか…ってだけしか言うてくれんかった…』
『お互いに若かったけん、よう分からんかったんよ』
『家はお父さんのことで落胆しとるし、結局、誰にも相談せずに自分で病院行った』
『そして、また…いっぱい泣いた』
















『ねぇ、あっくん、ウチを嫌いになった?』
スミ子は少し震えているようであった
寒さなのか怖さなのか分からないが俯きながらあもんに尋ねた
あもんはスミ子に答えた
『なんで?嫌いになるん?』
『えっ』

スミ子はあもんを見つめた


















『オレは昔のスミ子を好きになったんじゃない』
『出逢った時のスミ子を好きになったんじゃ』
『今日は話してくれてありがとうな』
『明日はきっと今日よりスミ子を好きになっとる思うで』

あもんはスミ子の手を握った
『さぁ、もうお話は終わりじゃ』
『風邪引くけん、帰ろうか』

あもんはスミ子の手を握り歩いた






それから、あもんは
スミ子の手を目覚めるまで握っていた


続く