セブンの女 10 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1994年から1995年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


京ちゃんは結婚準備に追われていた
よって、今までみたいに夜な夜なあもんと遊ぶことも無くなっていった
変わりにあもんはコージとグリーンラインで遊ぶようになった

『あもん、インチアップしたらやっぱ違うで、コーナーの食い付きが変ったわ』
車を運転したことの無かったあもんはイマイチ分からなかったが
車をキャピキャピしながら運転するコージの無邪気さが好きであった
毎日車屋で働き、週に4日バーテンの仕事をして、それ以外はハチロクに夢中なコージであった

『なぁ、コージ、お前は彼女とかおらんのん?』
『彼女か?ワシは女を乗っけて峠を攻めんタイプじゃ~キャーキャー言う女は苦手じゃけぇの~』
『そういうあもんも彼女はおらんのんか?ジャニーズ系の顔しとるけん、女子大生にモテルじゃろ』
『ジャニーズとか言うなや!それにワシもキャーキャー女は苦手じゃ』
『それに1年前に大失恋したけん、なんかどうでもよくなっての~』
『そうか!あもんもワシと一緒なんか!ワシも一年前に別れたんじゃ』
『あはははそうか!イケメン二人がフラレまくりじゃな~』

その時、ハチロクの後ろでパッシングが起こった
完全に煽りである
いち早くそれに気付いたコージは

『おおっまた、こいつか!』と言った
あもんは振り向いて車を確認した
それは真っ赤なRX7であった

『FC3S型でツインターボじゃで、ぶち速い車じゃ』
コージは少し興奮気味に言った
『数週間前からよう見るようになっての…いつもワシに仕掛けてくるんじゃ』
『じゃけど、こいつよう乗り切れとらんで、いつもワシが振り切るけどの~』

そう言ったコージはアクセルを開けた
『おっぃ!飛ばす前に言わんかい!頭ぶつけたじゃろうか!』
『あははは、すまん、すまん、じゃぁ、あもんちょっと無茶するで!』
『こりゃ~無茶すんな!ワシはまだ死にとうないわい!』
『あははは!キモチええの~あもん!死ぬ時は一緒じゃ!!』
『うぉぉぉぉおおおおっー』

あもんの叫び声がグリーンラインに響き渡った





『はい。手洗い洗車ですね。すぐやります』
あもんはあるお客さんの接客をしていた
マフラーを変えていたアルトワークスが彼女の車だった
キグナス石油の近くに住む彼女はスミ子と言った
最近よく手洗い洗車にやってくる


『なぁなぁ、このバイクあもん君の?』
スミ子は洗車するあもんのそばに来てあもんに話しかけた
『はい。そうですけど、バイクに興味があるのですか?』
『もう!なんで敬語なん!あもん君って74年生まれじゃろ~ウチと同い年じゃけん』
『えええぇ~ずっと年上かと思っとった!』
あもんは答えた
スミ子はいつも化粧をしてこの店に訪れあもんの同学年の福大生とは違う匂いがしていた
髪はセミロングでほのかに茶色い
少し俯き加減にしゃべる癖があるみたいであった

『で、なんでオレのこと知っとるん?』
『うん、京ちゃんに聞いた。京ちゃんは昔から知っとるけんね』
『そうなん!松永の町はちっちゃいな~』
『で、学生?いや違うよね~』

あもんは少しずつスミ子に興味が湧いてきた
『え、学生っぽくない?うん、正解。近くのスナックで働いてるの』
『セブンっていうお店よ』
『へえ~じゃけ~か~福大女子大生とはちょっと違うと思うたわ』
『何?何?何が違うん?どんな風に見えるん?』
『えっ、それは秘密じゃ』

あもんは段々とスミ子と話すのが恥ずかしくなっていった
『なんね~意地が悪いんじゃね!フフフ』
分かりやすいあもんにスミ子は笑い始めた

『なぁなぁ、今度、そのバイクの後ろに乗っけてくれん?』
『キモチ良さそうじゃもん!』

恥ずかしがり屋のあもんは加えて驚いたがその表情こそはスミ子に見せまいと努力をした
『えっ、ええけど、じゃぁお店休みの日はいつなん?今時期は夜がキモチいいで!』
洞察力がするどいスミ子はそんなあもんを見てしばらくクスクス笑っていた
約束の日を決めスミ子は『あっくん~バイ~バイ~』と言ってアルトワークスを走らせた
あもんはスミ子とツーリングに行くことにした

『バイク乗ったことあるん?』
あもんはスミ子に聞いた
『いや、原付ぐらいしかないよ。バイクは昔から見よったけど』
『もしかして、スミ子も京ちゃんと一緒の族だったん?』
『違うよ~ウチも昔は可愛らしかったんじゃけんね~』
『あっ、今もよね、ね!あっくん!今もよね!ね!』

返答に困ったあもんを見てスミ子はまたクスクスと笑い始めた
スミ子は可愛らしいタイプと言うよりかは綺麗なお姉さんタイプであった
しかし人懐っこいこの性格をぶつけられると可愛らしさが一気に宿る
しかも笑った時に見える少し控えめな八重歯がお姉さんタイプを変貌させるのである


あもんはバイクで尾道へ向かって走り始めた
尾道は隣の市であり松永からは福山市内より近いところにあった
尾道市街は狭い海峡に面しておりこの海峡をその狭さから尾道水道と人は言った
尾道水道の向かいには向島という島がありそこへ行くには
小さなフェリーに乗るか尾道大橋を渡るかであった
向島の先には因島という島がありそこにも橋が架かっている
その橋の向島側橋下が若者たちのデートスポットでもあった
ライトアップされた橋と穏やかな瀬戸内の海が
カップルでじっくり話すのに良いロケーションだったのであろう
あもんはそこに向ってバイクを走らせていた


この時、あもんはブレーキをかける度にあることに気付いた
ブレーキをかける度に後ろに乗っているスミ子の体重があもんにかかり
背中にほのかな感触を味わうことができたのだ
スミ子はどうやら着痩せするタイプで意外にもふくよかの持ち主だったのである

Tシャツ姿のスミ子は
『キモチいいね~』と言いながら楽しんでいた
『そうじゃね~』とあもんは全身に風を受け背中にふくよかを受け楽しんでいた


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夜の橋の下についたあもんとスミ子はバイクを降りた
『はぁ~気持ち良かった~ウチこの潮の匂いが好きなんよ』
そう言ってスミ子は堤防の上をスキップし始めた
暗がりで良くは見えなかったがスミ子は八重歯をちらつかせていると思った

『なぁなぁ、あっくん、こっちに来なよ~一緒に波の音聞こう~』
あもんはスミ子の隣に座った
このポジショニングはあもんの動揺する顔がバレないため良いポジショニングである

『よく、お父さんがここに連れてきてくれたんじゃ~』
『えっ、そうなん!偶然じゃね~』
『そうそう、じゃけぇビックリしたんよ。何で知っとるんって!』
『ウチ、お父さん大好きじゃったんじゃ~今は死んでおらんけど~』
『えっ、そうなん!』
『微妙にあっくんお父さんに似とるし!フフフ』
『えっ、そうなん!』
『フフフ、あっくん、さっきから“そうなん!”しか言ってないし~』

驚きの連続であるあもんはこのデートが昼で無かったことが助かったと思った
しかし、これは完全にスミ子ペースになっている
あもんはどうにか自分のペースにしなければと話題を変えた

『尾道大橋ってもう一つ橋が架かるって知っとる?もう数年後にはできるらしいで』
『なんか“しまなみなんちゃら”って言って四国まで高速道路で繋がるらしい』
『え~~なんで二つも架けるん?』
『ひとつは自動車専用道路になってひとつはチャリや原付なんかが走るんじゃないんかな』
『ふ~ん、じゃぁ渡船が無くなっちゃうのかな?向島の子ってみんな乗りよるのに』
『う~ん、よう分からんね』
『フフフフ、あっくん、実は良く知らんのんじゃろ~あもんの中途半端ウンチク~フフフ』

どうやら今日のあもんはどう応戦してもスミ子には勝てないみたいだ
こうなったらもう黙りこむしかない
黙り込んで“渋いあもん”を見せるしかないと思った


『あっくん、そんでね~』
スミ子は俯きながらすぐに話題を変えた
『ん?』
『あっくんって、彼女おるん?』
『いや、おらんけど…』
『そう、ウチも彼氏おらんのんじゃ~』

そう言うとスミ子は勢いよく下からあもんを覗きこむように顔を近づけて言った










『じゃぁ、ウチら、丁度いいネ』



『ね、あっくん』



『そうじゃね~丁度いいネ』
とあもんはスミ子の目を真面目に見つめて言った











あもんはスミ子と付き合うことを決めた
あもんはスミ子に惚れてしまったのだった






続く